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第151話 確保


 会社の前に続く一本道は、黒塗りの車と装甲車でびっしりと埋め尽くされていた。


 端から端まで、まるで車の展示会。いや、装甲車もあるから小規模な戦場だ。


 僕たちは、その異様な光景を二階の窓から見下ろしていた。

 

「……すげーな。完全に道ふさがれてんじゃん」


「ほんとですねー。これじゃ私、帰れなくなっちゃいました」


 ツバサさんが、しれっとボケてくる。


 ——いやいや、この状況で帰れる人なんかいませんて。


「あっ、見てください! 畑の中までズカズカ入ってきてますよ。あー! ホウレン草植えてたとこ! もー、荒らさないでよねー!」


 ……ツバサさん、もうちょっと緊張感持ってもらえます? お願いだから。


 そんな脱力ムードの中、門の前に真っ赤な拡声器を持った神戸氏が現れた。

 表情は真剣そのもの。……なのに、どこか“運動会の先生”感がすごい。


「あーあー、チェックチェック。聞こえてるかー!

 こちら、内閣継続事案特別任務管理局、略してNCEIAの神戸だ!

 これより貴社――梢ラボラトリーに対し、強制突入を実施する!

 抵抗は無意味であり、我々は一切の手段を選ばない! 従順に指示に従うことを強く求める!」


 堂々とした口調……のはずなのに、抑揚が棒読み。神戸氏、演技めっちゃ下手だな。そして全体に漂う茶番臭がヤバい。

 

「へー、神戸君の部隊って“内閣継続事案特別任務管理局”って言うのね。長いわね」

 と、いまさら感心する梢社長。


 ——だからみんな、もうちょっと緊張感、持とうよ!!


 そのとき、倉庫からオフィーが白い拡声器を抱えて走ってきた。


「これ見つけてきたぞー!」


 ……なぜ会社の倉庫にそんなものがあるのかは、今は突っ込まないでおく。


 梢社長がそれを受け取り、窓をちょっとだけ開けて、叫んだ。


「いやでーす!」


 ……なにこのノリ。


「な、なにぃ!? ならば攻撃するぞー!」


「やれるもんなら、やってみろー!」


「建物壊すぞー!」


「壊したら弁償だからねー!」


 ——なんだこの寸劇!? 学芸会か!?

 

 神戸氏が少しだけ声色を変える。


「撃つぞー。撃つからなー。今撃つからー」


 ……早く撃てや!! 


 僕の心のツッコミと同時に、矢吹さんの「てーっ!」という号令とともに、周囲の部隊が一斉に銃を構え発砲。


 バリバリバリッ!


 弾丸が建物を撃ち抜く音が響くが、防御結界のおかげで傷一つつかない。


「へへーん! 当たっても痛くありまっせーん!」


 梢社長が陽気に煽ってくる。……なんなんだこの人。


 だが、その時——異音が混じった。


 バリンッ!


「……ん?」


 音に全員が息を呑む。


「うわ、やばっ……!」

 青ざめた顔で梢社長が言う。


「て、てか、結界壊れてない? 銃弾抜けてきてるけど!」 

 

 僕が叫ぶと、またしてもバリンッ! 今度は窓ガラスにヒビが入った。


 外からの発砲音が、今度はより正確に、集中して響いてくる。


「なっ、これ……壊れた部分を狙い撃ちされてる!?」


「やっぱ一人じゃ無理あったかなー。銃って結構、威力あるねー。全部は防げないんだなー」


 社長が、まるで他人事みたいにボソッと呟く。


 ——そういうこと、事前に確認して!!


 そんな中サブリナは、マイクとカメラをわざと潰したタブレットを楽しげにいじっていた。


「いいぞ、その調子!」


 SYUGOSYAからの返答を読み上げる。


「『身を守りたいなら直ちに退去しなさい。大樹は責任をもってコチラで管理します』……だって」


 ……うーん、タリスマンAI、意外と雑じゃないか?

 


 

「さ、そろそろ準備しよーぜ!」


 サブリナがこちらを見てくる。僕はうなずき、梢社長に確認を取る。


「こっちは大丈夫ですか?」


「心配なーいなーい。あとでみんな来るって言ってたし!」


 ……みんな?


「ドンちゃんが今声かけてるけど、ウメさんに、お姉ちゃん、それに大樹卿も来てくれるってさ!

 森川くんは安心してガーンって行って、花散らしてきていいよ!」


 花散らすって……それ、完全に死亡フラグじゃないっすか。言葉選び、絶妙にアウト!


 僕とサブリナが玄関へ向かおうとしたその時、背後から声がかかる。


「気をつけてね」


 ツバサさんがまっすぐ僕を見つめていた。

 その瞳が、ほんの少し潤んでいる気がする。


「森川さん……」


「は、はい」


 思わず背筋を伸ばす。視線をしっかり受け止めた僕の心臓は爆発寸前。


 ——え、これ……もしかしてフラグ立った?!


 そんな僕に、彼女が優しく口を開いた。


「私の車に弾、当てないようにって伝えておいてください」


 ……ですよねー。ちゃんと伝えときます。


 次に、オフィーが無言で何かを差し出してきた。


「これ、持ってけ」


 ……槍?


「え、これって何?」


「特攻するんだろ。フリでもいいから、これ持って突っ込め」


「いや、なんか原始人感すごいんだけど」


「なに言ってんだ。戦いの原点だぞ!」


 ……もう、何も言うまい。


 僕は玄関のドアに手をかけ、サブリナを振り返る。


 彼女は拳を胸の前でギュッと握り、気合十分の表情。


「じゃ、行ってきます!」


 梢社長に目を向けると、にこっと笑う。


「じょーずにやってね! 名演技、期待してるよ〜。よっ、大根役者!」


 ……あんたにだけは言われたくないわ!!


 勢いよく玄関の扉を開け、僕とサブリナは外へ飛び出した。



▽▽▽


「やい、お前ら! それ以上こっちに来てみろ! この爆弾で吹き飛ばすぞ!」


 サブリナが叫びながら、“いかにもダイナマイト”な筒を懐から取り出す。


 僕は彼女の前に立ち、槍を構えて身構えた。


「やー、それはもしかして爆弾か!?」


 ……また神戸氏の棒読み。


「そうだ! それ以上攻撃してきたら、これで一帯を吹っ飛ばしてやる!」


 サブリナが言い切ると、こちらに手を差し出してきた。


「モリッチ、早く!」


「何を?」


「ライターだよ! モリッチ、タバコ吸うんだろ?」


「いや、今……禁煙チャレンジ中で……持ってませんが、何か?」


 二人同時に青ざめる。


 ちらっと神戸氏の方を見ると、なぜか向こうも青ざめていた。


 ——そういう大事なことは、もっと早く言おうよ!!


 神戸氏が、大きくため息をついて一言。


「確保ー!!」


 その声を合図に、彼の部下たちが一斉に突撃してきて、僕の上にドサドサと乗っかってきた。


 サブリナの方はというと、「はい」と言ってダイナマイト(モドキ)を手渡し、あっさり手錠をかけられていた。


 こうして、僕らはめでたく(?)確保されたのだった。


  

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