第12話 旅?を満喫
「やあやあ、諸君! 待たせたね〜!」
両肩にドデカいランチバッグをぶら下げて、詩織さんがハイテンションで現れた。
その姿に、携帯を片手にしていた岩田さんが苦笑いする。
「おいおい、どんだけ荷物あんだよ。ピクニックでも行くのか?」
「サブちゃん、連絡ついたの?」
「んー、なんかブツブツ言ってたけど、家にはいるってさ」
「じゃあ、レッツゴーだねっ!」
詩織さんが拳を突き上げ、勢いよく車に飛び乗った。
岩田さんがドアをバタンと閉めて、後ろに向かって声をかける。
「じゃ、行ってくるわー。たぶん遅くなるかも」
「了解でーす! 気をつけてね!」
淳史くんが元気よく手を振った。
こうして、僕たちは“サブちゃん”の家を目指して出発した。
▽▽▽
車が走り出しても、詩織さんのテンションは下がらない。
むしろ高速に乗る頃には、さらにギアが入っていた。
ラジオの音楽に合わせて突然歌い出したかと思えば、岩田さんとの漫才のような掛け合いが始まる。
まるで夫婦漫才だ。
助手席でゲラゲラ笑う彼女を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。
……本当に、可愛い人だなと思う。
途中で、「サービスエリア寄りたい!」という詩織さんの熱烈リクエストが入り、
大きめのサービスエリアで休憩することになった。
車が止まるなり、詩織さんは一直線に売店コーナーへダッシュ。
岩田さんはトイレへ直行した。
残された僕は、喫煙所の看板を見つけてそっちへ向かう。
煙草を一本くわえ、ぼんやりと煙をくゆらせていると——
大きなビニール袋を下げ、片手に五平餅をかじりながら詩織さんがやってきた。
「あーっ! タバコ吸ってるー! 体に悪いんだぞっ」
「……いやまあ、やめたいとは思ってるんですけど」
「だったらさ、ひとみさんに精神操作してもらえば? スパーン!って記憶ごと消してもらえば?」
——軽っ! 怖っ! 発想がホラーすぎる。
「さすがにそれは……」
「じゃあさ、世界樹の葉で作った葉巻、あれ吸えば?」
「えっ、そんなのあるんですか?」
「あるある! 吸ったら一発で天国行けるらしいよ!」
——アウトなやつですね。捕まっちゃうから却下です。
「で、その袋、何買ったんです?」
「おみやげだよ〜ん♪ ご当地クッキーに、地域限定ポテチ、カエルのキーホルダーにミニ提灯! あ、これも見て見て〜!」
……誰へのお土産ですか、それ。
「おーい、もう行くぞー!」
車の前で手を振る岩田さんの声に、僕たちは慌てて車へ戻った。
それから1時間ほど走り、高速を降りて住宅街を抜けた先——
古びた町工場の前で、車は停まった。
壁はすすけ、ツタが這い、まるで時代に取り残されたような建物。
入口と思われる鉄の扉には、何重にも鎖が巻かれ、巨大な錠前がぶら下がっている。
「こっちだ」
岩田さんが車を降り、工場脇の細い隙間へと体をねじ込む。
「へぇ〜、ここなんだぁ」
詩織さんがキョロキョロ見回しながら、「森川くん、これ持って〜」とランチバッグを僕に押しつけてきた。
「来るの初めてなんですか?」
「初めてだよー!」
楽しそうに笑い、バッグを頭上に掲げながら隙間へ入っていく。
僕も同じようにバッグを持ち上げ、あとに続く。
数歩進んだところで、岩田さんが足元の金属板をガコンと跳ね上げた。
現れたのは、地下へと続く階段だった。
「足元、気をつけてな」
岩田さんが先に降り、そのあとを詩織さん、さらに僕が続く。
階段を降りた先には、二畳ほどの狭い空間があった。
無骨なコンクリ壁に囲まれたそこは、まるで秘密のシェルターのよう。
岩田さんが壁のキーパッドを操作すると、上の扉がウィーンと閉まり、奥の壁が音を立ててスライドしていく。
「うわ〜っ! なにここ! 秘密基地じゃん、テンション上がるぅ!」
詩織さんが振り返り、目をキラキラさせて叫んだ。
顔が近くて、思わずドキッとしてしまう。
そんな僕の気持ちもお構いなしに、彼女はずんずんと中へ進んでいく。
中は薄暗い倉庫のような空間。天井は低く、左右の壁際には見たこともない機材が山積みになっている。
奥のパーテーションの隙間からは、青白い光が漏れていた。
「サブー! 来たぞー!」
岩田さんが呼びかける。
「知ってるーよー」
奥から返ってきたのは、女性の声だった。
——ん? 女性?
「サブちゃーん! 詩織だぞ、ヤッホー!」
「えっ! シオッチ!?」
ガタガタと物音がして、次の瞬間——
パッと明かりが灯る。
パーテーションの奥から飛び出してきたのは、ブルーのジャージを着た少女だった。
その子は軽やかに跳ねながら、まるで子犬のように僕たちの前に現れた。
お読み頂きありがとうございます!
是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!
よろしくお願いいたします。




