08 弟の努力
部活が終わって午後は家でごろごろしている。
姉ちゃんとコウが二人で出かけているから。
姉ちゃんは何も言ってこないけど、コウからは話を聞いている。
初めてのデートだから何もないとは思うけど、二人とも知っている人間だから気になる。
で夕方五時に姉ちゃんが帰ってきた。早くないか?
姉ちゃんが変なことしてなきゃいいけど。
普段なら出迎えることなんかしないけど、話しかける
「で、どうだった?」
「何が?」
「息抜きは楽しかったとか」
「うん、楽しかった」
「そんな風には見えんけど」
「そう?」
「なんかあった?」
「コウ君は好きなんだって」
「何が?」
「私のことが」
「コウが告った?」
「いや、私が告白した」
「姉ちゃんがしたんだ」
「うん」
「それで?」
「それで、コウ君も好きだって言われた」
「よかったじゃん」
「うん、よかった」
「でも、あんまうれしそうじゃないな」
「えっ、うれしいよ」
「そうは見えないけど」
「そう?」
「ああ。で、これからどうする?」
「どうって?」
「付き合うんだろ?」
「付き合う?」
「だって二人とも好きなんだろ?」
「そうね」
なんか淡々話してるけど、本当はなんかあったんじゃないかと考える。
そもそも、コウと出かけたって隠しもしないんだな。
「ねぇ」
「なに?」
「どうしたらいい?」
「何が?」
「コウ君は好きなんだって」
「さっきも聞いた」
「うん……」
やっぱり、なんかあったんだ。本当は言えないようなことがと確信めいていたら、
「コウ君も好きなんだって、私のことが。どうしよう?どうしたらいい?二人とも好きなんだって。そうだよね、二人とも好きなんだから付き合っちゃうよね。えー」
いきなりテンションマックスで話し始めた。それも笑顔で。正直キモい。
「よかったな」
「うん。でね、今日はね、コウ君が優しくてね、いろいろ気を使ってくれたの」
「いいよ、そんな話は」
「聞いてよ」
「やだよ。それより、さっきまでと態度が違うけど、ほんとはなんかあったんだろ?」
「何もないよ。ちょっと信じられないっていうか、信じられる?」
信じたくないな。
「なんで?」
「だって、コウ君、そんな感じなかったじゃん」
「そうか?」
「それに私が告白して、すぐOKしたんだよ。信じられる?」
「コウも好きだったんだろ」
「そうなの。好きなんだって」
変な声で笑い出した。やっぱキモい。
二人のことが気になっていたから話しかけたけど、正直話しかけるんじゃなかったと思った。
まとまりの話を延々と聞かされる。
塾の時間で切り上げられたけど、ヤバかった。
それじゃと、次はコウと通話をする。
「今いい?」
「いいよ」
「姉ちゃんから聞いた」
「なに?」
「上手くいったんだってな」
「そう言ってた?」
「違うのか?喜んでいたけど」
「そうなんだ」
「やっぱ、なんかあったのか?」
「いや、よくわかんないんだけど。告白されたから返事をしたんだけど、またねってみたいに分かれたから、どうなんだろうって思ってて」
「あー、確かに最初はなんか考えてる風だったな」
「そうなんだ」
「でも途中からすげぇテンションでコウのこと話は始めたぜ」
「なんだって?」
「好きだって」
「どうんな風に?」
「だからすげぇって喜んでた」
「ほんと?」
「ああ」
「駅じゃ、そんな感じじゃなかったけどな」
「どんな風だった?」
「なんか、逆にテンション低めだった」
「ああ、始めはそんな感じだった」
「だろ?」
「だったら聞いてみたらいいじゃん」
「どうやって?」
「どうやってって言うより、付き合うんだろ?」
「付き合うんだろうな……」
「なんか、コウの方がテンション低いけど大丈夫か?」
「大丈夫だけど」
「あとになって誤解ですってなったら、姉ちゃん間違いなく病むぞ」
「ならないって」
「いやいや、あの喜びようで拒否られたらおかしくなるって」
「拒否なんかしないって」
「そっか」
「なに?」
「ほんとに付き合うんだなって」
「そうだな」
「まぁ、これから話し合えばいいよ」
「ああ」
「それじゃぁな」
通話が終わったけど、コウが心配になってきた。
というか、姉ちゃんが心配だ。なんか振られる姿が想像できる。
やっぱり手を貸すんじゃなかったと後悔をし始めた。