第126話 グレーテル
お読みいただいている皆様へ【お詫びとご報告】
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4月23日。「第119話 洞窟」を抜かして投稿していることが判明しました。心よりお詫び申し上げます。本日、修正し再投稿いたしましたが、その影響でブックマークがずれてしまう可能性がございます。お手数をおかけしますが、何卒ご容赦を賜りますようお願い申し上げます。重ねてお詫びいたします。
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「なるほどね。お前らが“梢ラボ”の連中ってわけか。……にしては、ずいぶん小粒だな。聞いた話じゃ、バケモン揃いって聞いてたんだが?」
——バケモンって何だよ。失礼だな君!!
グリムはニヤつきながら、俺たちを品定めするように見渡した。
特殊部隊の隊長にしては、ずいぶんラフな口調だ。軍人って感じがまるでしない。
「しかし……あんた、本当に耳尖ってんだな?」
そう言いながら、グリムが梢社長の耳に手を伸ばした——その瞬間。
ピタッと、空中で手が止まった。
「おいおい、なんだこれ? 手が動かねぇ……これが“魔法”ってやつか?」
指先が微かに震えているのに、顔は相変わらず笑っている。
「さあ、どうかしら?」
梢社長は余裕の笑みを浮かべたまま、軽く肩をすくめた。
グリムは手を引っ込めると、唇の端をニィッと吊り上げる。
「まあいい。今回の任務はアンタらじゃない。“御神木の種子”ってやつを回収しろって話でな」
そう言いながら、手をさすっている。
——やっぱり痛いんじゃん、あれ。
「で、その“種”ってのはどこにある?」
グリムが声を張って辺りを見渡すと——
宿のカウンターで会った、口ひげの受付男が、おずおずと姿を現した。
「あんた、タリスマン・エコーの人間だったのかよ……」
岩田さんが驚きの声を上げる。
だが男は無言のままグリムの前に立ち、うつむいてオドオドしながら告げた。
「それが……“種”ってのは、どうやら……ガキの中にあるらしくて……」
——は? 何チクってんだこのクソ野郎。
「で、そのガキは?」
グリムが目を細める。
「……さっき、連れ去られてしまったようでして……」
「誰に?」
声のトーンが一段下がる。場の空気が凍りついた。
「“命約の大樹教”の……残党です」
男は視線を落とし、か細い声で答えた。
「チッ」
グリムが舌打ちし、床に唾を吐く。
「で? どこに連れてかれた?」
男はビクッと肩を震わせ、さらに小さくなる。
「……わかりません。でも……」
おずおずと、俺たちの方を指差した。
「こいつらが、知ってます」
——おいおい! 勝手にパスすんな!!
グリムの視線が俺たちをなめるように巡り、サブリナのところで止まる。
——ま、サブリナが一番ちっちゃくて弱そうだもんな。
でも、そいつ……めんどい奴だぜ。ザマア、苦労しろ!
「よう、じょーちゃん。知ってんのか?」
「知ってる。でも、言わない」
即答。迷いゼロ。
グリムは無言で銃を抜き、サブリナの鼻先に突きつけた。
「悪いが俺は気が短ぇんだ。俺様が紳士でいるうちに答えたほうがいいぜ、“おじょーちゃん”?」
下品な笑みを浮かべながら、指はすでにトリガーにかかっている。
「悪いけど、私は“おじょーちゃん”じゃないよ」
サブリナが淡々と答える。
「私には“グレーテル”って名前があるの。それと、人にものを聞くときはね——まず、誠意を見せるべきだと思わない?」
——グレーテル!? いつから童話の主人公になってんだ!
全員がポカンとした顔でサブリナを見る中、当の本人は口元でニヤリ。
おいおい、今笑うとこじゃないからな!? 命かかってんぞ!?
そんな様子に、グリムは鼻で笑った。
「へぇ……肝が据わってんな、グレーテルちゃん。自分の立場、わかってんのか?」
そう言って、銃の側面で彼女の頬をペチペチと軽く叩く。
それでも“グレーテル”は微動だにせず、むしろニヤリと返した。
「じゃあ金くれよ。たっぷり出してくれたら——ぜーんぶ教えてやる」
「ちょっ、グレーテルさん!?」
神戸氏が慌てて叫ぶが——
ドスン!
グリムのブーツが飛び、神戸氏が吹っ飛んだ。
「てめぇは黙ってろ」
——扱い雑ゥ!
「で、グレーテル。いくら欲しい?」
「一千万。安いでしょ? 一千万くれたら、このグレーテル様が丁寧に案内してあげる」
肩をすくめて笑うサブリナ——じゃなかった、“グレーテル”。
グリムはしばらく無言で彼女を見つめ……やがて口の端を吊り上げた。
「気に入ったぜ、サブリナ——じゃなかった、グレーテルだったな?」
——サブリナって、バレてんじゃん!
「金なら後でいくらでもやる。さっさと案内しな」
俺は心の中でホッと胸を撫で下ろした。
どうやら今のところ、いきなりズドンではなさそうだ。
グリムは部下に顎で合図を送り、サブリナを立たせるよう命じる。
男が荒っぽく彼女を引き起こす。
「ちょ、痛いってば! この手かせ、外してよ!」
「ダメだ。お前、どう見てもなんかやらかすタイプだろ」
——その判断、敵ながら天晴れ!
「じゃあさ、そこの貧相な奴も連れてってよ。私さー、方向オンチなんだよね」
サブリナが俺を顎でしゃくる。
——何言ってんの!? 俺まで巻き込むな!
「ちょっとちょっと! 行くのはいいけど、まさか私たち置いてかないよね?」
詩織さんが口をとがらせて叫ぶ。
「ここに放置されたら、狼のバケモンに食べられちゃうんですけどー!」
グリムがちらりと詩織さんを見る。
「それが嫌なら、こいつらにさっさと案内して戻ってこいって言っとけ」
「ハァァン? ポンコツコンビに任せといたら、迷子まっしぐらでしょ?」
露骨にイヤそうな顔の詩織さん。
……てか、ポンコツ言ったな? あとで反省会します!
グリムは俺たちを怪訝そうに見比べていたが——
「ちょっともう! もめてる場合じゃないでしょ! モモちゃんが危ないんでしょ!?」
梢社長が手を振って止めに入る。
——あれ、社長。手かせ外れてません?
「社長! 手かせ!」
小声で注意すると、社長は「しまった」って顔になって、慌てて手を後ろに回し……
「てへっ」と、舌をペロッと出した。
——いやいや、完全にバレてますから!
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