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14 挨拶が済んで

 金曜日の夕方、お母さんに相談をする。

 コウ君は制服で挨拶に来たけど、私も制服の方がいいのかなって。

 そしたら、なんでもいいんじゃないって。

 もっと真剣になって言ったら、じゃぁ制服で行ったらって。どうせ中身が勝負なんだしって。

 そうなんだけどさ。少しでもいい印象にしたいじゃない。


 夜、コウ君にも同じ相談をしたら、やっぱりなんでもいいんじゃないかって言われた。

 でも海に行った時の青いワンピースは可愛かったですって。

 それはうれしいけど、制服って考えに寄っていたから悩んでしまう。


 土曜日、お母さんにもう一度相談する。制服とワンピースとどっちがいいか。

 それでなんでワンピースか聞かれて、コウ君がいいって言ったって伝えたら、じゃぁワンピースでいいんじゃないって。

 逆になんでワンピースがいいかって聞いたら、彼氏がいいって言ってるんだったら信じたらって。

 うん、納得できた。

 夜は涼しくなってきたけど、昼間はまだ暑いし、衣替えの前だ。夏用でも大丈夫。

 これで明日は大丈夫。


 大丈夫じゃないかも。

 午前中にお土産用のプリンを買いに行くだけで緊張してしまった。

 午後の塾も挨拶のことが気になってあまり集中できなかった。

 そして今、初めてコウ君の家にいる。

 コウ君と出かけたとき以上にドキドキだ。

 コウ君の案内で家の奥に入って行くと、コウ君の両親が椅子に座って待っている。

 私を見るとお母さんがいらっしゃいと声をかけてくれたので、


「本日はお時間をいただいてありがとうございます。鈴木ヒカリです」と用意した挨拶をして手土産を渡す。


 今度はお父さんの方から、わざわざありがとう。コウスケの父です。母ですって挨拶をしてくれて、そして会話が止まった。

 私の方から話をしなくっちゃって思っていると、「先輩」と声をかけられたのでコウ君を見る。視線が会うだけで言葉を交わすとか頷くとかもなかったけど、つかえが取れた感じがした。

 そして身体をお父さんに向けて「先日からコウスケ君とお付き合いをさせてもらっています。今日はそのご報告に来ました。交際を許して貰もらえますでしょうか」と伝える。

 私の話を聞いたお父さんは一つ頷いてから「ヒカリさんがコウスケでいいのなら問題はないよ」って言ってくれる。

 私はほっとしたけど「ありがとうございます」しか言えなかった。

 するとお母さんから「しっかりした娘さんでよかったわ」って言われて「いえ、そんな……」と応えるのが精いっぱいだったら、今度は「お母さんって呼んでもらえるって」言われた。

 ドキッとした。

 もうお母さん呼び?って思っていたら、お父さんからも「お父さんって呼んで欲しいな」って言われる。

 えっ、えっ、って思ったけど言われた通りお父さん、お母さんって呼んでみる。

 するとすごく新鮮とか、ちょっと恥ずかしいなとか言われたけど、こっちの方が恥ずかしい。

 そのあとも、やっぱり娘を作った方がよかったとか、男の子は愛想がないとかそんな話になった。

 穏やかな話が続いたからよかったなって安堵していたら、コウ君が「お父さんお母さん、もういいよな」って言い出す。

 みんなでコウ君を見ると「先輩、もう話は済んだから俺の部屋に行きましょう」って立ち上がった。

 どうしようって思ったけど、コウ君の両親にお礼を伝えてからついて行く。

 コウ君の部屋は二階で階段を上がってすぐだった。

 部屋に入ってドアが閉じられると、「すみません、話が長くって」と謝ってくる。

 だからそんなことないよ、それより受け入れて貰えたようでよかったって伝えたら「先輩だったら大丈夫だって思ってました」って言われる。

 もうコウ君ってばって考えていると、「それより」って言葉が続く。

 なになに、なんか問題でもあったって自分の行動に思いをめぐらしていたら「先輩の写真撮っていいですか」って。

 一瞬、ん?って思ったけど、すぐに身体が熱くなる。


「なんで急に……」

「えっ、うちに来た時から写真が撮りたいなって。でも話が先だなって思ったから」

「だからって……」

「だって可愛いじゃないですか。その服、この前話してた最初のデートのやつですよね」

「うん」

「すごく似合ってます」


 可愛いって、似合ってるってうれしいけど、恥ずかしくって何も言えないじゃない。

 黙っていると「じゃぁ写真いいですよね」って聞いてくるから、そのまま頷く。

 コウ君はスマホを出して写真を撮りだしたけど……止まらなかった。

 始めはただ撮られるだけだったけど、うつむき加減だったみたいでちょっと顔を上げてみてくださいって言われる。

 だって恥ずかしいじゃないって思いながら、コウ君に言われまま顔を上げる。

 それでも恥ずかしいから、お腹の前で右手首を掴んでいた左手を右肘に移して掴みなおす。

 すると「それもいいです」ってコウ君が声を上げる。

 そのコウ君を見ると姿勢を変えながら写真を撮っているですぐに視線を反らす。

 そうしたら「今度は腕をうしろで組んでみてくださいって」って言われて従う。

 そのあとも言われるがままだった。

 いろんなポーズをとらされたけど、首を少し傾げた時には「すげー可愛い」って敬語じゃなかったのが印象的だった。

 そしてクルっと回ってみてくださいって言われる。

 流石にそれは恥ずかしすぎる。確かに流されていろんなポーズはとった。でもそれはちょっとイタイ気がする。

 それでもコウ君に「ダメですか」って言われると許してしまう。

 その場でクルっと回るとよろけてしまって入り口のドアに手をついて大きな音を立ててしまう。

 それを見たコウ君は「連射にすればよかった」と音のことは気にしていなかった。

 そしてもう一度いいですかってお願いされて、もう一度回った。

 結局三度回った。

 コウ君はいいのが撮れましたって喜んでいる風だったけど、私って……


 写真を見ていたコウ君がもう六時ですけど大丈夫ですかって聞いてくる。

 もう夕飯の時間だからお暇した方がいいよなって思う。

 初めてコウ君の部屋に来たけど、立ったままで写真を撮って終わってしまった。

 ゆっくり話ができたらよかったなと思いながらコウ君の部屋を見回す。

 でも「うん。そろそろ帰るね」

 そう告げて、帰る前にコウ君の両親に挨拶をすることも伝える。


 一階に降りてコウ君の両親に「本日はありがとうございました」って挨拶すると、お母さんがご飯を食べてったらって誘ってくれる。

 無理。絶対に喉を通らない。

 だから丁寧にお断りした。

 そしたら、さっき大きな音がしたけどって聞かれた。

 コウ君に言われるがまま調子に乗ってクルっと回ってよろけた時だって思って恥ずかしくなる。

 そこにお母さんが「キスでもしてた?」って。

 恥ずかしくてうつむいていたけど、その言葉でお母さんを見つめてしまう。

 するとコウ君が「そんなことしてないし、いいだろ」って。

 お母さんは、「そう」って言って引き下がる感じだったけど、


「コウの部屋の隣、物置になってるじゃない」

「あ?」

「外に倉庫建てて荷物を出してヒカリちゃんの部屋にしたらって、お父さんと話してたんだけど」

「なにそれ」

「ヒカリちゃんの部屋があった方がいいでしょ?荷物もあるし。それにコウがいなくても遊びに来やすいじゃない」

「だったら俺の部屋でいいじゃん」

「コウは二人一緒がいいの?」


 思わずコウ君を見つめると視線が合う。


「そうじゃないけど……」

「じゃぁ、ヒカリちゃんの部屋があってもいいじゃない」

「……別にそんなに急がなくっても」

「急いでるのはコウの方じゃない?」

「……そんなことないよ」

「そう?ヒカリちゃんはいつ来てもいいよ。部屋は用意できるからね」


 あまりの話に「はい」としか返事ができなかった。

 そしてもう一度挨拶をしてから家路についた。


 家に戻るとちょうど夕食のタイミングだった。

 みんなそろって夕食を摂りながら、挨拶したときのことを聞かれた。

 でも特別なこともなく受け入れてもらたって話したら、弟は猫をかぶってたらいつかはバレるって言うし、お母さんももっと家庭的なことができないと呆れられるって言う。

 だから大丈夫だって、部屋まで用意してくれるって言われたって話してしまった。

 するとそれまで黙っていたお父さんも話に加わって、話が一気に加速する。

 向こうの家に部屋が?同居する気?学生のうちはダメだとか、混乱を極める。

 私はコウ君みたいに結婚なんて言葉は使ってないって説明するけど話は収まらない。

 でも、部屋を用意してくれるってやっぱりそういうことなんだよね。コウ君の家で一緒に暮らすって。

 もう両家公認だよ。

 そう思うと、みんなの雑音は耳に入らなくなった。


 この夜もコウ君と連絡した。

 今日、私が帰ったあと、コウ君の両親の反応が気になっていたから。

 でも何もなかったらしい。

 コウ君の話だと落ち着いた可愛い娘だって褒めていたらしい。

 でも、それはそれでまずい。ハードルが上がってる。

 あの対応を維持するとなると、弟のセリフじゃないけど猫をかぶらなきゃ。

 なんて考えていたら、お気に入りですって、首を少し傾げた私の写真が貼り付けられた。

 確かに自分でも見てもいい写真だと思う。でもあざとそうだ。

 顔の周りに手を持ってきていないからあからさまではないけど……

 絶対に他の人には見せないでねって返した。





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