表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/199

第146話 SYUGOSYA


 ——今、自分にできることを考える。


 いつも肝心な場面では、結局、何もできない。

 入社して少しは慣れてきたつもりでも、歯がゆさと無力感が胸を締めつける。

 

 ……まあ、考えてても仕方ない。できることをやろう。


 そう自分に言い聞かせ、朝のデリバリー用にハーブを取りに立ち上がろうとした——その瞬間だった。


 隣のサブリナのパソコンが、けたたましい警告音を鳴らした。

 

「なっ……!」


 サブリナが反射的にキーボードを打つ手を止め、モニターに目を奪われる。


 次の瞬間、画面が真っ赤に染まり、文字が滝のように流れ落ちてきた。

 


 SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA 

 SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA 

 SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA 

 SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA SYUGOSYA 

 SYUGOSYA SYUGOSYA ………………



「くそっ……!」


 サブリナが高速でキーを叩くが、画面はまったく反応しない。

 完全に制御を奪われていた。


 そして——ブラックアウト。

 黒い画面の中央に、白い文字が浮かび上がる。


 

 

 ≪親愛なるサブリナ、モリカワへ≫


 


 ……日本語?

 こいつ、日本人なのか……?


 


 ≪言語は記号です≫

 ≪あなたが理解できる“形”で話しています≫



 

「何もんだ、こいつ……」

 僕がつぶやいた瞬間、画面の文字がぬるりと変化する。

 

 

 

 ≪私は、SYUGOSYA≫

 ≪そう、『守護者』で間違いありません≫

 ≪私はユグドラシルを守る者です≫



 

「……なに、これ……?」

 僕はただ、画面を見つめるしかなかった。


 けれど、サブリナは違った。すぐに動いた。


「このPC、マイクはつけてない……ってことは!」


 彼女はあたりを素早く見回し、僕の方を振り返る。


「モリッチ! 社長のPCの電源、すぐ抜いて!」

「わ、わかった!」

 慌てて社長のデスクへ駆け寄り、コードを引っこ抜く。


「抜いたぞ!」


 息を切らして叫んだ、その瞬間——


「ダメだ、それじゃない!」

 サブリナの声に呼応するように、モニターの文字が変わった。



  

 

 ≪モリッチ、それじゃないよ≫


 



「……っ!」

 一瞬だけ目を泳がせたサブリナが、何かに気づいたように僕に叫ぶ。

 

「——携帯だ! 携帯を出せ!」

「え? あ、ああっ!」


 ポケットからスマホを取り出して差し出すと、

 サブリナはそれをひったくるように受け取り、床に叩きつけた。


 そして、無慈悲に踏み砕く。


「おいっ! 僕のスマホを——」


 言いかけた僕を無視して、今度は自分のスマホも床に叩きつける。

 そして容赦なく、靴で踏み砕いた。


 次の瞬間、モニターの文字が変化する。


 

 


 ≪正解。よくできました≫



 

 

 サブリナが、怒りを噛み殺すように画面を睨みつけた。


 さらに追い打ちをかけるように、文字が流れる。



 

 

 ≪やるね、大樹の守護者も≫

 ≪お互い、がんばりましょう≫





「なんだこれ……?」


 僕も画面を睨み返す。

 視界の端で、サブリナの手が小さく震えているのが見えた。


 ——怒りか? それとも、恐怖か?


 

▽▽▽

 

 騒ぎを聞きつけて、梢社長とツバサさんが慌てて部屋に飛び込んできた。


「どうしたの? 大きな声してたけど」


 心配そうな表情の梢社長。

 その隣で、モニターを見たツバサさんが口元を覆ってつぶやく。


「なんです、あれ……?」


「なになに?」と梢社長も画面を覗き込む。


「ナニコレ? 私たちのファン?」


 ——違いますって。


 そのあと、ツバサさんと社長にさっきの出来事を順を追って説明した。


 ツバサさんは「信じられません……」と絶句し、

 梢社長は腕を組んで沈黙する。

 

 意外だったのはサブリナだった。

 さっきからずっと宙を見つめたまま、口を開かない。


 一通り説明を終えると、部屋に沈黙が落ちた。

 誰も、何も言わない。


 ——まあ、そりゃそうだ。不可解すぎる。


 いつもは“謎”を追う側だった僕たちが、今や“追われる側”にいる。

 人智を超えた存在の前では、こうも無力なのか……。

 

 ——と思った、その時だった。


パン!

 

 突然、梢社長が手を叩いた。


「わかったよ!」

 勢いよくサブリナのPCの前に立ち、切ってあった電源を入れ直す。


「何する気?」

 サブリナが驚いて駆け寄る。


 社長はニッコリと微笑んで答えた。

「おしゃべり?」


 サブリナはすぐに意図を察し、急いでPCにマイクを接続した。


 パソコンがゆっくりと起動し、再び画面が光を取り戻す。


 だが、映し出されたのは漆黒の背景。


 そこに文字が現れる。



 

 ≪やあ、さっきぶりですね≫

 ≪どうしましたか?≫

 

 


「えーと、私は梢ラボラトリーの代表、梢ひとみです。あなたは……だれさん?」





 ≪私は、ユゴドラシルの守護者です≫



 

 

「ユグドラシル? それってさー、世界樹の事かな?」



 

 

 ≪世界樹≫

 ≪そうとも言えますね≫



 

「あなた、うち……梢ラボのこと知ってるの?」

 梢社長が首をかしげながら尋ねる。


 

 ≪もちろん≫

 ≪よく知ってますよ≫

 ≪世界樹を独占する、自称『守護者』の会社ですね≫




 ——こいつ、いきなり悪意ぶつけてきやがった。


 梢社長が目を細め、少し考えるように口を閉ざす。

「うーん……もしかして、私たちのこと……嫌い?」


 一瞬、文字の出力が止まる。

 



 

 ≪嫌いと言う概念はありません≫

 ≪但し、あなたたちは許容範囲を超えております≫



 

 

「"許容範囲外"って評価、初めてもらったかも」

 梢社長は、僕とサブリナの顔を交互に見て笑う。


 


 ≪あなたたちは≫

 ≪目的もなく、義務も果たさない≫

 ≪非効率的な存在≫

 ≪すなわち、許容範囲外と認識≫




「あらー、言われちゃったね」

 梢社長は、豪快にアハハと笑った。


「——で、そういうあなたって、いったい何者?」



 

 

 

 ≪私は、世界を正しく導く者≫

 ≪梢ラボラトリーの“大樹”は障害と認識≫

 ≪排除します≫





 

 ——ユグドラシルの守護者が、僕ら守護者を排除?


 つまり、俺たちは“敵”認定されたってことか……。


 ……いったい、どういうことだ?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ