16 ふたりで買い物
文化祭の後片付けは半日だけ。でも私たちは参加しなかったから掃除だけだ。今日はなんのための登校なんだろう。
そして明日は振替休日。
でも毎日遊んでばかりだって思ってるは私だけ?それで明日も休みなんだよ。まぁいいけど。
で、いいけどって言えば、みんなが私のことをいじってくる。
文化祭では、校内だってのにずっと手を繋いでていやらしいとか。
ぜんぜんいやらしくなんかない。付き合ってるんだから普通のこと。そう、普通なんだよ。
中には、付き合ってうれしんだろうけど、独り者のことも考えてよねって言ってくる。
そこは素直に謝っけど、それはそれでその余裕が嫌だって言われる。
私にどうしろって?
そしてみんなで笑った。
結局、予定通り掃除だけして終わってしまう。
図書館も閉館してるので、行き場もなく先に行ってるねってコウ君に連絡をしてショッピングセンターに向かう。
しばらくひとりで勉強をしていたら、コウ君から終わったから向かいますって連絡が入る。
こんなに騒がしいのに意外と集中できた。
切りのいいとこで勉強をやめて動画を見てコウ君を待つ。
少ししたら、待たせてすみませんってコウ君が来る。
時計を見ると十一時半くらいで、ちょっと中途半端だったけど、買い物に行くってコウ君に聞くと、コウ君もちょっと悩む。
それで、先輩がよかったらご飯にしませんかって聞いてくるので、全然いいよって答える。
いつも使ってるフードコートだけど、食べ物を頼むのって初めてだよって二人で話し合う。
どれにしようかってメニューを見ながら話すけど、付き合いだしてもうすぐ一ヵ月。始めは話すだけでも苦労したけど、今は自然に振る舞える。
お互い頼んだものができて食べ始める。それで今日もコウ君とのことをいじられたって話したら、コウ君もいじられたんだって。
ちょっと恥ずかしいけど、でもうれしい。
そして話が一区切りついたときにコウ君が珍しい話をしてくる。
「先輩ってアクセサリーとかしないですけど、何かあるんですか」
「何かって?」
「陸上がらみとか、あとはアレルギーとか」
「アレルギーはないよ。部活も言われなかったな。おしゃれは興味あるけど、なんだろ、タイミング?なんかすることがなかっただけかな」
「そうなんですか」
「なに?なんかへん?」
「そういうわけじゃないんですけど、ちょっと気になったと言うか……」
おしゃれしないから地味だって思ってる?
「何が気になる?もっとおしゃれした方がいい?」
「えっ、先輩はそのままでいいですよ。その、可愛いですし」
真正面から可愛いなんて言われると照れるんだけど。と思って右手で髪を耳にかける。
「それに先輩のサラサラした髪っていいですよね」
もう。コウ君の言葉はうれしいんだけど恥ずかしくなる。
何も言えなくてとりあえずグラスの水を口に含む。
自然に振る舞えてるって思ったばかりなのに会話が止まってしまう。
そこでコウ君がそろそろいいですかって促してくる。
二人で器を片付けて次の行動に移る。
それでなにを買いに来たのかコウ君に聞いたらアクセサリーだって。
さっき聞いてきたのは前振りなんだって思った。
そして私へのプレゼントなのかなって思いながらコウ君について行ったらジュエリーショップだった。
ちょっと待ってコウ君、なんて思っていると、お店のお姉さんが声をかけてくる。そのお姉さんの服装からしても高そうな感じがする。
「本日はどういったものをお求めで」
「あの、結婚指輪が欲しいんですけど」
コウ君?
「……どなたかへのプレゼントでしょうか?」
「あっ、いや、俺らのです」
コウ君!
「……あの、ペアリングと言うことでしょうか?」
「そう言うんですか?結婚した夫婦が付けるのって」
夫婦?
「指輪とかそういうのはよくわかんないんですよ」
「……そうですか。……仲のいいカップルがお揃いで付けるものがペアリングになりますね。それに対して結婚指輪は結婚後の普段使いのものになります。今は式を上げない事実婚もありますので、ペアリングって呼ぶ方が多くなってきていますね」
「そうなんですか。じゃぁ婚約指輪ってのはなんなんですか?」
「婚約指輪は結婚を約束された女性だけが付けるのが一般的ですね。昔はパーティに出たりした時に婚約者がいることを表す意味もあったとも言われてます」
「そうなんですか。じゃぁペアリングが欲しいです」
「かしこまりました。それでご予算は?」
「ちょっと恥ずかしいんですが五万しかなくって……」
「……見たところ、高校性でしょうか?」
「はい」
「でしたら、もう少しお安くても問題はないかと思いますが」
「そうですか?でも俺ら結婚を前提にしてるんで」
だからコウ君!
「……そうなのですか?」
「はい。もう親には挨拶も済んでるんです」
「!」
「将来、婚約指輪は買わなくっちゃって思ってましたけど、先輩の指がきれいだったから、それまで結婚指輪を付けてたらいいかなって思ったんですよ。二人揃ってるのってよさそうだし」
「……そうなんですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「それではどういったデザインのものお考えで……」
コウ君、何があったの?
私そっちのけで、け、結婚指輪の話を進めてるけど。
そりゃ確かに両家の挨拶は済んでるし、公認ではあるけど、結婚は学校出てからだって話じゃない。
それに五万ってなに!そんなに高価なものなんてもらえないよ。いや、指輪は欲しいけど。お揃いなんでしょ?
うー、コウ君がほんとに私との未来を考えてくれるのはうれしいけど。
……私はどうしたらいいの?こんなにしてもらって。
「先輩」
「なに?」
「学校に指輪つけてっても問題ないですよね?」
「そ、そうだね。派手目のものをつけてる子もいるしね」
「先輩はどんなのがいいです?」
「私?私はコウ君が選んでくれたらなんでもいいかな。あっ、でもそんなに高くなくてもいいよ。もっと安いアクセサリーで」
「俺はちゃんとしたものがいいと思うんですよ。おもちゃっぽいのは違うでしょ?だから宝石屋さんに来たんですよ」
わかってる。わかってるから。コウ君が真剣だって。
「やっぱりダイヤとかがいいんですかね?」
「ダイヤなんていいよ。そんな高いもの」
「……安めのダイヤってあります?」
「そうですね。鑑定書が付かなくてもよろしければ、だいぶお安いものもございますが」
「俺の予算で買えます?」
「はい。十分です」
「じゃぁダイヤがいいかな」
「ダイヤモンドの指輪の意味はご存じですか?」
「なんか意味があるんですか?」
「はい。ダイヤモンドは硬くて強いですから、永遠の絆や変わらぬ愛と言う意味合いがあります」
「いいですね、それ。先輩、俺らにちょうどいいですよね?」
ほんと、コウ君どうしたの。それってもうプロポーズだよ。わかって言ってる?
「でもいいの?」
「はい。って言うか、俺が欲しいんですよ」
「なんで?」
「だって先輩大学行ったら離れちゃうじゃないですか、でも指輪があればなって」
「学校が別々だって一緒だよ」
「はい。でもあった方がいいでしょ?」
「それは、うれしいけど……」
「だからいいんですよ」
「うん」
ああ、コウ君が好き。好きになってよかった。好きが止まんないよ。
「じゃぁ、どんなのがいいです?」
「だからコウ君が選んでくれたらいいよ」
「そう言われても。でもダイヤで派手だと学校は厳しいですかね?」
「失礼ながら、ご予算からすると思っている程大きくないですよ」
「そうなんですか?」
「そうですね、ご飯粒の半分よりも小さいかと」
「そうなんですか」
「はい」
「お金のこともあるけど、シンプルな指輪を考えていたからそっちの方がいいかも」
「でしたらリングの内側にダイヤをはめ込むものもございますが」
「じゃぁ、見せてもらいますか」
「はい」
「先輩も一緒に選びましょうよ」
「いいの?」
「はい。二人で付けるんだし」
そして見た目はなんのデザインもないようなシンプルなシルバーの指輪を選んだ。多分コウ君が考えてる結婚指輪のイメージってこうなんだろうなって。
さらに内側に小さいダイヤモンドがはまっていて二人の名前を刻んでもらう。
作業には一週間かかって、受け取りは来週の月曜だって。
結局コウ君の買い物は指輪だけだった。
帰りの電車の中で、本当はサプライズをしたかったんですってコウ君が告げてきた。
ネットでも調べたけど指輪のサイズがわからない。でも大切なものだからってサプライズは諦めてお店にお願いしようと考えたって。
大切なもの。
私にとっても大切なもの。これからずっと大切にする。そしてコウ君の気持ちも大切にするって心の中で誓う。
振替休日はひとりで過ごしている。
コウ君は友達と遊ぶって言ってた。友達って弟のことかと思ったけど今日は違うらしい。弟は弟で遊びに行った。
だから家には本当に私ひとりだけ。ひとりで勉強をしている。
でも勉強の合間には昨日の買い物のことを思い出す。
買い物。確かにコウ君が買ったものだ。でもそれは私のためのもでもある。
コウ君はアルバイトをしてるからお金に余裕があるんだろうけど、それでも大金を使わせてしまった。そのことを少し申し訳なく思う。
コウ君はいつも私が喜ぶことをしてくれる。すごくうれしい。
でもその反面、私は何ができるんだろうって思う。今までもコウ君には何もしてあげれていない。私だけが貰ってばかりだ。
何かできることはって考えるけど何も思いつかない。そして何もしてあげられないことに切なくなる。




