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第107話 引きの強い男


 神戸氏は、政府機関「継案特務管局」の責任者であり、梢ラボラトリーを監視する立場にある。

 そして同時に、古くから大樹を監視する一族の出身でもあった。


 以前、僕のブレスレットを巡る騒動で共闘したこともあるが……彼が敵か味方かは、いまだに謎だ。


 ——まあ、少なくとも味方じゃないよな。


「なぜ、神戸さんがここに?」


 しかも、浴衣姿で。


「何を言っているんですか。皆さんがいるところに、私もいる。それだけのことです」


「いやいや、まさかここまでついて来るとは」


「むしろ、私のほうが驚いていますよ。まさか霧影山を選ぶとは……やはり何かご存じだったんですね?」


 ——なに言ってんだ、この人。


「いや、社員旅行に来ただけなんですけど」


「……そういうことにしておきますか」


「本当ですよ。福引で当たったんです」


「それですよ! 福引までコントロールするとは、さすがですね」


「だから違うって」


「で、やはり神木の調査ですか? それとも『常緑の命丹』ですか?」


 ——常緑の命丹?


「なんです、それ?」


 神戸氏はニッと嫌らしい笑みを浮かべる。


「あの女の子は、ピンク亭のご息女ですよね」


 モモのことか?


「やはり、あの子はそうなんですね?」


「何かあるんですか?」


 少し威圧してみるが、神戸氏は相変わらず余裕の笑みを浮かべたままだ。


「彼女は……大樹の加護を受けたんですよね?」


 は? モモが加護持ち?


 ——そんな話、聞いたことないんだけど!?


 モモはただ、偶然この旅行に参加しただけのはずだ。

 これまで梢ラボラトリーと特別な関係があったわけでもない。


 そんな僕の困惑を見て、神戸氏はじっと顔を覗き込んできた。


「違うのですか?」


 そう呟くと、考え込むように俯き、ぽつりと言う。

「森川さんは……知らないのか……」


「何を?」


「いやいや、お気になさらず」


 神戸氏はにっこりと微笑んだ。


「森川さん! 大丈夫ですか?」


 そこに、モモの手を引いたツバサさんが現れた。

 そして、神戸氏を訝しげに見る。


 そんな彼女に、神戸氏が人の好さそうな笑顔を向けた。


「確か……初めましてですよね、岩田翼さん。私、内閣継案特務管局の神戸と申します。以後お見知りおきを」


 そう言って恭しくお辞儀をする。

 そして、今度は「モモさん、だったかな?」と彼女の頭を撫でようとした——が、モモはさっとツバサさんの背中に隠れてしまう。


「どうも私は、子供に嫌われやすいたちでしてね」


 神戸氏は苦笑いをするが、僕は即答した。


 ——でしょうね。


「森川さん?」

 ツバサさんが僕と神戸氏を見比べる。


「神戸さんは政府の人で、うちの会社を監視してるんですよ」

 僕が言うと、ツバサさんは目を細め神戸氏を睨む。


「監視してるなんて心外ですねぇ。これでも、組織の枠を超えた友人のつもりなのですが」


 神戸氏はわざとらしく傷ついたように眉を下げてみせる。


 ——うさんくせぇ。


「森川さん。さっきのご夫婦、見つかりました?」

 ツバサさんが話題を変える。


 すると、なぜか神戸氏が答えた。


「ああ、山城ご夫妻ですね。さっきお会いしましたよ。お土産コーナーにいらっしゃいましたが、もう部屋に戻られたかもしれませんね」


 ——なんでこの人、あの夫婦のこと知ってんだ?


 しかも名前まで。


「知り合いなんですか?」


「一応。大樹関連のことは、私たちの管轄ですからね」


 ——大樹関連?


「大樹って……ご神木のことですか?」


 一瞬、神戸氏の瞳が揺れた。そして、視線を宙に彷徨わせると「——あぁ、口が滑りましたかね」と小さく呟く。


「神戸さん。どういうことか教えてください。僕ら、組織の壁を超えた"友人"でしょ?」


 冗談めかしつつ、一歩踏み込んで問いただす。

 すると、珍しく神戸氏が動揺し、ため息をついた。


「……森川さんには、かなわないな」


 そう呟くと、そっと耳元に顔を近づけ、小声で言った。


「——あのご神木は、はるか昔に御社の大樹から挿し木されたものなんですよ」


 ——挿し木!?


「もともと、荒れ果てたこの土地に、大樹の恵みをもたらそうとした人物が移植したらしいですね。聞いてませんでしたか?」


「知らない! 初耳です!」

 驚きで声が裏返る。ツバサさんにも目を向けると、彼女もコクコク頷く。


「へぇ……それは意外だ」

 神戸氏は面白がるように頷く。


「そんな大事なこと、社長たちも知らないと思いますよ。もし知ってたら、絶対話題になってるはずですよ!」


「まぁ……どうでしょうね。ちなみに、この旅行、福引で当たったとか?」


「そうですよ。福引で」


「へぇ……」


「しかも、牛肉8人前と交換で」


「……牛肉と交換で?」


 神戸氏は驚いたように目を見開く。

「……なんか森川さん、引き強いですね……」


 僕はツバサさんを見る。彼女は、またもコクコクと頷いた。


 ——何その言い方。



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