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第112話 孤立


 神戸氏は部下たちに何やら指示を出し、僕らの方へ戻ってきた。


「やっぱり地震だったようですね。震源地はこの霧影山みたいですが……」


 そう言いながら、彼は足元を確認するように軽く足踏みした。


 僕は心配になり、思い切ってお願いしてみる。


「宿の方が気になります。いったん戻ることはできませんか?」


 神戸氏は顎に手をやり、一瞬考え込んだ後、「わかりました。一旦、宿へ戻りましょう」と頷いた。

 そう言うと、矢崎さんに「宿の様子を見てくる」と伝え、車に乗り込む。


 その直後、彼の携帯が鳴った。


「はい、神戸です」


 電話の相手と短くやり取りしているうちに、神戸氏の表情が険しくなっていく。


 通話を終えた彼は、少し沈んだ声で言った。


「……ちょっと、寄り道してもいいですか?」


 車に乗り込んだ僕らにそう言って、神戸氏はエンジンをかける。

 

「寄り道?」僕が尋ねる。


「土砂崩れが起きているみたいなんです」

 

 そう答えると、彼はハンドルを切り、山を下る方向へと車を走らせた。


 暗闇の山道をしばらく進み、カーブを曲がった直後——。

 

 「——っ!」


 急ブレーキがかかり、車が止まる。


 僕らの視界の先、道を完全に塞ぐ土砂の山が現れた。


 神戸氏は無言で車を降り、土砂へと歩み寄る。

 僕らも後に続いた。


 崩れたのは、道の反対側の崖のようだった。


「完全に道が塞がってますね……」


 僕がそう言うと、神戸氏は苦々しげに頷く。


「これでは、警察も来られませんね」


「他に迂回できる道は?」


「この道しかありません」神戸氏はそっけなく答えた。


「……困りましたね」そう呟くと、彼は再び電話をかけ始めた。


 その様子を見ながら、僕はオフィーにふと尋ねる。


「ねえ、この土砂、オフィーなら何とかできない?」


 オフィーは腕を組み、少し考え込んだ後、「まあ、できなくもないが……余計に道を塞ぐかもしれん」と言う。


「どっちかと言うと、こういうのは制御系魔法の分野だな。セーシアの領分だ」


「社長の?」


「ああ。ただ、土砂の先がどうなってるか分からんからな。むやみに動かすと二次崩落を起こす可能性がある」


 珍しく慎重なことを言う脳筋オフィー。

 意外な姿勢に、僕は思わず「へえ」と感心してしまった。


 そこへ、電話を終えた神戸氏が戻ってくる。


「宿に戻りましょう。皆さんの無事を確認する方が先決です」


 そう言うと、彼は無駄のない動作で車をバックさせ、幾度か切り返しながら進路を変える。そして、そのまま宿へ向けて走り出した。


「あれじゃ、警察も来られませんよね」


 僕がぼそりと呟くと、神戸氏はハンドルを手に前を見たまま答えた。


「そうですね……。まあ、いざとなればヘリを飛ばして、さっきの駐車場に降ろすこともできますよ」


 さらりと言い放つ彼の表情には、焦りの色がまるでない。


「それに、今さら慌てたところで、被害者が生き返るわけでもありませんから」


 チラリとこちらに視線を送り、神戸氏は微笑んだ。

 その笑みは妙に冷静で、“人が亡くなった”という現実がまるで他人事のようにも見えた。


 どこか不気味な違和感を覚えながらも、僕はそれ以上何も言わなかった。

 

 幸い、宿へ向かう道に土砂崩れはなく、車はスムーズに進んでいく。


 やがて駐車場に到着すると、神戸氏はエンジンを切り、ドアを開けた。


「ちょっと周りの様子を見てきます」


 そう言い残し、彼はすぐにどこかへ向かって歩き去る。


 僕とツバサさん、オフィーの三人はそのまま宿へ入った。


 ——すると、ロビーのど真ん中で、仁王立ちするセーシア社長が待ち構えていた。


「もう! どこ行ってたんですか!」


 彼女は腕を組み、怒り心頭の様子で詰め寄ってくる。


「社員旅行なんだから、団体行動厳守ですよ!」


 両手をぶんぶん振りながら怒る社長。その横では、詩織さんがため息交じりに注意を入れた。


「ちょっと、夜中なんだから大声出さないで!」


 その言葉に社長は「むむ……」と口をつぐむが、すぐさま眉を吊り上げる。


 そして、横には僕たちをギンギンに睨む岩田さんが並んで立っていた。

 その後ろには、眠たげに目をこするサブリナと、まだ目を瞑って寝てる淳史くんがソファーに座っていた。

 

  梢社長がじっと睨んでくる。


「……言いたいことは、分かってるでしょうね?」


 その圧に、僕は思わず身を引く。

 

「す、すみません。ちょっといろいろありまして……」


「だとしても、一声かけてから行くのがルールでしょ!」


 ——そんなルール知らないし、みんな酔いつぶれてたじゃん。


 内心でツッコんでいると、横からオフィーが肩をすくめて言った。


「まあ、そんなに怒るなセーシア。本当にいろいろあったんだよ」


 すると社長は、今度は頬を膨らませながら拗ねたように言う。


「なら、なおさら、そんなことに私を仲間外れにするなんてヒドイ!」


 ——そっちかよ!!

 

 そんな場面に、神戸氏が戻ってきた。

「おー、皆さんお揃いですね」

 

「な、なんでお前がここにいるんだ!」

 岩田さんが目を見開き食いつく。


「皆さんがいるところに、私はいるんですから」

 当然のように答え胸を張る神戸氏。


 ——それキメ台詞にしようとしてる?

 

 

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