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梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第一章

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第33話 弱っちモリッチ


「ホント、心配したんだからね!」


 梢社長が涙を浮かべながら、僕の両肩をがっしりと掴んでくる。


 一階層のダンジョンボスをなんとか倒した僕とオフィーは、現れた魔法陣に飛び込み、大樹の脇にある小屋へ戻ってきていた。


 奥に進むには魔法陣を無視して階段を下りる必要があるらしいが、僕の疲労困憊ぶりを見たオフィーが、渋々帰還を許可したのだ。


 ——いやいや、自分でもよく頑張ったと思う。

 でも、本当にあれ以上は無理だった。


 帰還した僕たちを出迎えたのは、泣きじゃくる梢社長と、サンドイッチを頬張るサブリナだった。


 今は、梢社長が目の前で涙ながらに声を荒げている。


 ちょっと目が潤んでいて、その姿を見たらなんだか本当に申し訳ない気持ちになってくる。


 一方、社長の後ろで腕を組んでいるサブリナは、神妙な顔つきでウンウンとうなずいているように見える。

 が、その口元には明らかにニヤニヤした笑みが浮かんでいた。


 ——こいつ、楽しんでるな。そーいうとこだぞ!


 オフィーが梢社長を、なだめるように僕の前に出た。


「セーシア、悪かった。こいつを連れ出したのは私だ。本当に申し訳ない」


 彼女は丁寧に頭を下げながら言う。


「でもな、森川はもう会社の一員だ。先輩として教育しなければならない。こっちの世界でいう研修みたいなものだ」


「そんなこと言って! 森川君はまだ弱っちいんですから、死んじゃったらどうするつもりだったんですか!」


 ——弱っちいって‥‥‥。


「セーシア、お前が過保護すぎると、いつまでも弱っちいままだぞ」


「あのー‥‥‥」と僕。


「だからって、弱っちい子をいきなりダンジョンに連れてくなんて! やりすぎでしょ!」


「それを言うなら、甘やかすのもやりすぎだ」


「あのー!!」


 ついに耐えきれず、僕は声を張り上げた。


「社長! 勝手なことをしてすみませんでした。それと、心配してくれてありがとうございます。それから……オフィーリアさん」


「オフィーだ」


「オフィーも、僕みたいな弱っちい奴を鍛えてくれて、本当に感謝しています」


 僕の言葉に、二人は一瞬俯き、シュンとした表情を浮かべる。


 すると、後ろで様子を見ていたサブリナが、軽い口調で言った。


「まぁ、なんだ。弱っちモリッチが少しでも強くなったなら、結果オーライってことでしょ?」


——サブリナ、()()()()()()()って嬉しそうに言うな!


「それで? こいつの守護精霊のありかは分かったのか?」


 オフィーがサブリナに問いかける。


「あたりはつけたよ。この前、モリッチに電話をかけてきた番号を追跡してね」


「で、そいつは誰なんだ?」


「誰かまでは分かんない。でも場所は特定済み。ここ!」


 サブリナがモニターに映し出したのは、都心の一等地にそびえる超高層ビル『ハイエンドタワー』だった。


「なんで、こんなところに?」


 僕がぽつりと呟く。すると、オフィーが続けて訊ねる。


「どんな場所だ、ここは?」


 オフィーがモニターを覗き込み、サブリナはストリートビューを操作してタワーの外観を映し出した。


「これは……ダンジョンか?」


「まあ、そうともいえるネ」


 ——言えねーよ!


「高さ286メートル、60階建て最新のインテリジェントビルだよ」


「60層か、大したことないな」


 ——60()、ですけどね。


「問題はさ、このビルのセキュリティー。最新のシステムでがっちり守られてるんだよね」


「それがどうした? こっちは盗まれた物を取り返すだけだ。正面から堂々と入ってやる」


 オフィーが剣に手を掛ける。


「ちょいちょい! そりゃあ、こっそり忍び込む必要はないかもだけど、あんまり大っぴらにやると、後々めんどくさいんだよ!」


「ま、その辺はなんとかしましょう! 神戸君に話しとけばなんとかなるでしょう」


 梢社長が考え込むように言った。


 ——神戸…、あの男か。継続治安課だっけ?


「あいつか、やな奴に借りを作っちまうな」

「だねー」

 オフィーとサブリナが同時に呟く。


「あのー、基本的な質問で恐縮ですが、そもそもあのブレスレットってそこまで大事なんですか?」


 僕がそう訊ねると、三人がぎょっとした顔でこちらを見た。


「お前、自分の守護精霊を盗まれておいて、まだそんなことを言うのか?」


 オフィーが胸ぐらを掴み、吠える。


 思わず僕も言い返した。


「だから、その守護精霊ってのが何なのか分からないんですって!」


「説明してなかったもんね」


 梢社長がチーンと鼻をかんでから、話し始めた。


「あのブレスレットには、森川君を守る契約精霊が宿っているの。大樹に集まった精霊たちの中でも一番若い精霊だよ」


「契約精霊って?」


「うーん、なんて言えばいいのかな……こっちで言うと、相棒とかパートナー、バディみたいな存在かな」


 梢社長は少し言葉を選ぶような間を置いた後、続けた。


「契約精霊って、一生付き合うものなのよ。それがいなくなるってことは……」


 そこまで言って、梢社長は言葉を濁す。その顔には、事の重大さが色濃く浮かんでいた。


 ——いなくなるってことは?


「寂しくなるってこと‥‥‥」


「‥‥‥?」


「じゃなくて!」

 オフィーが勢いよく声を上げ、梢社長の発言をフォローする。


「お前の分身がいなくなるのと同じだぞ!」


 ——そういや、左手なくなりかけたっけ‥‥‥。


 そのときの痛みや恐怖が脳裏にフラッシュバックする。


 僕の命だけじゃなく、魂まで奪おうとしていた――そんなの、許せるわけがない。


 怒りがふつふつと噴き上がってきた。


「ぜってー許さん。ギッダギタにしてやる」




お読みいただき、ありがとうございます。

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