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第144話 情報操作?


「これ見て見て! ヤバいんだって!」

 

 突然、ノートPCを突き出してきたサブリナ。

 そのテンションは、興奮と不穏さが入り混じっていて明らかに普通じゃない。


 モニターには、見覚えのない掲示板の画面が映っていた。


「都市伝説……? “梢ラボ”? なんだこれ!」

 

 思わず声が漏れる。

 画面には、うち――つまり“梢ラボ”を好き勝手にネタにした書き込みがズラリと並んでいた。


 ——伏字にはしてあるけど、バレバレだろこれ。

 

  『UFOを見た』『怪物の声がする』といった与太話の中に、

 “世界樹”だの“エルフ”だの、笑えない単語までしれっと混ざってる。


 しかも、“喫茶こずえ”や“ピンク亭”まで名前が出てるし、悪評まで拡散されてる始末。

 ……完全に悪意ある投稿じゃん。


 ——さては、予約のキャンセルとか、客が来ないのも、これのせいか。


「……ちょっとヤバいな」


 僕がつぶやくと、サブリナが勢いよくスクロールする。


「だろ!? ほら、ここ見て!」


 彼女が指さした投稿。

 『ジャージ着た子供がチャリで敷地内に突っ込んで……』


「ふざけんな! 子供じゃないっての! ヤバイだろ!?」


 ——いや、そこは、どーでもいいから。


「ムカついたから掲示板潰して、IPもバッチリ押さえといたぜ!」


 勝ち誇ったように腕を組むサブリナ。

……いや、褒めるべきか怒るべきか、リアクションに困る。


「これよこれ! このおかげで予約もキャンセルよ!」


詩織さんが肩をすくめて、苦笑しながら言った。


「ま、こんな噂程度じゃ“ちょっと暇だなー”くらいだけどね!」


 そう言ってアハハハ!と笑い、思いっきり胸を張る詩織さん。……逆に頼もしすぎる。


 ——いや、ほんとにダイジョウブなの?

 

「ちなみにモモに聞いたら、ピンク亭も客激減してるってさ」


 サブリナが掲示板を見つめながら、サラッと報告。


 ——ダイジョバなかった!! がっつり実害出てる!!


 

「あと、『クリスマスに花が咲く』って……なにそれ、意味不明」


 詩織さんが他人事のようにモニターを見ながらつぶやく。

 

「へぇ〜、そんなことまで書いてあるんだね」


 隣でドン殿下がモニターを覗き込み、興味深そうに頷いた。

 その穏やかな笑みとは裏腹に、目つきは鋭く、まるで何かを見抜こうとしているようだった。


「これ、単なるネット民じゃないよ。ネタがやけにリアルすぎる」


 詩織さんが腕を組み、急に真剣な表情に。

 さっきまで軽口を叩いてたとは思えないそのギャップに、ゾクリとした。

 

 ——やっぱ、ただの噂じゃない……?


「……内部の人間? まさか」


 僕がポツリと口にすると、詩織さんが鋭く目を細める。


「最近関わり始めた“関係者”とか、ね」


 その瞬間、なぜか全員の視線が僕に集中した。


「……え、いやいや! 僕じゃないですよ!? そんな機密、そもそも僕、知らないし!」


「ま〜、森川くんじゃないよね〜。気弱だし」

「ユーイチって、頭脳派じゃないしな」

「モリッチがリーク? 無理無理ないない。度胸ゼロだし」


 三人が息ぴったりに首を縦に振る。


 ——なんなの、このフルコンボ!? だれか僕を守って!


 言い返す隙すら与えられず、会話だけがテンポよく進んでいく理不尽さ。


「……まあ、にしても、放っとけませんね」


 背後から聞こえてきた、涼やかでよく通る声。


 振り返ると——


「神戸さん!」


 その姿に、思わず声が裏返った。


 ——この人、ほんと、どこから湧いたんだ……!?

 相変わらずの神出鬼没っぷりに、背中がひんやりする。


「なんであんたがいんのよ!」

 

 詩織さんがジト目で睨むと、神戸氏はにこやかに返した。


「やだなー。一緒に温泉で裸の付き合いしたばっかじゃないですかー」


「はっ!? こいつ覗いてたの!?」


 バッと立ち上がって、なぜか胸を隠す詩織さん。

 それに対し、神戸氏はまったく悪びれずに言った。


「大丈夫です。女風呂は矢吹が担当したので」


 ……いや、それ、ぜんっぜん大丈夫じゃないから!

 ってことは、男湯はお前が監視してたのかよ!?


「で、これ、どこまで本当なんですか?」


 唐突に話を戻す神戸氏。さすがというか、話題をぶっ飛ばすのがうまい。


「“本当”って、どういう意味ですか?」


「たとえば、UFOを呼んでるとか?」


 ——それ、どー考えても無いだろ!  なぜそこ信じた?

 

「これも。『花が咲く』ってやつ」


 モニターを指さして、神戸氏は意味深に微笑む。

 その顔は、まるで何かを知っているような、余裕のある顔。


 ドン殿下がその様子に目を細める。


「ユーイチ、この人は?」


 殿下の問いに、神戸氏はぴしっと背筋を伸ばし、礼儀正しく微笑んだ。


「申し訳ございません、ご挨拶が遅れました。私、神戸と申します」


 ぺこりと頭を下げ、内ポケットから名刺を取り出す。


「いつもお姿は拝見しております、ドングラン殿下」


 深々と一礼。

 殿下は名刺を見つめながら、「……あんたが、あの」とぽつりとつぶやいた。


 ——なにこの含みある空気。なんかあんの?この二人。


「で、サブリナさん。これ、放置していいんですか?」


 話を戻す神戸氏。どうやら本気で調べる気らしい。


「まーねー。今までも似たような噂はいっぱいあったけど……今回は見過ごせねーな。“誰が子供じゃ!”って話よ!」


「今までもこんな騒ぎがあったの?」


「ちょいちょいね。そのたびに私が情報操作してたし」


 ——サブリナ……ちゃんと仕事してたんだ……!


「ま、今はモモにやらせてっけどね」


 ——えっ、いつの間に人材育成!? てか、幼女に丸投げ!?


「モモ、センスあるんだよ〜。ま、師匠が良いからだけどね!」


 鼻を鳴らし、ちょっとだけ胸を張るサブリナ。


「しかも、ピンク亭まで狙われてるって知ってから、モモやる気MAXでさ〜。言っとくけど、一ヶ月足らずでプロ並みの腕前だからね!」


 ……みんなそれぞれ有能すぎて、逆に不安になってきたんだけど。

 

「これ、梢社長は知ってるの?」


「知らないかもねー。ヒトミッチのPCって、今じゃ格ゲー専用機だから」


 ——なにその不憫なPC……!


  でも、このまま放っておくのはマズい。

 つい先日も命約の大樹教と揉めたばかりだし、傭兵ヘルハウンドも梢ラボに敵意を向けている。


 我が社の“世界樹”の恩恵を狙ってる連中は、今や無数に存在しているんだ。


 画面に目を戻す。そこに映るある単語に、思わず指を止める。


 “タリスマン・エコー”。


 確か、山城夫妻が関わっていた国際組織。

 “大樹の加護”——つまり、不老不死を追い求める、巨大な裏組織。


 ……これは、週明けに対策が必要だ。


「週明け、ミーティングやろうよ」


 そう言って、僕はみんなを見渡した。


「了解です。いつお伺いすればいいですか?」


 神戸氏がごく自然にスマホを取り出し、スケジュールアプリを開く。


 ——いや、あんたも来るんかい!!!




お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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