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第100話 観測調査


「あーあ。高級牛肉、食いたかったなー」


 昼食帰りの車内。

 助手席でオフィーはさっきからずっとぼやいている。


「せっかくのA5ランクが、たかが温泉の"割引券"に変わったんだぞ! 何だそれ! 食えんじゃないか!」

 

 ——いや、そりゃ腹ペコ姫からすればそうかもだけど……

 

「しかも森川、お前が温泉ペアチケットの割引券なんか貰っても意味ないだろ! 絶対ゴミになるだけじゃん!」


 なんかすごいディスられてる……。

 

「そもそも、森川には勝負事の矜持が足りない! 勝負には勝者と敗者が生まれるのだ。そこに余計な憐れみや思いやりは不要! そんな甘さが、後の後悔を生むのだ!」


「いや、そもそも福引は勝負じゃないからね」


 僕がツッコむと、オフィーは「フン!」と鼻を鳴らし、プイッと横を向いた。


 僕は深くため息をつきながら、車を駐車場へ入れる。

 オフィーは不機嫌そうに一人でさっさと降りると、そのまま会社に入っていった。


 ——まあ、これも楽しい日常のひとコマだ。


 苦笑しながら、彼女の後を追った。


 

▽▽▽ 


 精神的に疲れた体を引きずり、事務所のドアを開ける。


 そこにいたのは——非日常の権化。


 ……のじゃロリ?


「おー、森川! 元気しとったかー」


 こちらに手を振るのは、大樹管理連盟の重鎮にして象徴、のじゃロリ大樹卿。


 その奥にもう一人。


 大樹連 僻遠統制局の局長であり、梢社長の姉——ルリアーノさん。

 険しい顔をした彼女が、社長と何か言い争いをしていた。


「だからー! 手を出さないでって言ったよね!」


「あなたが、あんな報告書を送ってくるからでしょ!」


 二人は喧々諤々の真っ最中だ。


 そんな二人の様子を、モニターが二台並ぶデスクの椅子で、ギシギシ音を立てながら見ているサブリナにこっそりと尋ねる。


「……何があった?」


 サブリナはニヤニヤしながら答えた。


「ほら、こないだ異世界行った件で、ヒトミッチが謝罪文送ったじゃん?」


「ああ、テンプレ文のやつ?」


「それそれ。でもさー、その後ろに『腹の虫が怒ってます!』って、クレームっぽい一文つけてたじゃん?」


「……あったね。子供の作文みたいなやつ」


「で、その中に 『異世界行ってから、大樹の調子が悪い』 って書いたのよ。それが向こうで 大問題 になっちゃったわけ」


「……え、あれって 嫌味 で書いたんじゃ?」


「そうそう!」


 サブリナはケケケと笑う。


「……冗談、通じなかったのか」


「みたいだねー」


 楽しそうなサブリナを横目に、僕は 梢社長とルリアーノさんの言い争い を眺めた。


 ——また、厄介ごとになりそうな予感がする。


 そんな嫌な予感がした直後、オフィーが大声を上げながら事務所に飛び込んできた。


「おい! セーシア、どういうことだ! 大樹の部屋に入るなって大樹連が……って、大樹卿様!?!?」


「おー、おぬし、オフィーリアだったか? 元気そうで何よりじゃ」


 オフィーが僕の横に ツツツ と寄ってきて、小声でささやく。


「なんで、大樹卿様がいるんだ……?」


 僕は 肩をすくめ、首を横に振る。


 そんな僕らの前まで、大樹卿様は短い脚でてこてこと歩いてきた。そして、空いている椅子に、ちょこんと腰を下ろす。

 

「なになに、おぬしんとこの社長から 大樹の様子がおかしい と連絡を受けてな。心配になって見に来たんじゃ」

 ニヤリと笑う、大樹卿。


 ……いや、これ確信犯だろ。何もないってわかってるくせに来たな?

 

「我らが世界を救ってくれた大事な大樹様じゃからのう。何かあってからでは遅いじゃろ? だから徹底的に監査・観察することにしたんじゃ」


 ——やっぱりな。社長の文句にかこつけて、こっちを調査する気だ。


「大樹卿様。その監査・観察って、どれくらいかかるんですか?」


「そうじゃのう……何もなければ、五日くらいかのう?」


——五日!? そんなに!?


「何しろ、3号大樹は今まで何もしてこなかったからのう。ここは徹底的に調査せねばなるまいて」


 ……放置してたのそっちでしょ?


「その間、我々はどうすればよいのでしょうか?」


 さっきまで強気だったオフィーも、さすがに大樹卿を前にすると少し控えめな口調になる。


 大樹卿は「ふむ……」と腕を組み、目を瞑って考え込んだ。


「基本的に余計な因子は入れたくないからのう……。とりあえず、おぬしら、大樹に近づくのは禁止じゃな」


「……え?」


 オフィーが固まる。


「ちょっと待ってください。五日間、大樹の部屋に入れないってことですか? じゃあダンジョンにも入れないじゃないですか!」


「そうなるのー」


「『そうなるのー』じゃありません!」

 梢社長が大樹卿に詰め寄る。

「大樹の部屋に入れないんじゃ、仕事になりません!」


 ルリアーノさんが慌てて宥めようとするが、大樹卿は「よいよい」と笑って答えた。


「報告書にもあったように、社員の皆も疲れておろう。ここらで一旦、骨休めをするのも悪くなかろうて」


「ま、まさか! その間に私たちの大樹を奪おうと……!?」


 梢社長が口元を手で押さえ、ヨロヨロと後ずさる。


「せんわ! おい、ルリアーノ、なんとか言え!」


「あのねー、こう見えて私はここの前社長なのよ? この会社に不利になるようなことはしないし、させません」


「へぇー、その割には、あの時は冷たかったじゃん?」

 サブリナがニヤニヤしながら口を挟む。


「そもそもじゃ、大樹に何かできるわけなかろう? それを一番よく知っているのは、おまえらじゃろが!」


 大樹卿があきれたようにため息をつく。

 

  ——と、その時。


「アレー? 皆さん集まってどうしたんですか?」

 

 事務所の扉が開き、ひょっこり現れたのは、当社専属社労士のツバサさんだった。


 「なんか楽しそうですね?」

 

  コテンと首を傾げ、にこやかに微笑むツバサさん……可愛い。が、しかし。

 

 ——このカオスな状況! どこ見てそう思った!?



お読み頂きありがとうございます!

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