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第174話 駅前騒乱


「詩織さんは、お二人とお知り合いでしたか?」

 隣に立つドン殿下が小声で聞いてきた。

 

 私は頷いて答える。

「このあいだの旅行で一緒だったから」

 「そうでしたね」と、彼はにっこりと笑った。

 

 クリスマスのイルミネーションが煌めく広原駅前。

 キラキラと光が舞う幻想的な風景の中、しかしその場には場違いすぎる存在がいた。


 ――異形の魔獣たち。


 赤や金に彩られた飾りの下、血の匂いをまき散らしながら、黒く蠢く影が闊歩する。

 美しいはずの夜景が、今や地獄絵図のように塗り替えられていた。

 

 そんな中、凛とした声が響く。

「最もこの風景に似合わぬ者どもが、浮かれおって――」

 

 杖を掲げながら、のじゃ口調の美少女が楽しそうに笑っている。

 そう、彼女こそ大樹卿――見た目は幼女だが、異世界からきた大樹の重鎮である謎多き存在だ。

 

「浮かれてるんですか、あれ……」

 

 苦笑まじりに呟いたのは、ルリアーナさんだった。

 梢ラボ社長のひとみちゃんのお姉さんで、風の魔法で冷静に魔獣を吹き飛ばしている。

 

 確かに、魔獣たちは跳ね回り、飾りつけられた街を破壊しながら、どこか楽しそうに見えた。

 異界の魔力に酔っているのか、それともこの世界の賑わいに興奮しているのか……。


「詩織よ~。こやつらをキレイに掃除したら、おぬしの店で飯を食わせてくれんかの~?」


「もちろんいいですよ! クリスマスケーキもありますし!」


「おぉ、これは急がねばなるまい!!」


 ぱぁっと瞳を輝かせた大樹卿が、嬉々として両手を広げる。

 杖の先に炎の玉がいくつも浮かび上がり、それが一つに収束して――

 

 ドォンッ!!


 轟音とともに炎が夜空を裂き、突進してきた魔獣を粉砕した。

 爆発の余波で近くの自販機が吹き飛んだが、彼女はお構いなしだ。

 

 以前、霧影温泉の慰安旅行で会った時には、ただの変わった人だと思ってた。

 見た目だけなら、ちょっと豪華なご令嬢って感じだった。

 

 でも違った。

 

 あの人は、大樹研究の第一人者にして、その世界でもっとも恐れられ、そして崇められる存在だった。力も権威も、たぶんトップクラス。いや、もはや神の領域だ。

 

「のーのー、詩織よ! たくさん倒したら飯タダにならんかの~?」


「えっ……それはちょっと」


「なんじゃよ! けちんぼうじゃな~」

 


 ――本当、この街を守ってくれてるのがこの人たちでよかった。


▽▽▽


 少し前のこと。

 

 お店の前でドン殿下と梅さんと合流してから、私たちは街を移動しながら魔獣を討伐していた。

 

 とはいえ、私の聖槍――別名「モップの柄」は、いまだ活躍の場がない。

 せっかく柄の先を槍のように磨き上げたのに、結局は出番なしかも……。


 市街地にはすでに避難指示が出ていて、人の姿はほとんどなかった。

 アナウンスのおかげか、それともこの街の人たちが鍛えられてるのか、はたまた実は関係者が多かったのか……。

 混乱は最小限で済んでいた。

 

 途中、何人か魔獣に襲われていた市民もいたけど――梅さんの俊敏な剣技と、ドン殿下の豪快な一撃で、全員無事に救出できた。

 二人の連携は、見ていて思わず惚れ惚れするほどだった。

 

 私たちのほかには、オフィーをリーダーにする冒険者チームと、神戸氏率いる継案チームがいるらしい。

 

「詩織さん、こっち進みましょう!」

 

 ドン殿下がさわやかな笑顔で誘導する……ただし、頬にべっとりついた血糊で、さわやかさは半減だけど。


「了解!」

 私は顔を引きつらせながら頷く。

 

 チームとしての動きも、だんだん板についてきた。

 私たちは広原駅前の広場へと足を踏み入れる。


 ここは、いつもなら人で賑わう場所だった。

 イベントがあると屋台やバンド演奏も出て、子どもたちの笑い声が響いていた。


 でも今夜は、誰もいない。


 巨大なクリスマスツリーのふもとにいるのは、醜悪な魔獣たちだけだった。

 

「こっち、駅前の広場まで来ました」

 私は携帯電話を取り出して、継案特局の矢吹さんに状況を報告する。

 

『了解しました。そちらには、大樹卿たちもいると思います。いずれにせよ、お気を付けて!』

 

 ――大樹卿? って、あのかわいい女の子だよね。

 

 矢吹さんが、落ち着いた声で返答してくる。

 各班もそれぞれのポイントで戦闘中。私たちのチームも位置を確認しながら移動した。

 

 

 そうそう、あっ君は今、サブリナの警護でダムの地下に潜ったままだそうだ。

 サブリナは、あの巨大企業タリスマンエコーのAIと戦うため、なんだかすごいコンピューターで応戦しているらしい。


 あのサブちゃんが、世界的ハイテク企業を相手取ってるなんて、正直、全然イメージ湧かない。


 でも実際、一時はこの街でも携帯もネットも、電気さえ使えなかった時があった。

 それが復旧したのは、どうやらサブちゃんが敵のシステムをハッキングして制御を取り戻してくれたおかげらしい。


「なんか、カッコいいよな……」


 あっ君は、そんな姉の思いも知らず、一刀両断にこう言ってのけた。

 

「だから今、サブを一人にしとけないんだよ! 俺たちがサブリナを守らなきゃ、この世界がタリスマンエコーのユグドラシルAIに支配されるんだよ! それでもねーちゃんはいいの?」

 

 ――うん。正直、言ってる意味はさっぱり分からない。

 

「でも、それ、あんたがやる必要あるの!?」


「ねーちゃん、分かってないなあ。俺たちだって、梢ラボの関係者なんだぜ? 今、俺らが踏ん張らなくてどうすんの!」

 

 ……ちっちゃい頃、泣き虫だったあっ君が、こんなセリフを口にするなんて。お姉ちゃん、ちょっと泣きそうだよ……。

 まあ、泣いてた理由の半分は、私がいじめてたせいなんだけどね。


 皆が、この世界にために必死に戦っている。


 ――私だって関係者なのに。何もできていないみたい。


▽▽▽

 

 しばらく、駅に向かって進んでいくと――早速、見覚えのある二人が目に入った。


 あれ? なんか……楽しそうに戦ってる?


 まるでゲームセンターの射撃ゲームみたいに、魔獣の群れを相手にキャッキャと魔法を撃っている。

 

「……ぷっ」


 思わず笑いがこぼれた。どんな時でも、変わらないんだな、あの人たちは。


 そして、のじゃロリ大樹卿、ルリアーナさん、ドン殿下、梅さん、そして私――ついに五人のチームが揃い、駅前の掃討作戦が始まった!

 

▽▽▽


 改めて思う。私たちの周りって、とんでもない人たちばかりだ。


 いつも普通におしゃべりしてるけど、冷静に考えてみて? 

 たった数人で、世界的大企業を敵に回して、本気で戦ってるんだよ!?

 

 普通なら国が動くレベルだよね。いやもう、漫画か映画かって話。

 

 中でも――森川くん。


 彼なんて、梢ラボに入ってまだ三ヶ月も経ってない新人だった。

 その前は「職探ししてました〜」なんて言ってたけど……絶対ヒキニートだったでしょ。

 

 そんな彼は今、ドラゴンを追って退治に向かってるという。


 ドラゴンだよ? ド・ラ・ゴ・ン!


 さっき上空を飛んでいくの見たけど、ありゃバケモン中のバケモンだね。

 

 ……森川くん、大丈夫かなぁ。

 

 

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