表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梢ラボラトリー(株) 世界樹の守護者って正気ですか!?  作者: 鷹雄アキル
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/199

第11話 魔改造チューン


 岩田さんの話を全部信じたわけじゃない。

 嘘じゃないとしても、常識的な頭が受け付けない。


 それに、そんな異世界じみた会社に僕が入っていいのかも、よくわからない。


「本当にこのまま入社してもいいんでしょうか?」


 おそるおそる尋ねると、岩田さんはじっとこちらに視線を向けてきた。

 

「正直、俺にもわからない。ただ一つ言えるのは、君をスカウトしたのが梢社長——異世界のエルフだってことだ。もしかしたら、君の中に何か特別なものを見つけたのかもしれないし……」


 ——それ絶対ないです。残念エルフですよ。


「まあ、単なる気まぐれかもしれんが……」


 ——絶対それ! だと思います。


「いいじゃない! 私は森川君、あの会社に合ってると思うよ」

 

 詩織さんがにっこり笑う。


「た、例えば、どんなところが……ですか?」


「いや、ま……それ聞いちゃう? なんとなく、ほんとになんとなくだけどね! 私の第5感よ!」


 ——それ言うなら第6感です。第5感だと味覚とか嗅覚になっちゃいます。

 

 岩田さんは僕から視線を外し、フーっと長いため息を吐いて、椅子の背もたれに体を預けた。


「とりあえず、入社のことはしばらく口外しないように。それと、携帯、持ってるだろう?」


「はい、持ってます」


「会社で用意するから、それまでは持ち込まないように」


「携帯を……ですか?」


 僕はポケットから携帯を取り出して見せる。


「できれば、それも一度預かりたいんだけど……それと、部屋の中も見ておきたい」


「今日、ですか?」


「いや、今日でなくてもいい。専門家がいるから、そいつに見てもらう。ただ、帰ったら余計なことは言わないように。独り言でもね」


 ——なんだか、だんだん不穏な空気になってきたんですけど……。


「専門家って()()()()()でしょ? 最近会ってないな〜」


 詩織さんが岩田さんに目を向けると、彼は短く頷いた。


「ああ、サブだ」


「もしよかったら、今から行かない? 私も暇だし! 行きたーい!」


 詩織さんが楽しそうに手を挙げる。


 ——いや、詩織さん。お仕事は……?


 岩田さんは、ちらりと柱の時計を見て言った。


「大体3時間くらいかかるから、帰りは遅くなるぞ。それでもいいなら、行ってみるか? 森川君はどうだ?」


「自分は大丈夫です」


 ——どのみち、訳のわからないことばかりだ。

 少しでも理解が進むなら、その“サブちゃん”という人に会ってみたい。


「じゃあ、早いほうがいいだろう。行くか?」


 岩田さんが詩織さんに向かって言うと、


「やったー!」と、詩織さんは元気よく立ち上がり、「じゃあ準備してくるねー!」と下に降りていった。


「よっぽど、サブという人に会いたいんですね?」


 僕が聞くと、岩田さんは首を横に振った。


「会いたいっていうより、外に出たいんだろう。詩織さんも会社と関係が深いから、あんまり気軽に遠出できないんだ」


 ——なにそれ、気になります。

 もし制限があるのなら、今後は僕もそうなるのか……ちょっと心配。


「遠出は禁止されてるんですか?」


「いや、別に禁止ってわけじゃないし、危険も……ない。ただ、内情を知るほど色々気になってしまってな。結局、出かけるのがおっくうになるんだよ」


 岩田さんはカップに残ったハーブティーを飲み干した。


「今日は関係者だけだし、三人もいる。だから気楽に楽しめると思ってるんだろう」


 そう言って、岩田さんは空いた食器を重ねて「じゃあ、行こうか」と立ち上がる。僕もそれに倣って、皿を持って1階へ向かった。

 

 一階に降りて、カウンターに食器を置くと、奥から「ちょっと待ってねー、今準備してるから!」と詩織さんの声が聞こえた。


「慌てなくていいぞー」と岩田さんが返すと、奥から赤い髪の男性がひょっこり顔を出した。


「岩田さん、お久っす」そう挨拶しながら、彼は僕の方へ目を向けてくる。


「淳史くん、久しぶり。彼、梢さんのところに入る人なんだ」と僕の肩に手を置いて紹介してくれた。


「へー、梢さんが人採るなんて珍しいっすね。俺、今川淳史いまがわあつしッス。よろしくです」


 ——なるほど、彼が“あっくん”か!


 僕よりは年下に見える。

 華奢な体つきに、整った顔立ち。目元はどこかお姉さんと似ている。


 ぺこりと頭を下げる彼に、僕も「森川裕一って言います。よろしくお願いします」と名刺を差し出す。


「あ、それはいらんです」と、彼はにっこり笑って受け取りを拒んだ。


 ——名刺、めっちゃ嫌われてます……。

 

「サブちゃんのところに一緒に行くみたいですね。すみません、姉貴がわがまま言っちゃって」


「わがままなんて言ってないよー!」と、奥から詩織さんの声。


「全然大丈夫。こちらこそ悪いね、忙しいのに誘っちゃって」


「大丈夫ッス。いても、うるさいだけなんで」


 淳史くんが苦笑い。


「聞こえてるぞー!」と奥から詩織さん。


「じゃ、外で待ってるからなー」


 岩田さんが声を掛けて、玄関の方へと向かう。淳史くんもその後を追う。


「こっからだと、高速使って2時間半ぐらいッスかね」


 軽ワゴンを見ながら、淳史くんが言った。


「3時間はかかるだろ」と岩田さん。


「イヤイヤ、この車って魔改造チューンしてるんでしょ?」


 淳史くんが笑うと、岩田さんは苦笑いしながら「改造してても、速度制限は厳守だぞ」と言い、携帯を取り出して少し離れた場所へ歩いていった。


 その間、淳史くんは軽バンをいろんな角度から眺めている。

 

 会話が途切れて気まずくなった僕は、軽い気持ちで声をかけた。


「この車って、改造してあるんですかね?」


「いやー、バリバリしてありますね。これ、馬力も凄いッスよ、きっと」


「見た感じ、そうは見えないんですけどねー」


「中身がごっそり魔改造チューンです。たぶん」


「ターボとか?」


「いや、文字通りの魔改造です」

 

 ——文字通り?


「魔法で改造してあるんッスよ。だから、魔改造!」


 満面の笑みで、さらっと言う淳史くん。


 ——そんなんあるー!?




お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ