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第110話 本部跡

 僕は大げさに首を横に振り、全力で拒否の意志を示した。

 すると、神戸氏は眉を下げ、しょんぼりと悲しそうな顔をする。


 ——いやいや、行く意味ないし。

 てか、夜の廃墟とか怖すぎるんだけど!!

 

 そんな僕の迷いをよそに、隣から勇ましい声が上がった。

「分かりました。まずモモちゃんを預けて、それから着替えてきますね」


 ツバサさんがスクッと立ち上がり、きっぱりと言った。


「えっ、ツバサさん!?」

 慌てて引き止める僕。

「危ないよ! 相手はカルト集団だよ!?」


 けれど、ツバサさんはキッと僕を見据え、力強く答える。


「でも、ご主人が捕まってるんですよ? さっきは何も分からず止めちゃいましたけど、お話を聞いた以上、助けに行かなきゃダメです」


 ——ヤバい、ヒロイン完全覚醒じゃん。


「待っててください」

 そう言い残し、ツバサさんはモモの手を引いて部屋へ戻っていった。


 彼女の背中を見送りながら、神戸氏が満足げに微笑む。


「いや〜、見た目はおとなしそうなのに、なかなか勇ましいですね」


「正義の味方……ヒロイン気質ですから」


「何です?」

 神戸氏が面白がるように聞いてきたが、僕はスルーして話を変える。


「さっきの女性、部下さんですか?」


「ああ、矢吹ですね。処理班の責任者です。ああ見えて、バリバリの武闘派ですよ」


「処理班……?」

 僕は眉をひそめる。


「何を処理するんですか?」


「まあ、色々ですよ」

 神戸氏はニヤリと笑った。


 ——処理班って……何その物騒な響き。


「他にも部下の方が?」


「ええ、まあ……数人は……」


 何か言いたくなさそうな神戸氏。


 僕は敢えて深入りせず、「着替えてきます」とだけ言って、部屋に戻った。



 ▽▽▽


「お待たせしました」


 ロビーに戻ると、そこには山城夫人、ツバサさん、そして——うちの武闘派が待っていた。


「え、オフィー? 潰れて寝てたんじゃ……?」


「あんなもんで酔うわけないだろ! セーシアたちがヤバすぎたから、寝たふりしてただけだよ」


 やっぱり。

 あの異様な酔い方、オフィー的にも普通じゃなかったんだな。


 ——あの酔っ払い達にビビってたんじゃん!


「モモちゃんを預けに行ったら、師匠も一緒に来てくれるって」


「師匠……?」

 ツバサさん、まだ律儀に『師匠』って呼んでるんだな。


「状況はよく分からんが、戦闘の可能性もあるんだろ? 森川、剣を持ってきてくれ」


「え、持ってくの?」


「当たり前だ!」


 オフィーの強い口調に、渋々従う僕。

 車の中に置いていた剣を取りに行きながら、ため息をつく。


 剣を持って戻ったところで、黒いスーツに着替えた神戸氏が現れた。


 ——この人、温泉旅行に来ても黒スーツかよ。


 いや、むしろカジュアルな神戸氏なんて想像できないけど。


「なんだ、貴様か」

 オフィーが神戸氏を見て、低く呟く。


「これはこれは、剣持さん。ご無沙汰しております」


 神戸氏は嬉しそうに笑い、恭しくお辞儀をした。


 ——剣持? ああ、オフィーの日本名ね。


「ハイエンドタワーぶりですね。相変わらずお美しい」


 神戸氏の言葉に、オフィーは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。


 

 

「矢吹たち……私の部下が先行しています。危険はありませんよ。さ、乗ってください」


 神戸氏は駐車場の黒い大型4WDに乗り込む。

 

 僕は助手席、ツバサさんとオフィーは山城夫人を挟む形で後部座席に座った。神戸氏が静かにエンジンをかけ、車が滑るように発進する。


「廃墟って、ここから近いんですか?」


「車で15分ほどですね。直線距離ならすぐですが、道がなくて少し遠回りになります」


 ——そんな近くにあるのか。


 そりゃ、温泉宿の客足も遠のくわけだ。


 神戸氏は狭い山道を器用に運転しながら、ぐんぐんと進んでいく。


 しばらくすると、視界が開けた。


 目の前には、大きな西洋風の門扉。

 今は大きく開かれており、その奥には公園ほどの広場が広がっている。


 煌々とライトを照らした車が二台、すでに停まっていた。

 その光の先には、くすんだグレーの壁を持つ洋館風の建物が静かに佇んでいる。


「あそこが『命約の大樹教』の本部跡です。今じゃすっかりホラースポットですが」


 神戸氏はそう言いながら、車を二台の横に停め、ライトを屋敷に向けたままエンジンも切らずに降りた。


「さあ、行きましょう」


 車を降りた途端、予想以上に冷たい空気が頬を刺す。

 吐く息は白く、足元の砂利がざりっと音を立てた。


 僕は身を縮めながら、神戸氏の背中を追う。


 山城夫人は周囲をキョロキョロと見回しつつも、足早に屋敷へ向かっていった。


 ちょうどそのとき——


 ギィィ……


 屋敷のドアが開き、中から一人の女性が姿を現した。


 さっきの女性——矢吹さんだ。


 彼女は山城夫人の姿を認めると、一瞬だけ視線をそらした。


「どうだった? 奴らはいるのか?」

 神戸氏が問いかける。


 矢吹さんは首を振り、「いません」と短く答えた。


「主人は? 主人もいないんですか!?」

 山城夫人が食い気味に詰め寄る。


 矢吹さんは、再び視線をそらしながら、低い声で告げた。


「……ご主人は、いらっしゃいます。ただ……」


「あなた!」


 山城夫人は矢吹さんを押しのけるようにして、屋敷の中へと駆けだした。


「奥さん、待って!」


 矢吹さんが制止するも、彼女は振り向きもせず、屋敷の中へと消えていく。


「追いますよ」


 神戸氏がそう言うや否や、僕らも慌てて後を追った。




▽▽▽

 

 屋敷のドアをくぐると、そこは天井の高い広間だった。


 中央には、大きな階段が堂々とそびえ立つ。

 壁はくすみ、スプレーで描かれた落書きが無造作に散らばっていた。


 かすかに鼻をつく、すえたような異臭——

 湿気と埃、それに混じる何か焦げたような臭いが、喉の奥をざらつかせる。


 廃墟独特の、淀んだ空気が漂っていた。


 広間の左右には、重厚な扉が二つ。

 右側の扉の前には、黒いスーツ姿の男性がハンドライトを片手に立っていた。


「こちらです」


 低い声が広間に響く。


 神戸氏が彼の方へ歩み寄ろうとした、その瞬間——


「——きゃあああああ!!!」


 凍りつくような悲鳴が、屋敷中に響き渡った。




新規連載開始!!

『 突撃!コール隊  〜推しがウザイ!なら世界を変えるまでだ』

コチラも合わせて読んでいただけると嬉しいです!

宜しくお願いします!!

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