22 ふたりで
久しぶりに早朝の電車に乗る。やっぱりいつもよりは人は少ない。
今日は受験で都内の会場に向かう。
自由登校だった三学期も、学校で勉強するためにコウ君と登校していたからひとりは寂しい。
正直に言えば、一緒にいたかったから登校してただけ。でもそのおかげで昼型がキープできてた。言うなれば愛の力だ。
そして電車の窓からは見慣れない風景が流れるようになって来る。
受かったら通学も別々になるんだよなって心が少し沈んでしまう。
そんな時にスマホが震える。見るとコウ君からの励ましのメッセージだ。だからありがとう、頑張るよって返事を入れていたら、写真が貼り付けられた。
指輪がはめられたコウ君の左手。
入力をやめて自分の左手の指輪に触れる。お揃いの指輪。
そして今日も一緒だよって思いながら試験会場に向かった。
大学受験は愛の力で合格した。
でも今は愛の力が試されている。
私の受験が終わってもコウ君は普通に授業があるので結局は放課後まで時間を持て余す。
でもコウ君の授業が終われば、必ずどちらかの家で過ごしている。そこはいい。
しかし今日は私が家で夕飯を作る話になった。毎日暇なんだからコウ君に夕飯を振る舞ったらってお母さんが言い出した。それもコウ君がいる時に。
私にも負けられない戦いがあった。
それで今カレーを作ってる。別に日和ったわけじゃない。負けられない……コウ君の前で失敗できないから、確実に点を取りに行く。家で水の量を計ったのは初めてかもしれない。
愛の力と言うか当然と言うか失敗することはなく、コウ君からも誉め言葉を貰えた。
でもそこに水を指すのがお父さん。もっとちゃんとしたものも作らないとなって。
カレーだってちゃんとしてるもん。今日は初戦だったからって思っていたら、コウ君が今度は一緒に作りましょうかだって。
二人でキッチンに並ぶって、もう新婚みたいって考えていると、コウ君の方が上手いんじゃないかって弟がツッコミを入れてくる。
それはあり得る。アルバイトで調理してるし。まずいまずい。
受験が終わっても努力には終わりがなかった。
朝、制服を着た時に改めて今日が最後なんだなと思う。
卒業までにいろんなことがあったけど、この一年は特別だった。コウ君に出会えて楽しかったし、うれしかったし、幸せだった。
でも一緒の通学も今日が最後なんだなと思いながらコウ君と学校に向かう。
そして学校に着くと卒業式の看板が目に入る。
コウ君と出会ったのは入学式の日。ここで撮った写真は毎日よく見てたな。だから、
「コウ君、卒業式が終わったら、ここで記念写真撮ろう」
「いいですよ」
「イツキに連絡しておくよ」
「でもここで写真って、入学式を思い出しますね」
「やっぱり?」
「はい。あの時も先輩と並んで撮りたかなって思ってたから」
「ほんと?」
「はい」
「じゃぁ今日は並んで撮ろうよ」
「はい」
「人に頼んだ張本人が遅いってどういうことだろうな?」
「なんかあるんだよ。友達と写真撮ってるとか」
「そうなんだろうけどさ。時間に厳しいコウは我慢できる?」
「我慢て言うか、仕方がないんだろうなって」
「そうか?でも思ったことはちゃんと言った方がいいぜ」
「ああ、わかってる」
「ごめんね、遅くなって」
「あ?今その話してたとこ。コウが怒ってた」
「ほんと?ごめんね。部活の子がちょっと」
「いいですよ」
「姉ちゃん、そういうのが重なると別れるらしいよ」
「!次は遅れないから」
「はいはい、わかりましたから」
結婚する前から離婚の危機を迎えるところだった。
でも記念写真が撮れた。コウ君と出会って一年。ん?十一カ月か?
コウ君と並んでるもの。コウ君の腕に抱き着いているもの。そして二人そろって左手を上げているもの。
最後になぜか姉弟で並んだものも撮ったけど、コウ君の時よりも恥ずかしかった。
そしてサッカー部の送別会がある弟と別れて二人で帰る。
もちろん手を繋いで。
そしてこれからもずっと二人で。
お読みいただいてありがとうございます
次が最終話になります。
面倒でしょうが十分後になりますのでよろしくお願いいたします。




