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第116話 狼モドキです!


『……なんだこれ? って、あー、異世界で見たあの“狼ちゃん”じゃん』


 ——魔獣な! “ちゃん”付けするなっての!


『ったく、こんな奴らくらい自分でやれっての! いちいち呼ぶなよ、めんどくせー!』


「剣、持ってないんだよ!」

 思わず叫び返す。


『ったく、使えねーなぁ……。しょうがねぇ、天才グリー様の出番ってわけか』

 

 グリーは肩をすくめ、ふわりと手を振った。


 すると周囲の木々がざわめき、まるで生き物のように枝葉を伸ばし始める。

 枝葉がぐんぐん伸びて、狼モドキたちに絡みついていく。


 ——締め上げるように、絡め取るように。


 だが、次の瞬間。


『およっ?』


 グリーが妙な声を漏らした。


『ちょ、ちょっと!? 制御きかねーんだけど!』


「はぁ!?」


 振り返ると、グリーが両手をバタつかせていた。

 枝葉が暴走し、蛇のように空をうねり、地面を叩きつけている。


 ——バシュッ!


「うわっ!」


 一本の枝が頬をかすめ、鋭い痛みが走る。

 慌てて地面に転がり、迫る枝から逃れる。

 

「グリー! どうなってんだよ、これ!」


『知るかバカ! 制御がバグってんの! マジ無理ぃ!』


 焦るグリー。その声には、いつもの余裕はがない。

 枝が空気を裂き、風を巻き起こす。

 その様は、まるで——自然そのものが意思を持って暴れているかのようだった。


「くそっ……なんとかしろ!」


 そう叫んだ、そのとき——

 腕の中にいたモモの身体が、ふっと軽くなる。


「モモ!?」


 彼女の小さな体が腕をすり抜け、地面を転がり、闇の中へ消えていった。


「モモーッ!」


 追おうとした瞬間、別の方向から苦しげな声が上がる。


「——サブリナ!」


 振り返ると、サブリナが蔦に絡まれ、倒れかけていた。


「グリー! 防護障壁、張って!」


『やってんだけど……力が暴れてんのよぉ!』


 枝に引っ張られながらも、グリーは必死に呪文を繋いでいる。


 ——だが、間に合わない。


 凶暴に伸びた枝が、目の前に迫る——その時。


 シュバッ!


 青い閃光が空を裂いた。


 目前の枝が、紙のようにスパッと切断される。


 青い斬撃。

 まるで光そのものが刃になったような、美しく鋭い一閃。


 ——オフィーか? いや、違う。


 姿は見えないが、斬撃が立て続けに走り、枝を次々と切り裂いていく。

 その動きは速く、正確で、見覚えがある。


「……神戸氏!」


 闇の中から、あの男が涼やかな笑みを浮かべて現れた。


「やあ、親友よ。少々お困りのようで」


 軽やかに歩み寄り、刀を構え——スパッ! 空を斬り、軽く血払いのように刀を振る。

 

「どうしてここに……!?」


 僕の問いに、彼はにやけた笑みを浮かべたまま応える。


「言ったでしょ? 君たちがいるところに、私もいるって。それだけですよ」


「……つけてたんですか?」


「ストーキングとか言わないで。サポートって呼んでください、ね?」

 

 ——どの口が言うんだ。


 とはいえ、助けられたのは事実。素直に礼を言う。

 

「……まぁ、助かりました」


「どーいたしまして」


 神戸氏は肩をすくめ、僕の肩にしがみついているグリーを一瞥する。

「にしても……枝ごときに苦戦するとは……あなたに一掃された傭兵たちが、草葉の陰で泣いてますよ?」

 

『うっさい! たぶんそいつのせいだ!』


 グリーが黒焦げの神木をにらみつける。


『あそこから妨害電波みたいなのが出てんだよ。あの神木、絶対なんか放ってるぞ!』


 ——妨害……神木から?


「この神木……まだ生きてるのか?」


『さあね。でもさっき、あそこに子供がいたよな……? そいつのせいかも!』

 

 ——モモ、か。


「そうだ! モモが!」


 僕が振り返ると、サブリナが森の奥を必死に見つめていた。

 

「モリッチ! モモがいないんだよー!」


 半泣きで叫ぶその声に、心臓が跳ねた。


 そんな中、神戸氏が冷めた口調で言う。

 

「お探しの女の子なら、白装束のあやし〜い集団に“ご招待”されてましたよ」

 

 ——さらっととんでもないこと言ったな、この人!?


「は!? カルトに!? なんで止めなかったんですか!」


「大丈夫、矢吹に尾行させてますから。ちゃんと追ってますよ」


「尾行って……囮にしたんじゃないだろうな!?」


 僕の疑念を見透かしたように、神戸氏は手をひらひらと振る。


「やだな〜、そんなわけないじゃないですか。まったくの想定外ですよ」


 へらっと笑うその顔。……信用していいんだか。


「それより、この狼みたいな怪物、なんなんです?」


 神戸氏は、地面に転がる狼モドキの亡骸をつま先でツン、とつついた。


 僕は少し逡巡し——しかし、隠しても仕方ないと判断し、素直に口を開く。


「……異世界の魔獣です。名前は……まぁ、狼モドキで」


「ほう、“ワーグ”とか“ワーウルフ”みたいな?」


 ——なにそれ、初耳。


「……狼モドキです」


「なるほど、ワーグですね?」


 クッ、知識マウントか!……かっこよく言いやがって。


 悔しいので無表情で断言する。


「狼モドキです」


「そ、そうですか……狼モドキですね……」

 

 神戸氏がちょっと引いた。ふふん、勝った気がする。


「で、そんな異世界の魔獣がなぜここに?」


「たぶん、この近くに“ダンジョン”があるんでしょう」


「……ダンジョン、ですか」

 

 神戸氏の目がギラッと光った。


 ——またかよ。ダンジョンって単語に食いつく人、多すぎじゃね?


 そう思った直後。


 地の底から響くような咆哮が森を揺るがした。


「……今の、聞こえましたよね?」


「ええ。“そのダンジョン”から、ですかね」

 

 ざわ……と風が吹き抜け、木々が不気味に鳴る。自然音なのに、異様に怖い。


 そしてグリーがぽつりと呟いた。


『あー……これ、マジでヤバい展開。帰るなら今のうち』


 ——帰れるわけねーだろ!

 

「何か……この森で起きてますね」


 神戸氏が周囲を見渡し、静かに言った。


「そういえば、警察には?」


「連絡はしました。でも動けるのは、明日……いや、もう今日か。日が昇ってからだそうです」


 人が死に、地震が起き、魔獣が出て、カルト集団が少女をさらい——


 ……そうだ!


「モモを追わなくちゃ!」


 再びこみ上げてくる焦燥感。


 絶対に、助け出してみせる。何があろうと——。




お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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