13 私の覚悟
今朝、コウ君に大事な話があるって言われた。気になって聞き返したけど二人の時にって言われる。
昨日の挨拶では結婚の話も出ていたから、それ絡みだと思う。だって他に大事なことってないよね。
まさか結婚の話はなかったことに?
嫌だよ。たった一晩で婚約解消だなんて。
それに昨日は、これからもよろしくって連絡しあったのに。一晩で何があったの?
コウ君の家に行ったお父さんはお酒飲んで帰ってくるし、お母さんはしっかりしないと捨てられるって言うし。
朝までは気分がよかったけど、今は不安で仕方がいよ。
いつものフードコートで待ってるけど、コウ君は来ないし連絡もない。
もう不安で押しつぶされそうになっていると、文化祭の話で遅くなってこれから向かうって連絡が来る。
そしてしばらくしたらコウ君が到着した。
「先輩、待たせてすみません」
「いいよいいよ」
「文化祭の準備で手間取って」
「コウ君とこはなにするの」
「災害時の公衆電話についてです」
「渋っ」
「なんか、よその学校でやって賞を取ったらしくって、それをやろうって。先輩のとこは」
「三年は自由参加なんだよ。で、うちのクラスはなし」
「そうなんですか。じゃぁ、うちのクラス見に来てください」
「だったらさ、その、一緒に周らない?」
「いいんですか?友達とか」
「大丈夫のはず」
「えっ」
「だって付き合ってるんだもん。彼氏が優先でしょ」
言っちゃったよ。いいよね。
「じゃぁ一緒に周りましょ」
「約束だよ」
「はい」
また楽しみができちゃったよ。もう、毎日が楽しくって、うれしい。でも……
「で、朝言ってた大事な話ってなに?すっごい気になってるんだけど」
「あのですね、昨日先輩んとこの親がうちに来たじゃないですか」
「うん」
「で、うちの両親とも話し合ったんですが、これからのことは考えなおした方がいいって話になって」
「なになに考えなおすって!付き合っちゃダメだって?」
「そんなことは言われませんでしたよ。というか、聞いてませんか?」
「えっ、親から?」
「はい」
「何も言ってなかったよ」
「そうなんですか……じゃぁどうなんだろ……」
「だからなんの話なの?」
「進路とか将来の話です」
「進路?」
「はい。先輩志望校替えたじゃないですか」
「うん。でも両親は納得してくれたよ」
「でも、二人の将来が掛かってるんならちゃんとした方がいいって言われたんですよ」
二人の将来だなんて、もうコウ君ってば。
「そ、そうなんだ」
「今じゃなくて将来を優先した方がいいって」
「ん?なんのこと」
「先輩、子供の頃になんであんなことしたんだろうってことないですか」
「えっ」
「俺ありますよ」
「なに?」
「カードゲーム」
「ああ」
「今にして思うと、なんであんなにカード集めてたのかって思いますけど」
「昔は面白かったからでしょ?」
「はい。今もカードは残ってると思いますけど二年以上は触ってないはずです」
「周りとか流行とかもあるしね」
「はい。でも結構お金は使ったんですよ」
「うん」
「その時は無駄じゃない、大事なものだって思ってたんですが、今は全然です」
「……」
「きっと俺たちの付き合いだってそうなんだと思います。今は楽しいけど将来はどうなるかわからないです」
「……なんで、なんでそんなこと言うの」
「二人の将来に関わるからです」
「だからって付き合い始めたばかりなのに……」
「これって時期の問題じゃないないと思います。気が付い時にどうにかしないとって」
コウ君、私との将来で不安になったの?付き合いだしたばかりなのに……
「だったらなおしていけばいいよね」
「俺もそう思います」
「じゃぁ、何が嫌なの?私はどこを直せばいいの?」
「やっぱり志望校じゃないですか」
「はい?」
「大学の志望校ですよ」
「よくわかんないんだけど」
「先輩志望校を替えたじゃないですか、時間がもったいないとかで」
「うん」
「でもそんな理由じゃなくって、もっと将来を考えるべきじゃないかと思うんですよ」
「うん?」
「将来、もっといい大学に行っていればよかったなんて後悔してほしくないんですよ」
「えっと、話がよくわかないんだけど」
「なんですか?」
「えっと、私と付き合いだして始めはよかったけど、嫌なとこがわかってきて将来的に不安だからなおして欲しいってことじゃないの?」
「違いますよ。先輩に嫌なとこなんてないですよ」
「ほんと?」
「ほんとですよ」
「もう、心配にさせないでよ。真剣な顔して時間がたったら価値観が変わるみたいな話しされたら私が捨てられるんじゃないかって思っちゃったよ」
「先輩のことは捨てませんよ。やっと付き合えたのに」
「私だって嫌だからね」
「はい」
「それで話は戻るけど、なんで志望校を替えたことがいけないの?」
「最初に戻りますけど……」
要するに、昨日コウ君の家にみんなが集まって話し合いになったそうだ。
今は楽しいだろうけど、もっと将来性を考えた方がいいと。自分たちから選択肢を狭めることは良くないと。
そしてコウ君も、私がコウ君を選んだことで後悔してほしくないと言ってきた。
私は後悔なんかしないって言い切れる。
でも、もしかしたらコウ君はいつか後悔をするかもしれない。さっきのカードゲームのように……
だったら私はコウ君を後悔させない。
「じゃぁコウ君はどうしたらいいと思う?」
「俺は、先輩が前の志望校に戻した方がいいと思います」
「会える時間が少なくなっても?」
「はい」
迷いはないんだ。
「私とは違うんだね」
「はい。昨日いろいろ考えました。前は俺に合わせてくれてうれしかったですけど、今は違います」
「どう違うの?」
「前は一緒にいられるだけでうれしかったんですけど、今は欲が出たって言うか」
「欲?」
「はい。笑わないで聞いてください」
「笑わないよ」
「俺、高校出たら就職して、二十歳になったら先輩にプロポーズしようと思ってたんですよ」
衝撃が強すぎる。うれしいはずなんだけど、言葉が出ない。
昨日も結婚前提だとか言ってたし、弟もコウ君なら結婚するんじゃないかって言ってた。
私もそうなったらうれしいな、そうなりたいなって思ってた。
でも昨日の今日でプロポーズの予定を話してくるとは思わなかった。
「俺が二十歳だと先輩も大学卒業だからちょうどいいかなって。でも先輩のお父さんにも賛成してもらえなかったんです」
「お父さんは知ってるんだ」
「みんな知ってます」
「みんなって?」
「俺と先輩の両親です」
「それでダメだって?」
「はい。考えが浅はかだったみたいです」
「そうなんだ」
「はい。高卒でもいいけど、大学に行けるのなら可能性を広げた方がいいって言われたんで考えたんです」
「なにを?」
「先輩、受験っていい学校に入っていいとこに就職するためって思ってません?」
「そう思ってるけど、違うの?」
「俺もそう思ってますよ。だから将来のことを考えたら勉強だって頑張るじゃないですか」
「そうだね」
「だったら、先輩との将来のためなら頑張れるんじゃないかって。ずっと一緒なんだから勉強の時くらい我慢できるんじゃないかって。先輩もそう思いません?」
コウ君の中ではずっと一緒にいることが決まってるんだ。
弟の言う通り、コウ君はちゃんと道筋を考えてるんだ。それも私との未来を。
「コウ君……」
「はい」
「すごいね」
「全然すごくないですよ。ただの思いつきだし、みんなには反対されたくらいですし」
「でもすごいよ。私も親と進路のことを話してみる」
「はい」
前にちょっと話したけど、やりたいことなんかも考えてみる。今は何もないけど、私とコウ君の将来なんだもん、ちゃんと考えなきゃ。
「それと先輩、もう一つあって」
「あと何があるの?」
「こんな話をしたあとになんなんですが……」
「なに?」
「その、一緒に写真撮りませんか?」
身体中の血液が沸騰したように全身が熱くなった。
コウ君は急になにを言い出すのかな。
「ど、どうしたの突然」
「そもそもうちの親に先輩を紹介しようとしたことが始まりじゃないですか」
「うん」
「それでうちの親が先輩を見たいって。写真はないのかって。それで、その、写真はどうかなって」
「だ、大丈夫、いいよ。だって付き合ってるんだから」
「そうですよね、付き合ってるんだから」
「どうしたらいい?」
「どうって?」
「私がそっちに行く?」
「先輩がこっちに?」
「じゃぁ、コウ君がこっちに来る?」
「えっ」
「えっ?一緒に撮るんじゃないの?」
「俺は先輩の写真が撮れたらって」
いやぁ、先走ったぁ。てっきりツーショットだと思ったのに。恥ずかしい。
「先輩、よかったら色々撮りましょうよ」
「そうだよね」
「はい。だって付き合ってるんですから」
「うん」
ダメだ。どうしたっておかしい。普段どうやって写真撮ってたかわかんない。笑顔にしたいけど、頬の筋肉ってどうするんだっけ。
コウ君が撮った写真を見せてもらうけど、やっぱりおかしい。全然笑えてない。
コウ君に全部削除してもらうようにお願いしたけど、もったいないって言われた。うー。
そんな話をしていたら「今度は一緒のやつ撮りませんか」とコウ君が言ってくる。
もちろん撮りたい。
でも今はダメな気がする。ひとりだってダメだったのに。
それでもコウ君が右隣に来る。そして私が座っている椅子の背もたれに左手をかけて身体を寄せる。
ダメ、コウ君。いきなりはダメだよ。
それでもコウ君は右手に持ったスマホで写真を撮る。
「先輩、もっと顔上げてください」
無理。
そんなの無理に決まってる。いつも並んで歩いてる時と距離が違うもん。
なんでコウ君は普通にできるの?
私だって友達となら肩に手をまわしたツーショットだってある。頬を付けた写真だってある。
でもそれは相手が女の子だから。
ひとりの写真だって上手く撮れなかったのに、二人でくっついたのなんかできるわけがない。
確かにこういう写真を撮りたいって思ったけど、いきなりは無理。
そんなことを考えている間にもコウ君は写真を撮っている。
そんなに撮らないでと思っていたら、通じたのかスマホをテーブルに置いて今撮った写真を見せてくる。そこには視線をそらした挙動不審な私がいた。
「ダメ。こんなの見せらんない」
そして右隣にいるコウ君に顔を向けるけど寄り添ったままだから近い。近すぎる。すぐスマホに向きなおす。
何もできないし、何も話せない。
するとコウ君が離れて、空いている椅子を引き寄せて私の右隣に座った。
「でも、二人で撮った初めての写真じゃないですか」
何事もなかったように話し出す。
「俺はそんなに悪い写真だと思いませんよ」
「だって表情が変じゃない」
「そんなことないと思います」
「ダメ。今日撮ったのは全部消して。また今度、ね」
「今日は今日で、また撮ればいいじゃないですか」
「でも今日のはダメ。恥ずかしいから」
「じゃぁ、誰にも見せませんから。それならいいですよね」
コウ君が引き下がらない。
「俺、先輩の写真が欲しかったんですよ。ほんとは海に行った時、一緒に写真撮りたかったんですよ」
「そうなの?言えばよかったじゃない」
「だって、あの時は付き合ってなかったから、嫌がられるかなって言えなかったんですよ」
「そんなことないよ」
「はい。今ならそうだってわかるんですけど、あの時はわかんなかったから」
「……そうだね。あの日は帰るまでわかんなかったね」
「はい」
あの日、二人で海に行った日、写真を撮りたいって思ったのは私だけじゃなかったんだ。
コウ君も撮りたいって思っていたんだ。だったら、
「いいよ、コウ君が写真を撮りたいって言うのなら、いくらでも撮っても」
「いいんですか」
「うん。その代わり私も撮るからね」
「えっ」
「なに?」
「俺のなんか撮ったって」
「いいじゃん、同じじゃない」
「そうですけど」
今度は私が写真を撮る番だ。
コウ君みたいに近寄れないけど、私のスマホで撮った。
撮ってみてわかった。撮られる方が恥ずかしいって。確かに友達と撮ってる時もそうだったなって思った。
写真を撮られてきょどってるコウ君が可愛い。コウ君も私と同じなんじゃない。
そして撮った写真を二人で見る。
今まではずっと向き合ってばかりだったけど、こうして並んで話していると身近に感じる。物理的じゃなくて精神的に。
カップルが並んで座ってるのがわかった。
コウ君と写真を撮ったりして家に帰ったら、お母さんが夕飯を用意していた。
先週志望校を替える話をしたばかりだからバツが悪いけど進路の話を話をする。
やっぱりその話は昨日コウ君としたって言われた。
そして、コウ君の方が年下だけどしっかりしてるねって。昨日の今日でちゃんと進路の話をするあたりがすごいって。
はい。返す言葉もありません。
でも確かに、こうやって考えると、あまり年下って感じがしない。
出かけた時もコウ君が段取りしてくれた。
頼りになる旦那様。くくっ。旦那様。
お父さんが帰ってきてから、もう一度進路の話をする。
志望校は元に戻して、これから将来を見据えてやりたいことも考えるって宣言した。
そしてコウ君にも進路のことを相談したよって連絡する。
するとコウ君の両親が早く会いたがってるって話になった。今日撮った写真を見せたんだって。
もう、あれほど消してってお願いしたのに。
挨拶には行かなきゃって思ってたけど、待ってるんだったら早い方がいいよね?
でもコウ君には少し心の準備をさせてってごまかした。
次の日の朝、駅でコウ君に文句を伝える。写真は消してってお願いしたのにって。
でもコウ君の両親は可愛いから早く連れて来いって言ってるって。そしてコウ君も可愛いからいいじゃないですかって言ってくる。
コウ君から可愛いって言われるとうれしくてドキドキしちゃうけど、両親もって言われると違った意味でドキドキする。
お昼休みにコウ君から残念な連絡あった。文化祭の準備で放課後は残るようになったって。だから会えませんって。
放課後は毎日会って話していたから残念と言うより悲しい気分になる。これから文化祭までって言うと十日くらいになる。
考えただけでため息が出る。
放課後、仕方がなくひとりでまっすぐ帰るかと考えていたらコウ君から連絡があった。今どこですかって。だから教室だよって返すと玄関で待ってますって返ってきた。
なんだろうって思って玄関に行くとコウ君が待っている。
「コウ君、なに?」
「先輩すみません、一緒に帰れなくなって」
「うん。仕方ないよ。それで?」
「それでって?」
「他に何か用があるんじゃないの?」
「えっ、特に用はないですけど」
「じゃぁなんで?」
「なんでって、その、先輩に会いたかったから」
「……」
「今日も先輩と帰れると思ってたんですけど、帰れなくなったじゃないですか。だから会いたくって」
もうコウ君ったらどこまで私を虜にするの。私も一緒に残りたくなっちゃう。
それからまた今晩連絡するねって別れた。
そして近くにいた友達には爆ぜろって言われた。
えへへ。
コウ君と別れてまっすぐ家に帰ったけど、十六時過ぎに家にいるのって久しぶりだった。
コウ君と付き合いだしてから、放課後は毎日一緒だったから。
だからどれだけ勉強していなかったって実感した。
昨日、両親に将来を見据えて頑張るって宣言した。今度コウ君の家にも挨拶に行くことになってる。悪い結果は残せない。私のためにも。コウ君のためにも。
気持ちを改めて勉強を始める。
夕飯の時にコウ君の家に挨拶に行くって話をする。
弟には止めた方がいいんじゃないと揶揄される。
両親からはコウ君の挨拶が済んでるんだから早い方がいいんじゃないかと言われた。
挨拶はした方がいいってわかってる。でもやっぱり不安だ。
私には何もない。
コウ君は可愛いって言ってくれるけど、特別秀でてる訳でもない。スタイルだってメリハリがなくって、そのスレンダーだ。
それにコウ君みたいな強い決意みたいなものもない。
コウ君の両親に受け入れてもらえるのか自信がない。
はっきりしない私にお母さんが話しかけてくる。
「何を考えてるの?」
「……コウ君の両親に認めてもらえるかなって」
「そう」
「うん」
「もし認めて貰えなかったら諦めるの?」
「!」
「認めて貰えなかったら、認めてもらえるまで頑張ればいいじゃない」
そうだ。お母さんの言う通りだ。コウ君のことは諦められない。
「一昨日彼が来た時だって、ダメだって言われることも考えていたって言ってたな。でもそれでも挨拶に来た。きっと彼は覚悟ができてたんだろうな。ヒカリはどうだ。覚悟はあるか?」
確かにコウ君はダメだって言われるかもって言ってた。それでも挨拶に来てくれた。
お父さんの言う通り、私には覚悟が足りてなかった。
「ありがとう、お父さん、お母さん。週末、挨拶に行ってくる」
「大丈夫なん、それで?」
私の話に弟が割り込んでくる。
「大丈夫。覚悟ができたから」
「覚悟だけじゃどうにもならないこともあるぜ」
「わかってる。でもしなくちゃならないから」
「へー、本気なんだ」
「本気だよ」
「本気なんだらいいんだよ」
「なんで?」
「だって姉ちゃんは浮かれてただろう?でもコウはずっと本気だったから」
「そうかも」
「ならダメ元で行ってくればいいさ」
「そうだね」
「きっとコウがなんとかしてくれるよ」
そうだ。私ひとりじゃないんだ。コウ君がいるんだ。
「うん」
夕食のあとコウ君に連絡をする。週末に挨拶に行きたいって。それで都合はって話したら、一昨日と同じで日曜日の十七時ってことになった。
覚悟は決まったはずなのに不安になる。コウ君にうちに来た時不安じゃなかったって聞いたら、やっぱり不安だったって。
それなのにひとりで来るなんてやっぱりコウ君はすごい。
私だって頑張る。
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