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06 ふたりの誕生会

 今日から二学期が始まる。この日が待ち遠しかった。やっとコウ君に会える。

 夏休み中も連絡はとれなかった。

 私はきっかけが掴めなくて連絡ができずにいたから。

 友達には、ひまー、どっか行った?とか前置きなく連絡できるのに。

 本当はこの前の誕生日に一言でも欲しかった。でも誕生日を聞かれてもいないのに私からは言えないし。

 誕生日のデートとかしてみたかったな。

 寂しい夏休みを振り返っているとコウ君が現れ、弟と話し出す。


「ひっさしぶりだけど、大丈夫か?」

「何が?」

「真っ白じゃん」

「そうか?」

「ほら」と言いながら、二人でシャツの袖を捲って日焼けを比べる二人。

「ほんとだ。全然気にならなかった」

「なっ?」

「部活しないとこんなに違うんだな」

「そうだな。去年までは一緒だったからな」

「バイトと家の往復だけだとこんなに違うんだな」

「バイトの話は聞いてたけど、どっか行った?」

「全然。休みは寝てた」

「誕生日は?」

「バイトだったよ」

「えー将来働き出したら俺もそうなるの?」

「そうなんじゃねーの」


 待った待った。なに、コウ君の誕生日も夏休みだったの?

 イツキも知ってるんだったら教えてくれてもいいじゃない。同じ八月だよ。いい口実じゃないと思っていると、


「姉ちゃんも8月が誕生日だったんだよ」

「へー、そうなんですか。全然知らなかったです。おめでとうございました」

「えっ、ありがとう。コウ君も8月なんだね。おめでとう。でも教えてくれてもよかったじゃない」


 祝ってもらってうれしかったけど、ちょっと愚痴ってみた。


「聞かれてもいないのに自分から誕生日は言えないでしょ?なんかイタイじゃないですか」


 よかった。連絡したらイタイって思われる所だった。


「わかるよ。じゃぁ、友達とかでお祝いしたの?」

「そんなんないですよ。メッセージすら着ませんよ。なっ?」

「えっ。ああ、そうだな。逆に仲間内だとたかったりもするな」

「確かに。じゃぁなんかくれよ」

「えっ、コウの方が金持ってんじゃん」

「金の問題じゃないだろ。気持ちだよ気持ち。ね、先輩」


 コウ君は私と話し始めたのにすぐにイツキと移って、なんでって思っていたら、また私に話を振ってくれた。


「そうだね。確かに気持ちは大事だね。イツキ、私にもなんかちょうだい。あっ、今日のお昼でもいいよ」

「あっ、俺もそれでいいよ」

「残念。祝ってやりたいけど、今日から部活があるんだなぁ」

「じゃぁ、いいよ。二人で行ってくるから、あんたはお金出してくれたら」


 コウ君を交えた会話が楽しいのでつい軽口を叩いたら、


「えー、じゃぁ、ひとり千円までな」


 イツキは本当にお昼をごちそうしてくれるらしい。でも、


「なんで?」

「なんでって、二人にたかられたから?」

「それでもお金出すって」

「その代わり、俺ん時もおごってもらうからな」

「そういうこと。ちょっとおかしいと思ったんだよ。あんたがお金出すって言うの」

「ちゃんと祝う気持ちはあるって。だから俺ん時も祝ってよ」


 笑いながら、そう提案してくる。


「なら遠慮はしない。逆にちょっと高くなるかも」

「なんだよそれ」

「気持ちでしょ?」

「高くなったら、俺ん時も高くするからな」

「はいはい」


 でも……


「コウ君はどうする?」


 イツキの話は渡りに船って感じだけど、コウ君にその気がないのなら……


「せっかくイツキがおごってくれるって言うのなら、気が変わらないうちがいいかなって」

「そうだよね」よしっ。

「はい」

「じゃぁ、始業式が終わったらどっか食べに行こう。イツキのおごりで」

「はい」


 そして話をしながら三人一緒に電車に乗り込んだ。




 結局、お昼は、前に勉強会をしたファミレスになった。

 コウ君が働いているお店は、ちょっと恥ずかしいらしい。

 で、今は学校の玄関でコウ君が来るのを待っている。

 そう、待ち合わせだ。

 なんだろう。ただ待っているだけなのにドキドキする。

 しばらくすると、遅れてすみませんと言いながらコウ君が現れる。

 私は「ううん、今来たところ」と伝えながら、これってデートの定番のセリフだよねって思ってしまう。

 ふふっ、デート。

 そして弟から連絡あった?と言いながらお店に向かい歩き出す。


 お店に入ってメニューを決めて待っていると、コウ君はあちこち見ている。ううん、お店に入ってから、ずっとキョロキョロしていた。

 私と来たから周囲が気になるのか?もしかして嫌だったとか?

 確かになし崩し的にお昼を一緒にすることになったから……

 嫌だって言われたら悲しいけど、でもコウ君の態度が気になる。だから聞いてみた。


「なんか落ち着きがなく、いろんなとこ見てるようだけど気になる?」

「あっ、はい、わかります?」


 やっぱり周囲が気になるんだ……


「なんか最近、バイトに慣れたせいか、他の店が気になるんですよ。システムとか対応とか。あとキッチンやバックヤードも」

「えっ、お店が気になるの?」

「そうですね。お昼だけど、キッチンスタッフは二人なのか三人なのかとか」

「よかった」ほんと、よかったよ。

「はい?」

「お店に来てから、キョロキョロしてたから、私と一緒で嫌なのかなって考えたよ」

「いやいや、そんなことないですよ」

「ほんと?」

「はい」


 それからはコウ君とファミレス談議で、食事中も話題が途切れることはなかった。

 それに一年生なのにしっかり仕事とか見てるんだなって感心もした。

 食事が終わってお店を出る時、お金は私が建て替えた。どうせイツキと家は同じなんだからと。

 で、イツキには半文感謝だね。自分にも祝えって要求しなきゃいいのって、話しながら駅に向かった。

 なんだかいつもの登校と違って、ずっと話ができている。すごく楽しい。ドキドキするけど。

 電車の中でも話が続く。コウ君はアルバイトで、私は受験で、お互い夏休みらしいことはなかったと。

 夏はやっぱり海だよね。海行きたかったなと話していると、地元の駅に着く。

 コウ君は、今日は楽しかったです。イツキによろしく。じゃぁ、また明日と言って別れた。

 コウ君、私も楽しかったよ。こんなに話をしたの初めて。ずっと二人っきりだったのも初めて。

 コウ君、好き。

 きっと入学式の日に、イツキからコウ君の話を聞いたときは好きなっていたんだと思う。

 直接は聞いていないけど、初恋だと聞かされて、興味が湧いて、ずっと見て、ずっと思ってた。それで好きにならないわけがない。

 恋に落ちるってこういうことなんだってわかった。

 でも、今までが楽しかったせいか、ひとりって寂しんだなってわかった。




 夕方、部活が終わった弟が帰ってきて、お昼はどうだったと聞かれる。

 素直に楽しかったと話す。そして私からのお礼とコウ君からのお礼も伝えた。

 すると「感謝しろよ」と強要された。

 だから素直に「うん、ありがと」と言葉にした。


「……わかってねぇなぁ」





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