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第113話 ミーティング


「なるほど、それでその方は亡くなっていたのね」


 梢社長が缶コーヒーを手に取り、プルタブを不器用にいじる。

 ようやく開けたと思ったら、一口飲んで「甘〜い」と顔をしかめた。


 テーブルの上には、僕が用意した缶ジュースがずらりと並んでいる。


 さっき、神戸氏は何かを察したのか、「現場に戻ります」とだけ言い残し、足早に出て行ってしまった。

 その後、僕らはソファーに集まり、ここまでの事情を全員に説明しているところだ。

 

 神戸氏いわく、今日の宿泊客は梢ラボのメンバーと彼のチーム、それに山城夫人だけ。

 つまり、少しくらい騒いでも問題ないということで、僕らはここで話している。


「ところで、社長はこの山のご神木が、かつて“大樹”から移植された木だったって知ってました?」

 

 僕の問いかけに、社長は少し考え込んだ後、首を振る。


「ごめん、聞いてないわ。神戸君がそう言ってたの?」


「はい。でも、彼の言い方だと、僕だけが知らないみたいな感じでしたけど……」


 社長は頬に指を当てて考え込む。オフィーの方を見やるが——

 

「私は知らないぞ」と、オフィーはあっさり返答。ブレないなこの人。


 次に社長の視線が向かったのは岩田さん。


 少しだけ目を逸らしていた彼は、小さくため息をつき、静かに口を開く。


「私も詳しいことは知りません。ただ、千年以上前にそういうことがあっても不思議ではないでしょう。当時は皆が“大樹”の恩恵に群がっていましたからね」


「なるほどね」


 社長が納得したように頷くと、岩田さんはさらに言葉を重ねた。


「とはいえ、私たちが守るべきは、あくまで梢ラボの“大樹様”です。他の場所に何があろうと……本質的には関係ないでしょう」


「でも、もしここのご神木にも“大樹”級のパワーがあったとしたら?」


 僕の素朴な疑問に、岩田さんはじっと僕を見つめて、ゆっくり息を吐いた。


「“あれば”の話ですが……ここのご神木が有名になっていない時点で、うちの“大樹様”とは重要性が比べ物にならないだろうね」


 ——まあ確かに、伝説級の木ならSNSでバズっててもおかしくない。


 そんなタイミングで、ようやくカフェインが回ってきたのか、サブリナが目を輝かせて口を挟んできた。


「結局さー、オリジナルは大事だけど、コピーはそこまで重要じゃないってこと?」


「どうでもいいとは言わないが……結局、本当に価値があるのはオリジナルだけってことだな」


「でもさー、ここのご神木の噂って、無視できるレベルじゃなくない?」


「どんな噂だ?」


 岩田さんが眉をひそめる。

 

「たとえば病気が治ったとか、一年中花が咲いてたとか……中には“死んだ人が蘇った”なんて伝説もあるらしいよ」


 ——死人がよみがえる!? って、ファンタジー通り越してホラーなんですけど!

 って、ちょっと待てよ。


「もしかして、命約の大樹教の奴らも、神木の力で蘇ったとか?」


「いや、でももう神木ってないんでしょ? 三年前の雷で焼けたって聞いたけど」

 梢社長が僕の言葉を拾う。


「はい!」

 ツバサさんが勢いよく前のめりになり、力強く答えた。


「幹が少し残ってましたけど、黒焦げでしたね!この目でバッチリ見てきました!」


 その様子に、みんなが一瞬ツバサさんを見つめる。

 彼女は得意げに頷いた。

 

 梢社長が、ふう、とため息をつきながら腕を組む。


「ま、どっちにしろ、お姉ちゃんや大樹卿には話を聞いてみるけど……だからって、何か分かるかは微妙よね」


「それより問題は、地震で閉じ込められてることじゃない?」


 缶ジュースを口にしながら、詩織さんがぼやいた。


「さすがに、道の復旧を待ってたら何日かかるかわからないし……うちの店、そんなに長く休めないんだけど」

 

「あー、それなんですけど……社長、なんとかなりませんか?」


 僕が頼むと、社長は「うーん」と唸る。


「まあ、できるとは思うけど……あんまりやりたくないよねー。できちゃったら変な人扱いされるし」


 ——異世界エルフのくせに。もう十分変じゃん。

 その時、サブリナが興味津々といった顔で身を乗り出した。


「てかさ、神木の呪いで亡くなった人のことは放っておいていいの?」


 ——いや、誰も“呪い”なんて言ってないけど!? また話が飛躍してない!?

 

「「あまり関わらない方がいい」


 厳しい声でそう言ったのは、岩田さんだった。


「下手に首を突っ込めば、火の粉が降りかかる」


「えー? でもさ〜、『迷宮伝説』も『魔狼伝説』も、まだ何も出てきてないじゃん!」

 

 ——サブリナ、お前は何を期待してこの旅に来たんだ……。

 

「そういえば今日、神木跡を見に行った帰りに、魔獣っぽい叫び声、聞こえましたよ!」


 ツバサさんが、パンッと手を叩いてサブリナを見る。


「なにそれ! 詳しく詳しく!」


 サブリナが身を乗り出して食いつく。

 

「やめなって! がんちゃんも言ってたじゃん。首突っ込むなって! また私が怒られちゃうし……」


 後半の声が小さくなったのは、きっと本当に岩田さんに怒られたのがトラウマなんだろうな……。

 

「じゃあ、本当にこの件はスルーでいいんですか?」


 僕が梢社長に確認すると、彼女はジト目で僕を睨んできた。


「え〜、そういう言い方する〜? 森川くん、最近ちょっと意地悪〜」


 ぷくっと頬を膨らませて、腕を組んだままふてくされる社長。


「どのみち、私たちは社員旅行中なんだから、余計なことは忘れて温泉でも楽しみましょ〜」


「そうだそうだ〜!」


 詩織さんが同調しながら、ぐいーっと背伸び。


「それにもう遅いし、寝よ〜!」


 そうして、みんな各自の部屋へと戻っていった。


 ツバサさんはまだモヤモヤしているようだったけど、渋々後に続いていった。


 僕もその後を追おうとした——その時。

 

 ガシッ。


 突然、誰かに腕をつかまれる。


「待ちたまえ、ワトソン君」


 振り返ると、そこにはニヤリと笑ったサブリナが立っていた。


 ——この顔は絶対、ろくでもないフラグが立ったやつだ……!


 


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