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第114話 偶然?


「何がワトソンだよ! さっきも聞いたろ? 社長がもう首突っ込むなって言ってたじゃん」


「そうは言ってない。『旅行を楽しめ』って言ってたよ」


「人が亡くなってるんだぞ。楽しむなんて不謹慎だろ」


 俺はため息をつき、腕を組む。

 だが、サブリナはまったく動じる気配がない


「でもいいの? このまま放っておいてさ」


「僕らには関係ないことだろ!」


 きっぱりと言い放つ。

 これ以上、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。


 しかし——。


「ホントにそう思ってるのかね? ワトソン君!」


 サブリナは探偵気取りの口調で言い、ニヤリと笑った。


 ……このノリ、ホントにやめてほしい。


「考えてみてよ。ここの神木は“大樹”のコピー。そして、その力を巡って事件が起きてる」


 彼女は指を一本立て、ゆっくりと振る。まるで講義でもしているかのように。


「‥‥‥」


「つまりさ、大樹の力が絡んでる以上、これは完全に他人事じゃないんだよ」


 彼女は声のトーンを落として続ける。

「それにさー、偶然が多すぎない?」


「偶然?」


「まず、偶然その一。私たちが“大樹のコピー”がある場所に来たこと」


「それはただの偶然だろ。偶然、福引を引いて、偶然、他の人が当てた旅行と交換しただけ」


「ホントにそうかな?」


 サブリナがじっと僕を見つめる。その目が、試すように細められた。


「例えば、その“交換した相手”が仕込みだったら?」


「ないない。交換を持ちかけたのは僕だし」


「そう! でも、モリッチが言い出さなくても、交換を打診されてたかもしれないよね?」


「それなら、最初から僕が旅行を当てるように仕組めばいいだろ!そっちの方が簡単じゃん!」


「そうする予定だったけど、そうならなかった。……モリッチ、何かしたんじゃないの?」


 あの時のことを思い出す。確か、オフィーにせっつかれて左手を使った……。まさか、それで?


「……あー、なんか心当たりあるんだ?」


 サブリナがくすっと笑う。


「じゃあ、偶然その二! 私たちがここに来たタイミングで、あのカルト集団が関係する殺人が起きた」


「それは偶然だろ。山城夫妻がたまたま来てたから起こった事件なんだから……」


「まだあるよ! 偶然その三」


 サブリナが身を乗り出し、畳みかけるように言った。


「さっきの地震も偶然?」


「それこそ偶然だろ! 地震なんて天災なんだから!」


「……ホントに、地震ならね」


 その言葉とともに、サブリナの唇が妖しく弧を描く。

 薄暗い照明の下で、その表情は妙に意味深に見えた。


「それにさ、『迷宮伝説』『魔狼伝説』って聞いて、何か思い当たることない?」


「単なるよくあるオカルトだろ?」


「『迷宮伝説』と『魔狼伝説』が? そんなによくある話じゃないよ!」


 サブリナは手をひらひらと振りながら、楽しそうに笑う。

 その目が、どこか探るように僕を見ていた。


「たとえばさー、迷宮と魔獣って考えてみて、つい最近の出来事で何か思い出さない?」


「迷宮と……魔獣?」


 一瞬、何のことかと思ったが、ふと脳裏に浮かぶものがあった。


「——ダンジョンか!」


 そう、異世界に行っていた時、俺たちは森の迷宮に入り、魔獣と戦っていた。


「そう! 迷宮はダンジョン! 魔狼は、異世界で散々戦ったあの怪物!狼モドキ! これも偶然?」


 サブリナが指を立ててニッと笑う。その顔には「さて、どうかな?」とでも言いたげな色があった。


 ここにダンジョンがあって、魔獣が出てきてる?

 そんなバカな! そんな事あるわけ……

 

「ねえ、大樹のある場所には、ダンジョンができるって……誰か言ってなかったっけ?」


 サブリナが意味ありげに微笑みながら言う。


 ——確かに。誰かそんなことを言ってた気がする……

 

「まーいいや! 偶然だとしても、何かの力がそうさせていたとしても——」


 サブリナは腕を組み、少し首を傾げる。


「このまま『私たち関係ありませーん!』って済むとは思えないんだよね」


 そう言いながら、彼女は僕の目をじっと見つめてきた。


「でもさー、まだ何かピースが足りない気がするんだよねー。何か知らない?」


「……何かって、なんだよ!」


 そう言い返したものの、胸の奥に引っかかるものがある。

 何か……何か重要なことを忘れてる気が——。


 そこで、不意に思い出した。


「……モモが加護持ちだって……」


「何ソレ! 私知らない!」


「いやー、多分嘘だと思うけど、神戸氏がなんか言ってたんだよね。ピンク亭の娘が大樹の加護持ちだって」


 サブリナの表情が変わる。

 モモちゃんが……? と小声で呟く。


 彼女は、どこか遠くに視線を彷徨わせ、考えこんだ。


 僕も何やら胸の中がざわつき、頭の中がモヤモヤしてしまう。


 これまでの出来事が偶然じゃない——?

 いや、そんな話、信じられない……。

 でも、もし本当だったら?


 その時——。


「!?」


 突然、サブリナが「はっ!」と小さく息を呑み、僕の頭をぐいっと押さえつけ蔽い被さってきた。


「な、なに!?」


 唐突な事態に驚いて顔を上げると、今度は「シッ!」と僕の口を塞いでくる。

 彼女の顔がすぐそばにあって、ふわりと甘い香りがした。


 ——な、何この状況!?


 心臓が無駄にドキドキしてしまう。


 だが、サブリナはそんな僕の動揺なんてお構いなしに、じっとある方向を見つめていた。


「……今、モモちゃんが外に出ていった」

「えっ?」


 思わずそっちを見る。

 確かに、宿の玄関の扉がゆっくりと閉まるところだった。


 モモが? こんな時間に?


 サブリナがスッと身体を低くし、小声で囁く。


「……追うよ!」


 言うや否や、彼女は素早く立ち上がり、静かに駆け出した。


 えっ、待っ……!


 僕も慌てて後を追った。

 


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『 突撃!コール隊  〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ』

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