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15 文化祭

 今週末は文化祭だ。だからこの一週間の放課後はお預け状態だった。コウ君とは朝しか会えていない。

 なのに今朝は彼女より彼女の弟と楽しそうに話している。

 イツキはもう少し気を使った方がいいと思う。

 でもこんな時はどうするのが正解なんだろう。

 咳払い?それともなんの話って割り込んでいいの?

 何も言わずに彼の腕に抱き着くとか?それはそれでいいかもしれないし、抱き着いてもみたい。

 逆に黙ってる方がいいのかな?

 一番簡単なのは弟を蹴ることだけど。

 付き合うって、思ってたのちょっと違ってた。

 前は好きな人ができて付き合えたらそれだけで幸せなんだろうって思ってた。まぁ実際幸せだけど。

 でも自分の言動で嫌われることもあるって考えると、動きにくくもなる。

 そんなことを考えて今週が始まる。


 放課後、コウ君はやっぱり準備だって言うから、頑張ってねって連絡してひとりで帰る。

 先週もそうだったけど、コウ君がいないだけで全然違う。

 普通に考えて、コウ君と付き合う前に戻っただけなのに、以前はこんなだったっけって思う。

 漫画でよくある、コウ君成分が足りないっていう状態なんだろうか。

 そんなことを考えながら勉強を始める。




 文化祭の前に十月になったので衣替えだ。

 だからどうだってこともない。強いて言えば十月はまだ暑いくらいだ。

 それでも久しぶりに上着を羽織ると新鮮な気分になる。それはみんなも同じようだ。そしてコウ君も。今度は冬服で写真を撮りましょうって言ってくる。

 もう、コウ君たら。


 そして土曜日なって文化祭の初日を迎える。

 朝ホームルームがあって、そのあと全校集会が終われば一日自由だ。

 コウ君とは玄関で待ち合わせしてあるので向かう。そして一緒になったら、これからの予定を話し合う。

 コウ君は、教室の方はいつだって行けるから、ステージの方を優先しないかって言う。全然問題ない。コウ君の計画でいい。だって今日は一日中コウ君と一緒にいられるんだから。

 文化際のしおりには吹奏楽部の演奏でステージが始まるってあるけど、まだちょっと時間があるからコウ君がどうしますかって言ってくる。

 正直なんだっていい。でも聞かれたんだから何か答えなきゃ。それで演奏が始まるまでは体育館で話をして始まるのを待とうってことになっる。

 体育館に行くとステージの周りで準備はしているけど観客は少なかった。流石にステージの前は気が引けるので、もう少し人が集まるまでは体育館の壁側で様子を見ることにした。

 壁に背中を預けて二人並んで床に座る。

 少し前なら話す内容にも困っていたけど、今は大丈夫。

 コウ君の好きなゲームや漫画の話を聞いた時のように、音楽のこともすんなり聞ける。でもあまり音楽には興味がないのは知っている。それでもコウ君は動画の切り抜きでサビの所は知っているけど出だしがわからくて困ることもあったって話してくれる。

 代わりに私にはやっぱりK-POPですかって聞いてくるけど、それもあるけど勉強中とかは集中できるって言うジャズみたいな動画を流してるって話す。

 なんか意外ですって言われるけど、コウ君と話してるのが楽しい。

 会話を楽しんでいると観客がだいぶ集まってきて、そろそろ俺たちも行きましょうかってコウ君の言葉でステージの前に移動する。

 コウ君と並んで歩いて、適当な所で並んで座る。

 そして今日こそはコウ君と手を繋ぐ。

 ずっと考えていた。手を繋ぎたいって。理由はわからない。憧れなのかもしれない。気が付いたら手を繋ぎたくなっていた。

 普段並んで歩いてる時も偶然手が触れてって思っていたけど、そんな都合のいい偶然は起きなかった。だからこの文化祭にかけている。

 なんとなくだけど、コウ君は私の右側にいることが多いって気が付いた。だから今もコウ君の左手を狙っている。

 吹奏楽部の演奏が始まる。コウ君はこの曲ってこんなタイルなんですね。名前は知らないけど曲は知ってますよねって話してくるけど、そんなことはどうでもよかった。

 そうだねって言いつつ、右手を徐々にコウ君に寄せる。今はコウ君の話より、物理的な距離が気になって仕方がない。そして自分の鼓動がうるさい。

 もう少しもう少しと右手を進めるとコウ君に触れる。

 自分から触れたくせにビクッてなってしまう。そしてコウ君を伺うと、見つめられていたので身体を硬くしてしまう。

 まずい。そう思った瞬間、右手の上から押さえられてしまった。その右手に視線を落とすと右手の甲をコウ君の左手が掴んでいる。

 えっ、と思って視線を上げるとコウ君は演奏の方を見ている。私の右手を掴んだままで、何も言わずに。

 右手だけでなく身体中を硬くしていたら演奏が終わる。そしてコウ君は手を離して拍手を始めた。自由になった私もコウ君に倣って拍手をする。

 拍手が落ち着いたら、コウ君が座りなおして身体を寄せてきて「先輩、手」と言って左手が差し出される。

 言われるがまま、差し出されたコウ君の左の手のひらに自分の右の手のひらを重ねる。すぐに右手が握られる。そして私も握り返す。

 コウ君と手をつないでうれしいことはうれしいけど、コウ君の手って大きいんだってわかった。握っても指が届かない。だから掴みきれないのって、ちょっと不安定なんだなってわかった。そんなことは物語になかったから興味津々で握っている手を見ていたら視線を感じた。頭を上げるとコウ君と目が合う。急に恥ずかしさがこみあげてくる。

 でもコウ君は普通に見える。落ち着いてる風だし、顔も赤くなってない。

 私だけが緊張してるのって思っていると、コウ君は演奏に視線を向けた。

 やっぱり私だけ?初めてのことでわかんなかったことがあったり、ドキドキしてるのって。コウ君は余裕なのって思いながら横顔を眺める。

 しばらくして二曲目が終わって拍手のために手が離れる。でも今度は手が繋がれることはなく三曲目が始まる。

 なんでって考えてるうちに曲が進んで、吹奏楽部の演奏が終わる。

 そして拍手が終わったあと、コウ君は立ち上がって、どこから周りますって聞いてくる。

 私も立ち上がってスカートの汚れを払うけど、ちょっとモヤモヤする。

 だからしおりを見ているコウ君に向かって「手」って言いて右手を出す。

 コウ君は一瞬動きを止めたけど、すぐに私の手を握ってくれる。

 こんなに簡単だったんだ。

 でもまだ恥ずかしい。

 それでも、


「ねえ、さっきはなんでつないでくれなかったの?」

「えっ、その、ずっと握ってたら嫌がるかなって」


 そうだったんだ。でも、


「そんなことないよ。コウ君が握ってくれるとうれしいよ」

「俺もうれしかったです。でも先輩の方から来るって思ってなかったからびっくりしました」


 コウ君の言葉で身体が熱くなっる。

 そしてせっかくつないだ手を離して、握こぶしでコウ君の背中を叩く。もちろん軽く。


「先輩って思ってたより積極的ですよね。告白も先輩だったし」


 黙ったまま、もう一度コウ君を叩く。今度はちょっと力が入ったかも。




 それから二人でしおりを見ながら相談したけど、ちょっと早いけどお昼にしようってことになった。きっと混むよねって。

 そして買い物を済ませて、体育館横の出入り口の階段に座ってお昼を摂る。

 出店で買ったポテトはおいしいけど味は普通だねって笑ったりして。

 ほんと、一つ一つは普通なんだよ。でもすごく楽しい。文化祭ってお祭りのせいでもあるけど、コウ君と一緒だからだってわかる。

 これはアレだ、うれしい、楽しい、大好きってやつだ。


 お昼ご飯も終えて行動に移す。

 みんなはお昼だろうから教室はすいてるよねって言いながら、手をつないで歩く。

 まだちょっとドキドキするけど、だんだん当たり前になってきた。

 そしていくつか教室を周ってみると、イベント系は休憩中って表示がされている。ステージもそうだよねって話して展示系に進む。


「ヒカリ」


 移動中に名前を呼ばれたので振り向くと友達がいた。

 慌ててコウ君の手を離して友達と話す。やっぱりちょっと恥ずかしい。

 友達にはどこに行ったとか、どこが面白かったとか聞かれる。そして彼氏なんだっていじられたりもした。

 それから少しだけ友達と話をして別れる。

 そして友達と話しをしている間、コウ君を放ってごめんねって謝る。

 二人でいてもこういうことがあるんだなって思った。


 展示系ならってことで、コウ君のクラスの公衆電話も見に行く。

 教室に入ったら、コウ君のクラスメイトが彼女かってコウ君を問い詰め始める。

 そして今度は私がアウェイなんだって思った。

 コウ君が友達がいろいろ話してるけど、彼女がって言葉聞こえるたびに恥ずかしいけどうれしくなる。周りからも彼女だってわかるんだって、満足感みたいのもあった。

 そのあともすごく楽しかった。

 初日が終わって帰りの電車でも、明日はどうしようかって話した。

 でも家に帰って自分の部屋にいると現実が襲ってくる。私って受験生なのにこんなに浮かれてていいんだろうかって。

 けど仕方がないじゃん。すごく楽しかったんだもん。それにコウ君と手も繋げたし。

 勉強を頑張らなきゃって思うけど、やっぱり今日のことを思い出して手が止まってしまう。


 文化祭二日目は朝から残念なお知らせがあった。

 文化祭が終わったあと、コウ君は打ち上げがあるから一緒に帰れないって。

 内心、えーって思ったけど仕方がない。我慢するか。

 一緒にいた弟もクラスの打ち上げがあるって言ってるけど、それはどうでもよかった。


 文化祭二日目も楽しかった。

 昨日行けなかったゲーム系でストラックアウトをしてると、彼女さん頑張ってなんて声をかけられて、うれしいやら恥ずかしいやらで上手くできなかった。

 あれは冷やかしであって、絶対に応援ではないはず。

 そしてお昼にはサプライズがあった。


「先輩、買い物があるんですけど、明日か明後日一緒に行けませんか?」


 そんなん行くに決まってるじゃん。


「行けるよ」

「でも勉強とかもあるでしょ」

「一日くらい大丈夫」

「いや、そんなに時間は掛からないですよ。近場で済むから」

「それだったら全然問題ないよ。どこ行くの?」

「いつもショッピングセンターですけど」

「じゃぁ、明日は?学校帰りに」

「でも文化祭の後片付ってどのくらいかかるかわからないじゃないですか」

「私たちは何もしてないからホームルームが終わったら掃除とかで帰れるはず。コウ君のとこも、展示だけだから今日だけでも終わるんじゃない?」

「そんなもんなんですか」

「そんなもんだよ。機材借りたりするとたいへんだけどね」

「そうなんですか。でもそれだと先輩を待たせちゃいますね」

「いいよいいよ。待ってる間勉強でもしてるよ」

「いいんですか」

「うん」

「じゃぁ一応、明日のお昼ってことでいいですか?」

「うん」


 明日はお買い物デートだ。

 よく考えたらあのショッピングセンターには毎日行ってたけど、一緒に買い物なんかしたことなかった。

 それに昨日も今日も、文化祭はデートみたいだった。こういうのをバラ色の人生って言うんだろうな。


 午後も一緒に過ごしたけど、文化祭終了後は予定通りひとりで帰る。

 コウ君は打ち上げかって思うと、学年の違いを実感する。

 同い年だったらもっと一緒にいられたんだろうなって考える。そっか修学旅行も一緒に行けてたんだって思った。





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