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第117話 連れ去られたモモ


「モモちゃんを助けないと!」


 サブリナの叫びに、僕も焦る。


 そうだ……モモを助けなきゃ!


「追いますか?」

 すぐ隣で神戸氏が、いつもの落ち着いた声で問いかけてくる。


「もちろん。……サブリナは?」


「行くよ!」

 サブリナは力強く頷き、握った拳を胸元でギュッと固めた。

「一番弟子を助けるのは、師匠の役目だからね!」


 ——誰が師匠だよ。……まあ、その気持ちはわかるけど。


「……ですが、正直、危険です」

 神戸氏の表情が引き締まる。

「奴らは、人を殺すことに一切の躊躇がありません。迷いがあるなら、今のうちに——」


「殺されたくはないけど……仲間を見捨てたら、自分が壊れちゃう」

 サブリナの瞳はまっすぐで、ブレなかった。


 その言葉に、神戸氏がふっと目を細め、口元に笑みを浮かべる。


「……いいですね。では、急ぎましょう」


 その一言で、空気が変わった。


 僕たちは覚悟を決め、まだ見ぬ敵の本拠地へと足を踏み入れる。


 目の前に広がるのは、道なき森。

 暗く、深く、どこまでも静かだった。


 焦る気持ちとは裏腹に、足元はぬかるみ、木の根が絡みついて進みづらい。

 案の定、僕もサブリナも何度も足を取られ、転げそうになる。


『ったく、しょーがねーなぁ……』

 見かねたグリーが、ブツブツ言いながらも足元に淡い光を灯してくれた。


 前を行く神戸氏は、ちらちらとスマホを確認しつつ、迷いなく進んでいく。


「え、電波あるんですか……?」

 小声で尋ねると、神戸氏は肩をすくめて振り返った。


「電波というか……中継機を経由して特秘回線を引いてます。これは衛星信号を直接受信できるよう改造したデバイスでして……ざっくり言えば、目標はこの方角で間違いありません」


 ——さらっとヤバいこと言うな、国家機関こえぇよ。


 僕とサブリナは、黙ってその背中を追った。


 冷たい風が吹き抜ける。肌を刺すような空気が、辺りを包む。

 重苦しい静けさ。鋭くなっていく感覚。


 ——何かが、この森で起きている。

 そんな確信が、胸の奥で警鐘を鳴らす。


 その時だった。


 神戸氏がピタリと足を止め、「止まれ」の合図を送ってくる。


 耳を澄ますと、森の奥から足音。複数の、それも規則正しい——軍隊のような足音。


 神戸氏が指を差す。その先、薄暗い中に白装束の影。

 彼らは無言のまま、崖に開いた大きな穴へと消えていった。


「……洞窟?」


「驚きましたね。ここはちょうど、“命約の大樹卿”本部跡の裏手にあたる場所ですね。こんな洞窟があったなんて」

 神戸氏が静かに呟いた、そのとき。

 

「よくお気づきになりましたね、さすがです、局長」


 木陰から現れたのはショートカットの美人、矢吹さんだった。

 まるで最初からそこにいたような自然さで、僕たちに近づいてくる。


「状況を報告します」


「お願いします」


「敵は総勢で8名。少女を——」


「少女じゃない。モモちゃん! 私の一番弟子!」


 サブリナが割り込むように声を上げる。

 矢吹さんは一瞬言葉に詰まりながらも、淡々と修正した。


「…… 一番弟子のモモさんは気を失っており、男性に背負われたまま洞窟の奥へ運ばれていきました」


 ——いや、矢吹さん。“弟子”って言わなくていいから。

 

「それと、もう一つ気になることが」


「言ってみろ」


「一番弟子のモモさんの体が、微かに……発光していました」


「発光?」

 神戸氏がこめかみに手を当て、しばし考え込む。そしてこちらに視線を向けた。


「……何か心当たりは?」

 

「えーっと……僕もそれ見ましたけど、正直、理由は分かりません」


「たしか、森川さんの左手も“グリーン☆フラッシュ”を放つ時に発光してましたよね?」


 ——その瞬間。


 サブリナとグリーが、口を押えてぷっと噴き出す。


「あれも淡い緑色の発光でした。“グリーン☆フラッシュ”のとき」


 今度は矢吹さんまで顔をそらして、肩を震わせている。

 

「……その、“グリーン☆フラッシュ”の——」


「あーっ!もうその名前、言わないでください!!」

 反射的に叫んでしまう。

「でも、はい。発光の感じは似てました、たしかに」


「で、あれは?」


「うーん……多分、加護のエネルギーが視覚化された状態なんじゃないかと」


「やはり、そうでしたか」


「ということは、一番弟子のモモさんも“大樹の加護”を受けているということですね」


 矢吹さんが確認するように言ってくる。


 ……だから“弟子”って言わなくていいってば!


 神戸氏と矢吹さんが、そろってこちらを見つめてくる。


「いや、わかんないです。うちの社員も、モモとは初対面って感じだったし」

 

「そうですか……」


「だから、大樹の加護は受けてないと思います」


「ですね。わたしが言ってるのは、この神域にある神木——“命約の大樹”の加護を受けている可能性があるんじゃないかと」


「……ここの?」


「ええ。以前もお伝えしましたが、この神域にあるご神木は、御社の“大樹”を移植したものです」


「それ、社長に確認したんですけど、誰もそんな話知らなかったです」


 ——というか、誰も気にしてなかった。

 岩田さんなんて「だから何? オリジナルじゃなきゃ意味ない」ってバッサリだったし。


「そうなんですか……うちの記録では、一番弟子のモモさんには“常緑の命丹”が使われたと記載されていますが……ご存じなかったですか?」


 ——なに! ご存じなーーいっ!!




お読み頂きありがとうございます!

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