04 地区予選
ゴールデンウィークが終わればすぐにインターハイ予選だ。高校生活最後の大会。
中学から陸上を続けてるけど、どんなに頑張っても全国大会に出れないことは自覚している。
しかしこれが最後だと思うと気合が入る。だから暑い放課後だって死ぬほど走りこんでる。
でもなんで五月なのにこんなに暑いんだろう。
夕方、練習を終えて帰宅する電車の中で考える。どうやったらコウ君と接点ができるか。
いっそ大会の応援に来てくれないかなとも考えたけど、それを伝える手段もない。
そもそもコウ君との共通点は弟しかない。やっぱりイツキを使ってどうにかならないかと思いあぐねる。
……サッカー部も予選があるはずだから、一緒に弟の応援をってのは無理か?ひとりだとアレだから知ってるコウ君と一緒にって。いやイケるかもしれない。
少し考えがまとまったところで駅に着く。
夕食の時、弟にサッカー部のことを聞いてみたら、予選は一回戦敗退でもう終わってるんだと。
そうか、サッカー部は使えないんだと考えていると、弟が話を続ける。
「姉ちゃんは?」
「私?私はもうすぐ」
そこに母親が参戦してくる。
「最後の大会だし、応援に行こうか?」
「えっ、いいよ。どうせ予選落ちだから」
「いつやるの?」
「大会は月末の金土日の三日間で、女子三千は土曜の午後」
「土曜ならいいじゃない。みんなで行く?お父さんもいいよね」
「そうだな。ヒカリの最後くらいは見に行くか」と父親も乗り気だ。
「イツキは?お姉ちゃんの最後見に行く?」
「はぁ、行くわけないじゃん。なんで俺が姉ちゃんを見に行かなきゃ……って、それもありか?」
「なに?行く気なった?」
「わからん。だから俺のことはいいから二人で行ったら」
「そう、じゃぁ、お父さんと二人で行ってくるよ」
「ああ」
結局、コウ君に会う機会はなかったけど、私の最後の大会を両親が見にくることは決まった。
五月末、この週末の天候はいいらしい。そして私の最後の大会が始まった。
だから精いっぱい走った。
走ったけどビリだった。それに自己ベストも出せなかった。
お母さんたちが来てるから、いいとこ見せたかったんだけどな。
これが最後って、ちょっと締まらないなぁ。まぁ、しょうがないか。うん。
グラウンドの周囲を見渡したけど両親の姿は見つからなかった。
あとは他の子たちの競技が終わるのを待って帰るだけ。
よし、汗拭いて着替えるかと施設棟に向かうが、途中で「見に来てやった」と弟に声をかけられる。そして隣にはコウ君もいる。
コウ君がいることに唖然としていると「そんなにショックだったん?」と弟が話を続ける。
あったりまえじゃん。コウ君が来るなんて。
「自分でも予選落ちだって言ってたじゃん」
そっちじゃねーし。
「いや、コ、コウ君が来るなんて思ってもいなかったから」
「コウ君?」
しまった。いつもの調子で呼んじゃった。イツキも突っ込まなくていいのに。
「いや、イツキがいつもコウって呼んでるから……」
「俺はなんでもいいっすよ。コウでもコウスケでも。もちろん先輩だから呼び捨てでいいですよ」
「先輩……」
なんだろう、同じ言葉だけど部活の後輩たちとは違う感じがする。
「でも先輩残念でしたね」
「ありがとう。でもそんなに気してないよ。タイムもいつもと同じくらいだったし」
「姉ちゃん、このあとはどうすんの?」
「このあと?」
「すぐ帰れんの?」
「いや、他の競技の子が終わるまで残って、そのあと解散になる」
「そっか、一緒に帰れないか」
思わず息をのむ。緊急イベント発生?
「コウ、一緒に帰れないんだってよ」
「そっかぁ。じゃぁこのあとどうする?」
「とりあえず駅前……」
「待って!」なにこのチャンス。なんとかしたいと思い二人の話に割り込む。
「なに、姉ちゃん」
「ちょっと聞いてくるから。帰ってもいいか」
「先輩、無理しないでいいですよ」
「ああ、一緒に帰ったからってなにってこともないし」
それは十分なことですって。
「でも……」
「せっかく部活もバイトもさぼったから、中学の連中に声かけてみないか」
「いいかも。この前のクラス会以来だし」
「なっ」
二人はこのあとの予定を相談しながら私から離れていった。
ひとり残された私は、汗を処理してジャージに着替えて、部活のみんなの所に戻った。
なんで一緒に帰れなかったんだろう。
というか、なんでコウ君は来たの?きっとイツキが誘ったんだろうけど……
だったら前もって教えてくれてもいいのに。そしたら一緒に帰れたのかも。一緒に帰れたら打ち上げとかできたのに。
ああ、なんで教えてくれなかったのと考えていると、高校生活最後の大会で惨敗したことなんて気にもならなかった。