09 始まるふたり
まずい。今週は全然勉強していない。塾も集中できなかった。
でも仕方がない。だってコウ君は私を好きなんだって。
そんなん知ったら集中できるわけがない。
両想いなんだ。相思相愛!
ダメだ。身体がふやけてしまいそうだ。
アレだ。コウ君は受験生の天敵だ。こんなん勉強ができるわけがない。
それでもなんとか塾の授業を乗り切る。そしてスマホを見ると着信があった。コウ君からだ。
胸をときめかせながら見ると、塾を労う挨拶と連絡がほしい旨が書かれていた。
どこまで私を虜にするんだろうって考えながらメッセージを送ると、話がしたいと返事が来る。もちろん私だって話したい。
流石に教室ではできないので、塾を出て路上でコウ君に通話をする。
「もしもし、今大丈夫?」
「はい」
「話ってなに?」
「すみません。無理言って」
「大丈夫、大丈夫」
「えっと、その、今日、先輩に好きって言われて、返事したじゃないですか、でもそのあとちょっと変じゃなかったですか」
なに?今になって違うって言いたいの?そんなの嫌だよ。
「何もないよ。コウ君のことが好きなのはほんとだよ。だからコウ君も好きだって言ってくれてうれしかったし。なんか嫌なとこあった?」
「嫌なとこって言うか、先輩が帰る時、なんか考えながらだったから、その、後悔とか、なんかあるのかなって思って」
「そんなことない」思わず大きい声が出てしまう。
「後悔なんかしてないよ。それより、すっごくうれしかった。もしかしたら、いっぱいいっぱいでそう見えたのかも」
「そうなんですか?」
「うん。ほんとは告白なんかするつもりじゃなかったんだけど。なに?勢いっていうか流れっていうか、自分でもなんで告白したのかわからないくらいだったから」
「そうだったんだ」
「うん」
「ちょっと気になってたんですよ。付き合うってなったのに、先輩は帰っちゃうし」
付き合う!
「ごめんごめん、そうだね。付き合うんだもんね」
「いいんですよね?付き合うってことで」
「当然だよ。私の方から告白したんだから」
「よかった。結構気になってたんですよ。安心しました」
「私もよかった。話ができて」
「えー、今はなにしてたんですか」
「今は塾が終わったから、塾の前で通話してるよ」
「すいません。家からだと思ってました」
「大丈夫大丈夫」
それで、またねって通話を終える。
付き合うんだって。付き合っちゃうんだ。ふふっ、コウ君と付き合うんだ。
……ダメだ、こんなとこじゃ。早く帰らなきゃ。きっと人に見せられない顔のはずだ。
結局、家に帰ってからも落ち着かない。
ご飯もそこそこにして自分の部屋でコウ君とやり取りをする。
基本、コウ君の週末はアルバイトだ。私も土日は塾がある。週末は時間が取れそうにない。だから登下校は一緒にしようって決まった。
こうしてお風呂に入って落ち着いて考えると、今日一日が目まぐるしかった。
告白して付き合うってことになった衝撃が強すぎてかすんじゃったけど、デートは楽しかった。
うん。お出かけじゃない。デートだ。くくっ。
コウ君は優しかったな。いろいろ気遣ってもらったし。
そう言えば、塾の時間で早く切り上げたけど、また今度出かけたらいいって言われたんだ。また今度。また今度デートしてもらえるんだ。ふふっ。
やばいやばい。気分がいいからのぼせるとこだった。
日曜日は朝からスマホを持ち歩いているけど連絡がない。
こんなにスマホが気になるのは、初めて買ってもらった時以来かもしれない。
こっちから連絡しようとも考えたけど、アルバイトをしているのはわかってるので、初めからしつこいのもどうかと思い悩んでいる。
それでもお昼を食べたあと、仕事はいそがしい?私も塾に行きますと連絡はした。でも既読すらされなかった。やっぱりお昼は忙しんだね。
休憩時間になったのでスマホを確認するとコウ君から連絡があった。最後に頑張ってくださいってあって、それだけでやる気がみなぎる。
塾を終えて、夕方にコウ君とメッセージを送りあった。それも少しだけ。
正直、何を話したらいいかわからない。
昨日は勢いで告白して付き合うようになったけど、コウ君のことを知らないのはかわらない。もっとよく知りたい。
それこそ昨日は、デートをしたから共通の話題があって話も続いたけど流石に二日続けては……他の人はどうしてるんだろう。
月曜の朝。登校だけどそわそわする。
駅に行ってコウ君に会うだけ。先週までと変わらないはず。でもやっぱり違う。
はやる気持ちのまま、いつもより少し早く家を出る。駅に着いてもコウ君はいない。
少ししたら弟が来る。
「あれ?コウは?」
「まだみたい」
「約束してたんじゃないの?」
「してないよ」
「いつもより早く出たから、約束かなって思ったんだけど」
「なんとなくかな」
「……まぁ、うれしいのかもしれないけど、コウは時間に厳しいっていうか、ちょうどを目指してるよ」
「えっ」
「遅刻はしないんだけど、早く来るってこともない。タイパとコスパにこだわってて、時間きっちりを狙うんだよ」
「そうなんだ」
そう言われるとそんな気もする。朝も時間ギリギリっぽい。待ち合わせも、そんなに待たされてはいないけど、いつも私の方が先についいている感じ。
そんな考え方なんだと思っていると、弟は話を続ける。
「姉ちゃん、こんな話はなんだけど、俺は姉ちゃんよりコウの方が大事だからな。あんまり変ことはするなよ」
「変なことなんかしないよ」
「言っとくけど、コウは未成年だからな。姉ちゃんはもう成人。何かあったら捕まるからな」
「なに。付き合ってるんだから何も問題ないじゃん。」
「犯罪者はみんなそんなことを言うらしいよ」
「犯罪者ってなに?」
「不同意性交って知ってるか?」
「!」
「俺は身内が犯罪者になるのは嫌だからな」
「だから犯罪者ってなによ」
「だってこの前から冷静じゃないだろ?」
「!」
「ほんと、頼むよ。ほら来た」
コウ君が来た。挨拶を交わして弟と話始める。いつもと同じだ。
でも、弟なんかより私と話をしてほしい。もう付き合いだしたんだし。
……やっぱり冷静じゃないんだろうか?いやいや、そんなことない。付き合いだしたんだから一緒にいたいって考えるの普通のはず。
私って独占欲が強い?そんなことないと思ってたけど。やっぱり冷静じゃないってこと?
それに未成年ってなによ。確かに私は成人したけどまだ高校生だし。ちゃんと付き合ってるんだから問題ない。
あと、今すぐどうこうとか思ってないというか、考えてないというか、コウ君はどうなのかなって。……やっぱり冷静じゃいられない。
ちょっと朝から桃色な考えをしていると、先輩行きましょうってコウ君から声がかかりドギマギしてしまう。
電車の中でコウ君そっちのけで検索に励む。
未成年と成人のお付き合いはグレーなんだとわかった。サクッと見た感じ成人男性のことばっかりだったけど、確かに捕まった例もある。高校性同士ならグレーからオフホワイトに寄っていた。関連でDVなんてのも目についた。
好きになって付き合えてうれしかったけど、それだけじゃないんだ。確か中高生が妊娠出産するってドラマもあったな。
集中してる私が気になったんだろうか、どうしたんですか先輩とコウ君が話しかけてくる。とりあえずSNSがねってごまかす。
何も問題はないはずって思いながら、コウ君の気になる動画について聞いて話を反らした。
お昼は別々にしようって決めてある。
ほんとは一緒にいたいけど、いきなり友達と離れるってのはねって。あとで問題になっちゃうのは困るし。
放課後は待ち合わせしてある。
駅の近くのショッピングセンターのフードコートで。
で、会話のネタも仕込んである。
でもコウ君はいないみたい、私が先だったか。
少ししたらコウ君が来た。
最後に進路希望調査があったんだって。それで少し進学の話になる。
私は何かやりたいこととかもないから、とりあえず偏差値の見合った大学を考えてる。将来は公務員かなぁって、漠然とした目標を話した。
コウ君もやっぱり目標はないみたい。なるべくいい大学に入って、いいとこ就職したいって。
高校性で医者になる。教師になる。何かのプロになるって、すごい決意だよねって話し合う。
そして進路調査の話が一段落したら用意してあるネタに移る。
「コウ君」
「はい」
「今更なんだけど、コウ君のことはほとんど知らないんだ」
「俺もです」
「でね、コウ君のことも知りたいし、私のことも知ってほしいから、百の質問をしようと思ってるの」
「なんです?それ」
「用意されてる質問にお互いが答えて、話し合うってやつ」
「それいいいかもしれないです」
「でしょ。ちょっと調べるね。ほら、自己紹介で使える面白い質問だって」
二人でサイトにある質問に答えていくけど五問目にして初恋はいつって質問だ。もっと、こう、順序ってあるって思わない?でもずっと気になっていたから聞いてみる。
「あのね、コウ君。前から気になってたんだけど、コウ君の初恋ってほんとに私だったの?」
「なんか恥ずかしいですね」
「私だって恥ずかしいよ。でもイツキから一目ぼれだったって聞いたし」
「他には?」
「それだけ。入学式の朝、いきなりそんなこと言われて、最初からかわれてると思ったよ」
「そんなことないですよ」
「じゃぁ、いつ頃?家にも遊びに来てたらしいけど、会ったことないよね?コウ君に悪いんだけど、全然記憶にないんだけど」
「俺も会った記憶ってないですね。最初の一回だけってかもって思ってます」
「ほんとに?たった一回?ほんとに一目ぼれなの?」
「多分そうなるんだと思います」
「多分って?」
「えっ、中学になると恋愛の話が多くなるじゃないですか」
「うん」
「俺はそんな気がなかったですけど、自分なりに振り返ってみたら、俺の初恋は先輩だったんだなってわかったんです」
「ん?どういうこと」
「小学校のことなんであまり覚えていないんですけど、多分昼休みだったと思います。俺とイツキが遊んでるところに先輩が来たんですよ。そしてイツキの面倒をみていったんですよ。何があったって訳じゃないんですが、その風景を見ていいなぁって思ったんです。優しいく可愛いお姉ちゃんがいてって。それが俺の初恋だと考えてます」
「いやいや、なにそれ。ほんとに私?そんなこと覚えてないんだけど」
「間違いないと思います。多分俺が四年で先輩が六年の時だと思います。時期はわかんないですけど。あの時は背が高くって、髪ももっと短かったですよね?」
「確かにその頃は耳が出るくらいのショートで、スカートよりパンツ姿多かったはず。背も高い方から三番目くらいだったかな。痩せてたのもあったから、高く見えたのかも」
「そうですね。今は俺の方が高いですし」
「でも、そんなことがあったんだね」
「はい」
「だったら、中学も同じだったじゃない。その、会いに来たりとしなかったの?」
「正直なところ、中二の時に考えるまで忘れてたんですよ」
「えっ」
「すいません。だから振り返って考えたら、先輩が初恋相手だってわかったんです」
「そうなんだ」
「はい。だから気が付いた時には先輩はもう高校に行ってたんですよ」
「でもでも、家に遊びに来てたって聞いたけど」
「確かに何度も遊びに行きましたけど、先輩を見たことはなかったですよ。トイレに行く時とか気になったんですけど」
「言ってよ」
「中学生が高校性に?そもそもいなかったんですよ」
「そうだけどさ」
「それに二こ上って、やっぱ壁があるじゃないですか、高校生だし。あの頃は好きってより。気になるって感じだったと思います」
「そう言われるとそうかも。中学生に言われても相手にしてないかも」
「でしょ。で、先輩は?」
「私?私は……どうなんだろ?」
「どうとは?」
「なんていうか、K-POPとか俳優さんとかカッコいいなって思ったことはあるけど、好きって程じゃなかったかな。う~ん、私の初恋はコウ君かな?」
「ほんとですか?」
「うん。自分で言うのもなんだけど、イツキからコウ君のこと聞いて、意識したら好きんなっちゃった」
「なんか複雑」
「何が?」
「俺じゃなくても、他の誰かが先輩のことを好きんなってたら、そっちの方と付き合ってたかもってことですよね?」
「えっ、そんなことないよ」
「だって先輩可愛いじゃないですか。なんか心配だな」
「か、可愛いなんて言われたことないよ」
「ほんとですか」
「ほんとほんと。そんなん言ってくれるのコウ君が初めて」
「俺だって女子に可愛いなんて言ったの初めてです」
「それこそほんと?」
「はい。入学式の日に先輩を見たとき可愛いて思いました。やっぱ、この人だって」
「そんなこと言われると恥ずかしいんだけど」
「でも、可愛いって思ったのはほんとですよ」
「わかった。わかったからいいよ。次、次の質問」
「はい」
もうコウ君ってストレート。あんなに言われるとそうなんじゃないかと思っちゃう。実際付き合いだしたんだし、そうなんだろうけど。
あと目を見て可愛いって言うのはズルい。絶対に好きになる。好きにならない訳がない。
でも、可愛いんだ。毎日走ってたから化粧なんてほとんどしてなかったのに。
次の質問を続ける。
理想のデートについては、先週のデートは理想っぽかったって、お互い話した。
でも欲を言えば写真が撮りたかったかな。風景ばかり撮ってたけど、コウ君の写真。できれば一緒のとか。
そのあとの質問は一転して好きなものとか普通だった。
途中で自分の性格についてって質問で、コウ君は血液型がB型だからちょっとこだわりがあるんですよって話す。
私は逆にそんなにこだわりはないかなって。血液型は家族全員O型だって教えた。
誕生日はお互い八月だけど、コウ君はしし座で私はおとめ座。来年は一緒に誕生日をお祝いしようって約束をする。
なんかいいな。
今まで話題に困っていたのが嘘のように会話が進む。
それに質問から脱線する話の方が面白い。コウ君のことがいっぱい知れる。
でも、もう二時間も話していたからって帰る。もっと一緒にいたいって思うけど、また明日があるって思える。
参考にしたサイト
マイナビウーマン
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