表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/199

第140話 第三章エピローグ ~そして祈りはめぐる。


 炎が、ゴォッと音を立てて部屋を呑み込んでいく。


 僕たちは、のじゃロリを先頭に階段を駆け上がった。


 階段を登りきって小屋に戻ると、のじゃロリが足を止め、振り返る。


「うむ、念のため、もう一発、特大のファイヤーボールを叩き込んでおくかの!」


 その言葉にツバサさんが頷くと、階下へと手を向けて詠唱する。


「ファイヤーボールッ!」


 ドォン――!


 空気が震え、熱気の波が襲ってきた。僕らはそれに背を向けて小屋を飛び出し、開けたスペースへと走り抜ける。


 次の瞬間――


 ズガァァァァァンッ!!!


 爆発音が地面を揺らし、小屋全体が炎に包まれた。


 火は隣の屋根にも燃え移り、黒煙が夜空へと立ち昇る。


「……やっちゃいました?」


 ツバサさんがチラッと僕を見る。

 

「ふふ、大丈夫じゃよ。これで——すべて、断ち切れたのう」


 のじゃロリが、炎に包まれた屋敷をじっと見つめながら呟いた。


 僕たちは正面の駐車場まで避難し、屋敷の燃えゆく姿を見守った。


「まずかったですかね……?」


 恐る恐る神戸氏の顔をうかがうと、彼は目を閉じ、しばし考え込んだ後、首を振った。


「……まぁ、多少は問題になりますが、結果的には、よかったんじゃないですかね」


 そう言って、彼も炎に包まれる屋敷を見上げる。


 

 そのとき、数台の車が敷地内に滑り込んできた。神戸氏の部下たちが飛び降り、矢吹さんが指示を飛ばしながら走り出す。


 続いて見慣れた車が到着し、梢ラボの面々がどやどやと降りてきた。


「ちょっ、なにこれ!? え、屋敷燃えてない!?」


 サブリナが目を丸くして叫び、後ろから梢社長とオフィーが現れる。


「えええっ!? 大樹卿まで一緒!? 屋敷燃えてる!? ……もしかして新手のキャンプファイヤー??」


 社長がとぼけた調子で言うと、オフィーが苦笑しつつ肩に手を置き首を横に振った


 その後ろからやってきたルリアーナさんが、怒ったように叫ぶ。


「セーシア! 余計なこと言ってないで、森の延焼防止に結界張るの手伝って!」


「なによー、いきなり怒鳴らないでよ!」


 ぷくっと頬を膨らませた梢社長が、僕をじろりと睨む。


「……森川くん。後でじっっっくりお説教だからね」


「えっ、僕!?」


 ルリアーナさんと一緒に駆け出していく梢社長を見送りながら、僕は盛大にため息をついた。


 


 その炎は、結局朝まで燃え続けた。

 

 

▽▽▽

 

 朝風呂につかりながら、秋の空をぼんやりと見上げていた。


「……なーんか、いろいろあったなぁ」


 ついポツリと漏らしたら、横で淳史くんが笑った。


「ほんと、森川さんって引き強いっすよね」

 

 頭の上に手ぬぐいを乗せたまま、ケラケラと笑う。

 

「結局、俺たち何しに来たんだか……。温泉だけは最高だけどな」


 岩田さんが湯を手ですくって顔にかけ、ふぅ~~っと唸る。

 

「すんません……」

 僕は、なぜか反射的に謝っていた。

 

「でも俺は、けっこう楽しかったっすよ? これが旅行の醍醐味ってやつでしょ。非日常!」

 淳史くんがニカッと笑う。


「……お前の日常の方が心配だわ」

 岩田さんが即ツッコミを入れる。


 

「しかし、あの大樹卿って人、やっぱバケモンだな」


 岩田さんがぽつりとつぶやいた。


 ——やっぱり、普通の人でも感じるんだ……


「一升瓶、5本は空けてたからな」


 ——って、そっちかよ!


「酒だけじゃないっすよ。今朝のバイキングでも何往復もしてたし。いやー、うちにも来てほしいっすね〜」


 絶対連れてかない! 支払いこっち来そうだから!



 竹の目隠し越しに、女湯からは笑い声とにぎやかな会話が聞こえてくる。


「おぬし、見た目によらず、ボンキュッボンじゃのう!」


「ほんとだねー」


 ——えっ、誰が?


「いやー、それほどでも……」とサブリナの声。まさか……?


「いやいや、おぬしじゃないわ! おぬしは見たまんまだ!」


「失敬な!!」


 ……うん、聞き耳立てちゃってるな、僕。

 ふと横を見ると、岩田さんも淳史くんも耳ダンボで顔真っ赤。


 ——もぅやーねー、二人ともいい年して、おぼこいんだから!



 

「おーい、森川たちもこっちに来て一緒に入ろうぞ!」

 のじゃロリの無責任な声が飛んできた。


「何言ってんですか!」と女性陣の怒声。


「行ってみます?」

 僕が冗談で言ったら、二人にジト目で睨まれた。

 

「一応聞いただけです」

 

 僕はそっと肩をすぼめ、湯から空を見上げた。

 冬の風が、ひゅうっと肩を撫でていく。


 ——このまま、今年が無事に終わればいいな。



 僕の“願い”は、空に溶けていった。

 



 ▽▽▽

 

 【 sideモモ 】


 

 焼け焦げた幹の前で立ち止まった。

 

 かつて“御神木”と呼ばれたそれは、今ではただの焼け跡として残っているだけ。


 先日、この場所で、教教祖と呼ばれる者たちとともに、その最後の欠片は散り、煙となった。

 

 けれど——そこに、確かに残っていた。

 

 生きようとする力が。

 まだ、終わっていないという証が。


 ゆっくりとしゃがみこみ、焦げた地面ににそっと手を当てた。

 その指先が触れた場所に、微かに震えるものがあった。


 ——ぴくり。


 炭の隙間から、緑の芽が顔を出していた。

 柔らかく、それでいて、凛とした命の色。


 瞳から涙がこぼれ落ちた。


「……ほらね、やっぱり……生きてた」


 

 新しい芽吹きが、静かに、光の方へと伸びていく。


 

「モモちゃーん、いるのー?」

「もう帰るぞー! みんな待ってるからなー!」

 

 

 坂の下から、ツバサさんとサブリナさんの声が聞こえてくる。


 「すぐ行きまーす」と返事をして、立ち上がる。


 

 雲が流れ、空に風が舞い上がる。


 私はもう一度、「さよなら」と呟き、くるりと振り返った。

 


 そして、もう一度空を見上げ、そっと微笑んで——丘を後にした。


 

 **第三章 完**


 


お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ