表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/199

第103話 お土産買って来るねー


 タイショーが会社を出た後、続々と旅行メンバーが集まってきた。


 みんなが到着するたびに、梢社長がモモちゃんを紹介する。


「かわいいー! よかったわね、タイショーに似なくて!」

 紹介するや否や、詩織さんがモモちゃんに抱きつき、すりすり。


「……」

 モモちゃんはされるがまま、ただ首を振るだけだった。


 その横で、サブリナが腕を組み、なぜかドヤ顔で言った。

「よし、今日から私の一番弟子にしてやる!」


「えっ?」

 突然の宣言にモモちゃんの目が泳ぐ。


 そんな様子を横目に、淳史くんが軽く手を上げ歩いて来た。

「こんにちはー! 旅行なんて修学旅行以来っすよ。楽しみです!」


「こっちこそ、ごめんな。急なお誘いになっちゃって」


「全然ですよー!」

 満面の笑みで応える彼は、本当にいい青年だ。


 そうなんだよね。


 梢ラボラトリーの関係者は、身辺がいろいろデリケートだから、普段はあまり旅行に行かないって聞いていた。だからこそ、今回の旅行は案外、みんなのガス抜きになってるのかも……。


 そんなことを考えていると、会社のドアが開いた。


「ふわぁ……」


 大きなあくびをしながら、オフィーが姿を現す。

 いつものスウェット姿。しかも、肩には大剣を担いでいた。


「ちょっと、オフィー。まさかそれ、持ってく気じゃないよな?」

 僕がツッコむと、彼女は当然のように言い放つ。


「持ってくに決まってる。旅先で何があるかわからないし」


「いやいや、温泉旅行だぞ!? そんな物騒なもん持ってくなよ。銃刀法違反で捕まるぞ」


「森川、お前は甘いな。だからいつまでたってもヨワッチ呼ばわりされるんだぞ」


 ——ありがとう。久々にその言葉、聞いたよ。チェッ!

 

 そんなやりとりをしていると、会社からルリアーノさんが出てきた。


「呆れたわ。ほんとに社員旅行に行くつもり?」

 開口一番、クレームだった。


「だって、会社にいても意味ないですから! お姉ちゃんがいれば、この会社、なんとでもなるでしょ!」

 すねたように答える梢社長。

 ルリアーノさんは額に手を当て、ため息をつく。


 ちょうどその時——。


「すみません、遅れましたー!」


 駆け寄ってくるのは岩田さんとツバサさん。


「よし、全員集合!」

 梢社長が勢いよく拳を突き上げる。


「さあ、行きましょう! 社員旅行に! レッツゴーデス!」


 僕は運転席につき、他のみんなが次々と車に乗り込む。


「じゃあねー! お土産買ってくるねー!」


 梢社長が手を振り、ルリアーノさんに声をかけた。

 そして、僕には「早く出て出て!」とせっつく。


 慌ててエンジンをかけると、ルリアーノさんが口をパクパクさせたが——お構いなしに車を発進させた。


 こうして、二泊三日の社員旅行が始まった。

 

 

▽▽▽


 最初は乗り慣れない大きな車の運転に気を使ったが、高速に乗ればひたすらアクセルを踏むだけ。


 助手席にいた梢社長も、いつの間にか後部座席に移り、詩織さんたちと話に花を咲かせている。


 個性バラバラのメンバーでどうなることかと思っていたが、意外にも和気あいあいと盛り上がっている。


 それもこれも、梢社長が巧みに会話を回しているおかげだ。

 普段のマイペースな様子からは想像もつかないが、こういうときの彼女は本当に優秀なファシリテーターになる。


 そんな和やかな空気の中——


「ねえねえ、目的地の温泉のこと調べてたんだけどさー」


 今は助手席に座ってタブレットをいじっていたサブリナが、不意に話しかけてきた。


「けっこうクセ強なんだよねー、この温泉」


「クセ? どういう意味?」


「霧影山ってさ、三年前にカルト集団『命約の大樹教』の集団暴行事件が起きた場所なんだよねー」


「マジ? で、その温泉地なの?」


「直接の関係はない……かもだけど、事件が起きたのが、同じ山の中にあった『命約の大樹教』の本部なんだよね」

 

「……」


「『命約の大樹教』って、霧影山の御神木を崇める宗教団体だったんだけど——ちょっと気にならない?」


「その御神木って今もあるの?」


「今はないよー、三年前に雷で燃えちゃったからねー。それがきっかけで教団内で暴動が起きて、教祖含めて30人以上の信者が死亡。事件になって、最終的には解体されたんだよ」


「……なんか、大樹絡みって聞くと嫌な予感がするな」


「だよねー。でさ、その割引券って、福引で当てたんだよね?」


「そうだけど……まあ、実は当たったのは高級牛肉だったんだよね。それを、欲しがってた人と交換したんだけど」


「そっか……じゃあ、仕組まれたわけじゃないか」


 サブリナは腕を組んで考え込む。


 あのぽっちゃり夫人が計画的に? いや、そりゃないだろう。

 そもそも僕が言い出さなければ、割引券と交換することもなかったんだし。


「まあ、気になるとしたら、こんな季節に割引券まで出してるところだよな」


「あー、それは調べて分かったよ。やっぱ、三年前の事件で客足が遠のいちゃったみたいだね」


「だからかー」


「それにさ、他にもいろいろあるんだよ」


 サブリナがタブレットをスワイプしながら続ける。


「このところ、霧影山で行方不明になる人が続出してるんだよね」


「え、それってヤバくない?」


「そうなのよ。しかも、ネットではちょっとしたホラースポット扱いされてるんだよね」


「何それ、幽霊とか?」


「例えば——夜に山道を走ってると白装束の集団に遭遇して殺されるとか、毎夜聞いたこともない獣の叫び声がするとか、目が赤くて血で口を汚した狼の化け物が出るとか……」


「嘘くせー。そもそも、死ぬとか食われるとか、死んでたらネットに書き込めないじゃん」


「まあ、それはこの手の話のあるあるだけどね」

 サブリナはタブレットをスワイプしながら、意味深に微笑む。

 

「しかも、霧影山には古くからの伝説もあるらしいよ」


「学校の怪談的な?」


 僕が聞くと、サブリナは鼻でフンと笑った。


「例えば——雪の中で狂い咲く神木の『咲き狂い伝説』、一度入ると二度と出られない『迷宮伝説』、血を求めて夜を彷徨う『魔狼伝説』……」


「魔狼伝説?」


「そう。赤い目の巨大な狼が、闇夜に血を求めて彷徨うっていう話。なんかヤバそうでしょ?」


「いや、正直ありがちな都市伝説って感じ……」


「えー、でも名作ミステリーっぽくない?」


 サブリナがいたずらっぽく微笑む。


「まるで霧の中の魔犬事件みたいな!」

 

 

「ちょっと待ってね、手毬歌とかがないか調べてるから」

「見立て殺人かよ!」


「あと赤毛の募集とかないか?」

「連盟か!」


「ニコチンを使った……」

「悲劇か!」


「オランウータンの生息分布を……」

「密室!? それ関係ある!?」


「変装の達人が……」

「怪人と対決?」


「星占いと猟奇殺人が」

「名探偵でも呼ぶか?」


「奇妙な建造物で……」

「館か!」


「献身的な容疑者——」

「物理学者!?」


「すべてが——」

「理系かよ!」


「臨床犯罪学者の——」

「フィールドワーク?」


「気になります!」

「古典なのか!」


「見た目は——」

「お前は見た目も大人だな!」


 二人同時に息をつく。

 サブリナが額の汗を拭う仕草をして、僕も思わず肩をすくめた。


「……やるじゃん、手強いね」

「そっちこそ」


 ——案外、楽しかった。


 サブリナがタブレットを閉じる。ふっと真剣な表情になる。


「でもさ、こういうの、意外とバカにできないよね。迷宮伝説とか、魔狼伝説とか、ただの作り話って言い切れるのかな?」


 さっきまでの軽口とは違う、低いトーン。


「……それ、どういう意味?」


「この山で行方不明になった人、この三年で両手じゃ足りないからね?」



お読み頂きありがとうございます!

是非!ブクマークや、★でご評価いただければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ