20 クリスマスプレゼント
指輪を付けて初めて学校に行く。
駅でコウ君に会うだけで笑顔になる。
教室に着いた早々、友達から指輪を指摘される。
本当は自慢したいくらいなのだけど、自分のキャラではないから黙っていた。だからいじられることがうれしく思える。
どうしたの?彼から貰ったの。キャーってお決まりのような流れになる。
シンプルだけど地味過ぎないって言われるから、内側にダイヤがはまってるって教えると、見せて見せてってねだられる。
仕方がないなぁって言いながら、指輪を抜いてみんなに見せる。ほんとだー。名前が書いてある。イヤラシーって言われる。
別にイヤらしくなんかないし。
昨日買いに行ったのって聞かれたから、昨日は受け取っただけ。先週宝石屋さんに行ってサイズ計って名前をお願いしたのって教えると、作ったんだ、出来合いじゃないんだ、すごいすごいって盛り上がる。
そこで結婚指輪だからって惚気てしまった。
そのあとはたいへんだった。
脇で話を聞いていた男子も混ざってきて、高校生で結婚とかどんなラブコメだよって。
友達には、あんたの運は使い切ったから車とか気を付けた方がいいって言われる。
運じゃないし。
次の日の朝、ショートホームルームが終わったら先生に呼ばれる。
少し話があるからお昼に職員室に来るようにだって。
心当たりがないから、なんだろうって考えて、変な仕事でも押し付けられるのかなって思った。
そして言われた通り、お昼休みに担任のところに行くと、話はコウ君とのことだった。
私が付き合い始めたって噂があるけど本当かと。はいって答えたら、結婚するって噂もあるんだけどって言われる。
もう先生にまで噂になってるのって思いながら本当ですって答える。
当然相手はってことになり、正直にコウ君のことを伝えた。
それから担任は他の先生のところに行って話し始める。
ちょっと、私はそっちのけってどういうことって考えながら左手の指輪を触って待っている。
しばらくしたら担任が戻ってきて、放課後もう一度来てくれないかだって。
帰りはコウ君と一緒できないかもって考えると億劫だ。
仕方がないけど担任の話だから、今あったことと放課後のことをコウ君に連絡した。
五時間目が終わったら、珍しくコウ君から連絡あった。
コウ君も放課後呼ばれたんだって。
なんとなく二人そろって話を聞きたいんだろうなって思った。
結局、放課後担任の所に行ったら、コウ君とコウ君の担任を合わせて四人で話すことになった。
話の内容はやっぱり結婚のことだった。
結婚の話は本当で両方の親も知ってるって言ったら、コウ君の担任がマジかって言ったのが印象的だった。
私は弟も知ってるって伝えたら、コウ君は証拠の指輪もありますって左手を出したので、私も倣って左手を出す。
二人の指輪を見た担任が、親と連絡がとれるかって聞いてきたけど、両親とも仕事ですって答える。そこにコウ君がうちなら母親がいますって。
それでコウ君のお母さんとコウ君の担任が話すことになる。
話し中は暇なので、十八だから結婚しても問題ないですよねって聞いたら、わからないらしい。
結婚は憲法で認められた権利なのでできるんだろうって。例え校則で禁止されてたとしても憲法を無視できないから。でも学校に残れるかは裁判になるかもって。
それにまだ上の方でも答えが出てないんだって。で、上ってなに?
そんな話をしていたらコウ君の担任の話が終わったみたい。また、マジかって言ってる。
私たちの話が本当だってわかってくれたみたいで、もう帰っていいって。
帰りはコウ君と一緒になれたけど、これで学校にも知られちゃったねって話をする。
今朝もショートホームルームが終わったら担任に呼ばれた。
二日続けてって、まるで問題児みたい。
内容は、受験生だから問題を起こさないようにだって。だから問題児じゃないって。
放課後、今朝の担任とのことをコウ君に話す。私たちに問題なんてないよね。順調だよねって。
コウ君もそうですって頷く。
でも問題になるようなこともしちゃうって考えもあった。
コウ君とのお付き合いは順調だ。
中間テストの時は私の家で勉強会をした。それも三人で。なぜかコウ君が弟を誘ってた。
二人っきりの勉強会だって思ってたのに。
だから期末テストの時はコウ君の家で勉強会をした。当然弟は来なかった。
しかしコウ君の家の居間で勉強していたから、コウ君のお母さんが近くにいた。
もう勉強するしかなかった。なんでコウ君の部屋じゃなかったんだろう?
普通、付き合いだして手を繋いだりしていたら、もっと先だってって考えるはず。
でもなかなか先に進めない。
二人っきりの時間は毎日あるけど、それは通学路だったりフードコートだったり人目がある。
それはお互いの家でもそうだった。必ず誰かの目があった。
純粋に二人っきりにはならなかった。
そして冬休みになる。
受験勉強も厳しくなってくるけど、クリスマスやお正月があってコウ君と一緒に過ごせると考えるだけでうれしくなる。
そう思っていたけど、コウ君の冬休みはアルバイトが忙しいんだって。ファミレスだから人が休みの時は大変だって。基本午後から夜にかけてのシフト。当然クリスマスも仕事。
ただお正月はだけはお休み。働き方改革でそうなってるらしい。
終業式が終わったあと、いつものフードコートでお昼を摂りながら教えてもらった。
せっかくの冬休みがって、子供みたいな考えでいたら、コウ君が「ちょっと早いけどプレゼントを買いに行きませんか」と言い出す。
私は、今日お金持ってきてないから、また今度にしようって話すけど、一緒に買い物できるのは今日くらいしかないからって押し切られる。
コウ君は何を贈ったらいいかわからなかったからマフラーでいいですかと言いながら歩き出す。
そんなコウ君の指に自分の指を絡ませて並んで歩く。
お店の中はクリスマス真っ盛り。マフラーもたくさんあり目移りす。でもせっかくコウ君と一緒ならコウ君に選んでほしい。
「コウ君はどんなのがいい?」
「えっ、先輩の好きなのでいいですよ」
「コウ君に選んでほしい。だってコウ君のプレゼントだから」
「そうですか……でも嫌だったら言ってくださいね」
「うん」
それから二人でいろんなマフラーを試したけど、肌触りがいいってカシミアのものを渡してくる。確かに肌触りはいいけど、やっぱり高いじゃん。桁が一つ上だよ。
だからもっと普通のでいいよって伝えると、
「ずっと使ってもらいたいんですよ」と言う。
コウ君はずっととかいつもとか、そういう言葉を使う。
そのたびに私だってずっと一緒だからねって思う。
結局、淡いブラウンの物を買ってもらった。
そしてフードコートに戻って来て、せっかくしてもらったラッピングをほどきマフラーを取り出す。
コウ君は私を立たせて、買ったばかりのマフラーを私の首に回して胸の上で結んでくれるけど、私はその最中ずっとコウ君の唇を見ていた。
こんなに近くで真正面から見るコウ君は初めてだった。もっと近寄ったらって思う。
でもそんなことは起きなくて、どうですかってコウ君が聞いてくる。
身体を熱くしながらも、やっぱり肌触りがいいねって答える。
それでもマフラーに巻き込まれた後ろ髪が気になるから髪をかき上げると、
「先輩、すごく可愛いです」と言われる。
今までもコウ君には可愛いって言われてる。それなのに今は熱くなった身体が溶けてしまいそうだ。
ダメだ。ひとりで立っていられない。
でもコウ君に触れたらきっと抱き着いてしまう。こんな公衆の面前でも。
もう頭の中が桃色に染まっていた私は崩れるように椅子に座りテーブルに突っ伏す。
心配に思ったコウ君が大丈夫ですかって声をかけてくるけど、大丈夫のわけがない。
顔を上げて「恥ずかしかったけど大丈夫」って、半分だけほんとのことを伝えたけど、どうしてもコウ君の唇に目が行ってしまう。
私って、こんなに肉食系だったんだって思いながら、冷静になろうと必死だった。
しばらくして落ち着いたら帰ることになった。
ショッピングセンターを出ると外の空気は冷たいのに心地よかった。身体は熱かったけど、貰ったマフラーのせいじゃないとはわかっていた。
今日はひとりで買い物だ。
昨日買ってもらったばかりのマフラーを巻いている。とってもすべすべ。
買うものは決まっている。コウ君へのクリスマスプレゼントでマフラーに決めた。
ちょっと苦しいけど、コウ君が買ってくれたものと同じくらいの値段でと考えている。
いつものショッピングセンターまで来て男性服のお店に入る。でもマフラーの種類が少ない。それに色が暗めだ。安いものなら明るい物やチェックの物なんかもあったけど、カシミアでは気に入ったものは見当たらなかった。
マフラーのコーナーで思案していたときにひらめいた。お揃いのマフラーはいいんじゃないかって。女物だけど淡いブラウンで無地。男の人が使っても問題ないはず。
男性服のお店を出て、昨日のお店に行く。同じマフラーはまだ残っている。でも女物だ。
自分だけの判断では心配だったから店員さんに相談をする。お揃いのマフラーにしたいけど、男性には向かないかなって。
そしたら昨日の彼氏でしょって。高校生なら明るくても大丈夫だからいいんじゃないかって背中を押してもらった。
クリスマスイブの晩に、コウ君にプレゼントを渡したいから、遅い時間だけど出かけてもいいかってお母さんに相談した。
気持ちはわかるけど、流石に二十一時以降は許せないかなって。
コウ君の家なら十分だって食い下がったけど、アルバイトが終わってから向かって往復したら二十二時じゃない。それはもうダメな時間だって。
もう約束してるのって聞かれたけどサプライズで黙っていたって伝える。
だったら明日の昼間にしたらって言われて渋々だけど従うことにした。
そしたら何をプレゼントするのって言われて、お揃いのマフラーだって答える。
それを聞いたお母さんがお揃いって大丈夫って心配するから、自分の部屋からコウ君からもらったマフラーを持ってきて見せる。
お母さんはいい色ねって言いながらマフラーを受け取ると、これってカシミア?高いんじゃないのって言う。
だから正直に値段を伝えると、
「あの子ってすごいよね。ここぞって時にはお金を厭わないんだ。でもいいものを貰ったね」って。
実際同じものを買ったから高いと思った。でも惜しくはなかった。
お母さんの言う通りいいものを貰ったと思う。だけど品質の問題じゃなくて、気持ちの問題。
コウ君の気持ちがうれしかった。
私の気持ちが伝わるといいな。喜んでくれたらうれしいなって思った。
その夜、アルバイト中のコウ君にメッセージを入れる。
明日プレゼントを渡したいから、アルバイト前にコウ君の家に行きたい。だから都合のいい時間を教えてと。
それと、クリスマスイブのイブはイブニングの意味なんだよって豆知識も。
夕方、お母さんと話してコウ君のプレゼントが気になったから、世間の相場ってのをネットで調べた。
やっぱりコウ君のは倍以上高いってわかった。
そしてネットを渡り歩いたらクリスマスの豆知識も得たので、さっき披露してみた。
二十一時半頃、コウ君から連絡があった。
プレゼントは気にしなくてもよかったのにって。
でも私もしたかったし、それにもう用意してあるって伝えると、アルバイトは十五時からだから十四時にコウ君の家でと決まった。
今日はクリスマスプレゼントを渡すためにコウ君の家に訪れた。コウ君から貰ったマフラーを着けて。
コウ君のお母さんに招き入れてもらって、お茶を進められるけど、すぐに帰るからと断った。
アルバイトの時間もあるから早速プレゼントを渡す。
コウ君は開けてみてもって聞いてくるけど、逆に私の前で開けてほしい。どんな反応なのか気になる。だから「開けて」と伝える。
でも一番に反応したのはコウ君のお母さんで「お揃い?いい色ね」だった。
そして気になるコウ君の言葉は「同じやつですか?高いのに。無理したでしょ?」だった。
喜びの言葉でなくてちょっと残念に思ったいたら「お揃いですね。うれしいです」って笑顔で言われる。
一瞬にして私も嬉しくなる。
だから用意してあった言葉を続ける。
「私もコウ君に巻いてあげる」
恥ずかしそうにするコウ君からマフラーを受け取り、つま先立ちになってコウ君にマフラーを巻く。
するとコウ君が、
「なんか奥さんにネクタイを着けてもらってるみたいで、恥ずかしいですね」って言う。
その言葉を聞いた瞬間、もう一度爪先立ち、コウ君の上着につかまって唇を重ねていた。
そしてコウ君と視線が合うと自分がしたことが恥ずかしくなって慌てて身体を離す。
こんなことまでするはずじゃなかったのに……
そこに「いいものを見たわ」ってコウ君のお母さんが追い打ちをかけてくるから、ますます恥ずかしくなってうつむいてしまう。
さらに「今度は写真を撮るから、もう一回」ってトドメを刺してくる。
そこにコウ君が「お母さん!」って声をかけたので、それを機にお邪魔しましたって告げて、コウ君の家から逃げ出した。
家に帰る途中でコウ君から通話がきた。
自分がしたことが恥ずかしかったけど通話にでる。
「先輩どうして出てったんですか」
「えっ、だって恥ずかしいじゃない」
「そうですけど」
「……あんなことする気はなかったの。ほんとに……」
「俺はうれしかったですよ」
「!」
「いつかはしたいなって思ってたけど、なんかタイミングがなかったし」
「……ほんと?」
「はい」
「嫌じゃなかった?」
「そんなわけないじゃないですか。でも……」
「でも、なに?」
「初めてが母親の前ってのが……」
「言わないで!」
「先輩が出てったあとも色々聞かれて・・・・・」
「だから言わないで」
「はい」
「……ごめんね」
「だからうれしかったです。それに……」
「それに?」
「それに最高のクリスマスプレゼントになりました」
コウ君からもらったマフラーを外したいほど身体が熱くなった。
それから少し話をしたけど路上だし、アルバイトの時間もあるからって話を止めて家路につく。
なんであんなことしたんだろとちょっとだけ後悔が残る
コウ君も言ってたけど、私もいつかはって考えてた。でもそれがコウ君のお母さんの見ている前でするなんて思いもしなかった。
確かに二人っきりの時にコウ君の方からって想像したこともあったけど、いきなり私の方からするなんて。やっぱり今考えても恥ずかしい。
でも、コウ君もうれしいって言ってくれた。
そもそも付き合ってるんだからいいよね?それに将来だって誓ってるんだし。
自分で慰めるけれど、ファーストキスは少しだけ苦い思い出になった。




