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第182話 分断されて


「湧き出すのは止められても……こいつら、今いる分だけでキツいな。全部倒せるのか?」


 僕は梢社長と背中合わせになりながら、空を舞う小型ドラゴンを見上げた。

 さっきダンジョンコアを破壊したときの達成感なんて、とっくに吹き飛んでいる。

 

 ――コアを潰して「やった!」って思ったのに……現実は甘くなかった。


 増援は止まっても、残っている奴らの機動力が高すぎて、照準がまったく追いつかない。


 しかも、僕らは分断されたままだ。

 

「森川君! 右から来るよ!」


 梢社長の声と同時に、ドラゴンが翼をたたみ急降下してくるのが見えた。

 僕は咄嗟に飛びのき、なんとか爪は避けたが、頬をかすめられた。


「いってぇ……!」


 口の中に血の味が広がる。単発でも、着実にダメージが蓄積されていく。

 

「アストラバレット!」


 社長の光弾が翼に命中。だが奴は体勢を立て直すと、すぐさまビルの陰へ逃げ込んだ。


「速すぎる……大型とはまるで別物だね」

 社長が首を振る。

 

「グリー、援護頼む!」


『うっせーな、言われなくてもやってるっつーの!』


 グリーは僕の肩で両手を忙しなく動かしていた。


――そのとき、ツバサさんの悲鳴が聞こえた。


「きゃあああっ!」


 振り返ると、ツバサさんが必死にウィンドスラッシュを放っていた。

 だがドラゴンはその動きを読んだように回避し、距離を詰めてくる。


「ツバサちゃん、大丈夫!?」


 詩織さんがモップの柄を振り回しながら走り寄った。

 

「詩織さん……やっぱり無理かも……」


 「なに言ってんの! あんた魔法使いでしょ!」


 ドラゴンはすぐ目の前。口に炎を溜めながら迫ってくる。


「で、でも……私の魔法なんてまだ……」

 

「“まだ”じゃないでしょ! この前、畑で野菜育てた魔法、めっちゃすごかったじゃん!」


 ――いや、あれ魔法じゃないし……


 でも、不思議と力が湧いてくる。

 詩織さんの言葉が、心に火を灯した。


「ツバサは、ニチアサヒロインみたくなるんでしょ!」


「……そうですね!」


 ツバサは深呼吸し、両手を前へ差し出す。

 青白い魔力が指先に集まり、光がにじみ出す。まだ不安定。でも、今は撃つしかない!

 

「ファイアーボール改め、ファイアーウォール!」


 火球が横に広がり、炎の壁が敵を包む。

 熱に焼かれたドラゴンは、あっさり墜落した。


「今です、詩織さん!」


「任せなさい!」


 詩織が駆け出し、モップの柄を高く振り上げて――


 バシン!バシン!バシン!


 痛快な音が響き、その一撃がドラゴンの頭部を次々に叩き潰す。


「やったね、ツバサちゃん!」


「はい……詩織さん!ありがとうございます」


 ふたりは目を合わせ、微笑んだ。

 

 ……でも、束の間だった。


 ゴウッ、と羽音が鳴り響く。

 まだ、戦いは続いていた。


▽▽▽


 別の場所、大樹卿は二体のドラゴンを前に構えていた。


「ふむ……小さいが、侮れんな」


 落ち着いた様子の大樹卿は、冷静に相手の動きを見極める。


「左翼の動きがわずかに遅い……そこだ!」


 青い光弾が放たれ、ドラゴンの急所を正確に射抜く。一体が地面に墜落。もう一体は警戒して距離を取る。


「経験の差というものだな」


 そう言いつつも、大樹卿の額には汗が浮かび、呼吸も荒くなっている。

 持久戦は、分が悪い。


▽▽▽

 

 再び、僕と梢社長の前でも――


「森川君、このままじゃジリ貧だよ!」


「わかってます! でも……!」

 

 仲間たちの顔が浮かんだ。オフィー、ツバサさん、大樹卿――

 みんな、戦ってる。でもバラバラで連携もない。

 

 ――どうすればいい……?


『おい森川!  センチメンタル禁止!』


「うるせぇ! 今ちょっと感情が大事なとこだったんだよ!」


 グリーのツッコミに現実へ引き戻される。

 そのとき、三体のドラゴンが一斉に迫ってきた。


「ちっ……!」

 

 拳を握りしめる。今は考えるな。叩き潰すだけだ!


 空から次々と飛来するドラゴン。

 各地で仲間たちはそれぞれの戦いを続けている。

 

 バラバラでも、皆が確実に強くなっている。


 でも、敵は……想像以上だ。


 ――本当に、勝てるのか?



▽▽▽

 

 一方その頃、神戸たちのチームは街の中心部にいた。

 

「もう大丈夫そうですね」


 神戸は、ちらりと腕時計を見る。時刻は10時を少し過ぎた頃。

 

「街中の掃討は、ほぼ完了しました」

 矢吹が警戒棒を握ったまま報告する。


 ――あとは、梢ラボがドラゴンを片付ければ……

 

 神戸がホッと息を吐いたそのとき。

 

 カチャカチャ……暗闇の奥から、何かが駆ける音。


「なんだ、この音は……?」

「なんでしょう?」


 矢吹が身構え、スタッフたちも視線を向ける。


 街灯の消えた通り。その向こうから、音が迫ってくる。


 そして、暗闇から飛び出してきたのは……


「ちっさ……!」

 

 ネズミのような体にドラゴンの顔。

 ドラゴン型の小型獣たちが地を這うように突進してきた!


「くっ、なんなんだこいつらはっ!」


 刀を抜き、迎撃に入る──


 が、数が多すぎる。小さくても、素早くて、手がつけられない!


「キィィィ!」



 しかも、小さいくせに素早く、部下たちへ次々と襲いかかる。


「キィィィ!」

 

 一体が頬をかすめ、鋭い爪痕を残す。

 

「神戸さん、上です!」


 見上げると、小型ドラゴン三体が編隊で急降下。

 神戸はすかさず一体を斬り裂くも、残りが両側から挟み撃ちを仕掛けてきた。


 そのとき。


「手こずってるじゃないか」



 白いスウェット姿の少女が屋上からふわりと舞い降りた。

 赤髪をなびかせ、にやりと笑う――オフィーリアだ。


「剣持さん……?」


「オフィーでいい。まだ終わっちゃいないよ」

 

 剣を構えると、オフィーは一気に跳躍。

 空中で回転しながら、剣先に風を纏わせた。


「ウィンドスピア!」


 竜巻のような風圧が、小型ドラゴン二体を包み込み、ビルの壁へと叩きつける。


 ドガァン!


 コンクリートが砕ける爆音が、周囲に響き渡った。



「……さすがですね」

 

 神戸が息を呑むと、オフィーは振り返り、堂々と答える。

 

「当然。私はドラゴンキラーだからな」

 

「今さら自慢しなくても知ってますって。……てことは――あれもドラゴン?」

 

 と、隣に立つ矢吹がビルの陰を指差す。

 

 そこから、新たな“ちびドラゴン”たちが、ぞろぞろと姿を現した。

 

「話はあとだ。まずこいつらを殲滅するよ!」


 オフィーが大剣を抜き放つ。

 口元を、楽しげに吊り上げた。

 

 ――この闇夜は、まだ終わらない。


 

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