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02 衝撃の日

 今日、弟が同じ高校に入学してくる。

 同じ学校だけど、同じ遺伝子からできているから、こんなものかと思う。

 姉弟仲は、そんなに悪くないと思っている。普通に会話もしてるし。

 だからか今日は両親も含めた四人で弟の入学祝で外食をしようって話になっている。

 そのため今日の夕飯のことを覚えてるかと弟に声をかけるとちゃんと覚えていると返事があった。

 両親はすでに出勤していたし、弟の入学式にも参加しない。だから夕飯までは会えないので私が確認する。

 そして同じ高校で電車も同じなのだから、一緒に登校するか聞いてみたら仲間と一緒に行くことになっているそうだ。

 で、その仲間とやらは、同じ中学で同じサッカー部だった友達らしい。

 だったら入学式から友達がいてよかったねって声をかけたら、弟の動きが止まった。

 少し考えた様子だったけど私に向きなおして、


「仲間のコウなんだけど、姉ちゃんが初恋なんだって。一目ぼれだったって言ってた」


 新年度早々に爆弾が落ちた。

 返す言葉が見つからない。これは冗談なのだろうか?真に受けたらからかわれるのだろうか……

 とりあえず、そうなんだと乗ってみる。

 そうしたら「その話聞いたときさ、俺もびっくりしたよ」と弟も続けてきた。

 えっ、ほんとなの?

 いやいや、そういう大切な話は前もって話すべきじゃない?登校前のこんな時間に話す内容じゃないでしょ。

 弟の入学式なのに、私の方がドキドキする。

 プチパニックになってわやわやしていたら、弟が先に行くと声をかけて出て行った。

 その声を聞いて一度洗面台に戻って髪をとかしてから弟を追いかける。


 駅に着くと弟が友人と楽しそうに話し合っている。

 この子なのか?と思うが声はかけられない。そして二人の脇を通り過ぎて構内入って行く。

 脇を通り過ぎるときに、横目ながら注意深く観察する。

 弟と同じ背格好で私よりちょっと背が高いくらい。

 こんな男の子が私を?と思ったけど、私のことを見ている様子はない。

 もし私のことが好きだったら興味があるはず。でも私には無関心そう。

 じゃぁ誰だ?ホームにいる男子全員が気になる。

 それは電車が来て押し込められてもそうだ。もしかして近くにいるのかもと周囲を伺ってみるが私に話をしてくる者はいなかった。


 電車を降りて学校に向かって歩き出すが目的の男子は見当たらい。

 そもそも姿もわからないのに特定しようというのが間違いなのだけど、舞い上がった思考がそれを間違ってると気が付かせない。

 学校に着くまで名も知れぬスパイを探すような行動を続けたが結局犯人は見つからなかった。

 代わりに見つけたものがあった。

 学校の入り口にある入学式の看板の脇で写真を撮っている生徒たちの姿。

 そうそう忘れるところだった。弟は新入生だった。

 せっかくだから写真を撮って両親に送るかと思いつく。

 それで、そのまま学校の入り口で弟が来るのを待つ。

 少ししたら駅で一緒だった友人と連なって弟が来る。「イツキ、写真撮ってあげる」と言うと「えー」と不満の声を上げたが記念写真で親に送るからと言うと、渋々という感じで看板の脇に立った。

 そして弟の写真を撮っているときに気を使って離れていてくれた弟の友人に、「せっかくだから君も一緒に入って」と言って男子のツーショットを撮った。

 弟の友人は写真を撮り終えたら、ちゃんとありがとうございますとお礼を伝えてきたが、そのあとに本日二発目の爆弾が落ちた。


「これがさっき言ってた、姉ちゃんが初恋だって言ってたコウ」


 そのあとの記憶がない。気が付いた時には入学式が終わっていた。

 入学式の日は部活をしないって決まっていたから、そのまま家に帰る。

 帰り道は犯人の顔を知っていたので探しながらだったけど、結局見つけることはできなかった。




 家に着いたけど、よくわからない。考えがまとまらない。

 どうなっているのか。どうなるのか。どうしたいいのか。見当すらつかない。

 ただわかっていることは、あの子が私のことを好きなんだということ。

 そのことを考えると、男の子顔が浮かんできて頬が熱くなってしまう。

 はっとした。

 記念写真を思い出した。慌ててスマホを取り出してアルバムを確認する。彼がいる。

 弟はコウって呼んでた。コウ君。彼の名前を口にした途端笑みがこぼれた。もうじっとしていらなかった。悶えに悶えた。




 お祝いの夕食は回転すしになった。

 ボックス席のレーン側に姉弟向かい合って座った。そして隣には両親が座り、男女で陣取る形になった。

 食事は思い思いに摂る。そして当然のように入学式の話題になる。

 私は彼の情報が欲しかった。でも弟の話には彼は出てこない。

 だから今持っている唯一のカードを切る。


「そう言えば写真撮ったんだよ」


 皆にスマホを見せる。

 お父さんにはよく気が付いたなとか褒められたが、母親の言葉は信じられなかった。


「へー、コウ君と並んで撮ったんだ。久しぶりだけどちょっと大っきくなった?」


 なに?お母さんは知ってるの?ってかコウ君呼びってなに?

 母親の言葉に動揺していると、弟がその写真が欲しいと言い出す。そして両親も写真を欲しがったので家族全員で共有した。

 すると弟が「コウが写真ありがとうだって」

 はい?なに?


「写真?」

「うん。今もらった写真を送ったら返事が来た。姉ちゃんにありがとうだって」


 送った?

 そっか。送るって言って連絡先を交換すればよかったんだ。

 くー、絶好の機会があったんだと心の中で嘆く。

 でもすぐに立てなおす。せっかくカード切ったのだ。情報を集めなくては。

 そして情報源は弟だけでなく母親も対象になった。


「お母さんは彼のこと知ってるの?」

「コウ君?小学校から一緒じゃない。何度も家に遊びに来てたし」


 なんですとー。家に来てた?全然知らないんですけど。


「へ、へー。そうだったんだ。全然知らない」

「会ったことなかった?」

「うん」

「小学校からずっと一緒にサッカーやってたじゃない」

「そうなんだ」

「最近は見なかったけど、毎週家に来てた時もあったよね?」


 ほんとにほんと?見た記憶がないんだけど。


「あー、部屋でゲームとかしてたからかなぁ」


 だったら、挨拶くらいしてもいいのに……

 すると母親と弟の話になってしまった。


「クラスは一緒?」

「いや。俺は二組で、コウは一組」


 一組ね。


「部活は?」

「それがさー、サッカーやらないって言うんだよ」


 サッカー止めちゃうんだ。


「ずっと一緒だったのに?」

「そう」

「へー、じゃぁ何するの?」

「それが何もしないんだよ」

「何も?」

「そう。中学んときから高校に入ったらバイトしてパソコン買うんだって言ってたからバイト探すんだって」


 アルバイトにパソコンねぇ。


「ずっとしてたんだからもったいなくない?」

「あー、俺もそう言ったんだけどね」

「でも、それもいいかもね」

「なんで?」

「お金を稼ぐって大事だからね」

「まぁお金が欲しいってのはわかるけどさ……」


 そのあとはお父さんが会話に混ざってきて、サッカーもいいけど勉強もなとかで話がそれていった。

 でも私は彼のことがもっと聞きたかった。私のことをどう思ってるのとか。




 正直に言って、彼のことはすごく気になる。でも接点が全くない。三年生と一年生では校舎も違う。唯一が通学路なんだけど、陸上部の朝練で朝が早いため彼とは会えない。

 共通の知り合いである弟には、やっぱり聞きにくい。今まで関係のなかった彼のことを聞くっていうのは、意識しているようで恥ずかしい。別に好きってわけじゃないけど気になっているというか……

 なかなか会う機会がないことを憂いているけど、朝早い電車は座れるから楽なんだよなとのんきに思う。


 そして何もないままゴールデンウィークが終わった。

 もしかしたらコウ君が弟のところに遊びに来るかもと想いを巡らせたがそんなことはなかった。

 コウ君はアルバイトを始めたらしい。

 連休中に入学式に一緒だった彼はどうしてるんだと、さりげなく聞いたらアルバイトのことを教えてくれた。

 週末とか休みとかはファミレスでキッチンスタッフとして働いているから休日はないんだって。

 彼と弟の接点がなくなれば、もう打つ手はなくなる。

 だから友人を誘って一度そのファミレスに行ってみた。当然コウ君のことはナイショで。

 もしお店で会えたら、偶然だねとか話しかることを想像してドキドキしていた。でもコウ君の姿を見ることはなかった。

 絵に描いた餅もなければ、棚から牡丹餅もなかった。現実は牡丹餅ほど甘くはなかった。





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