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11 彼氏の決意

 いよいよ今日、コウ君が挨拶に来るんだ。

 昨日連絡したときも話題にはならなかった。行きますねって感じだった。

 ああ、なんだかドキドキが止まらない。うれしいとか興奮してるとかそんなんじゃない。

 コウ君に会ってからいつもドキドキしてたけど、こんなのは初めて。なんだろう。不安?なんだろうか。

 不安って言えばお父さんがおかしい。そわそわしてるっていうか、無理やり落ち着こうとしている感じ。

 お母さんはいつも通りかな。


 もうすぐ十七時になる。さっきコウ君から、これから行きますって連絡があったから、もうすぐだ。

 ダイニングテーブルには私とお母さんとお父さんの三人が座っているけど会話らしいものはない。弟は二階の自分の部屋にいる。

 緊張する。

 まっているとチャイムが鳴る。

 コウ君を出迎えに行くと制服姿だった。学生の正装だ。それを見て本気度が伺える。

 コウ君も緊張しているようで挨拶を交わすだけ。それから両親が待つダイニングに案内をする。

 そしてダイニングの入り口でコウ君は立ち止まり挨拶を始めた。


「佐藤コウスケです。今日はわがままを聞いてもらってありがとうございます。これはつまらないものですが、どうぞ」


 手土産まで。すごい、真剣だ。

 コウ君の挨拶にお父さんが応える。


「娘から話は聞いてる。今日は挨拶だとか。まぁ座って話をしようか」

「ありがとうございます」


 いつもは弟が座っている席にコウ君に勧める。しかしコウ君は椅子には座らず話始める。


「先輩とはちょうど二週間前から付き合い始めした。これからは結婚を前提に付き合いたいと思ってますので、その挨拶に来ました」


 絶句。

 うれしいとかそんな気持ちすら湧かない。どうしてこうなったのかわからない。

 私の正面にいる両親も同じみたいで黙ってコウ君を見ている。その姿につられて私もコウ君を見上げる。


「ダメでしょうか」


 沈黙の中でコウ君が尋ねる。


「ダメと言うか、話がいきなりすぎなかな?」

「そうでしょうか」

「まずは、座って」

「はい」


 コウ君が席について話が続く。


「二人はまだ高校性だ。付き合って二週間。それがなんで結婚につながる?二人が付き合うって話なら、二人の問題だから許してもいいと思うけど、結婚となると話は別だ」

「はい」

「何か理由があるのかな。その、子供とか……」

「いや、そういうことは全くないです」

「じゃぁ、他に何か?」

「はい。この前先輩が大学の志望校を替えるって話をしてきました。僕との時間を減らしたくいなって。

 僕とのことをそんなに思ってもらえるのならと、両親に先輩を紹介しようとしたら、女の子の親の方が不安だろうから、挨拶なら先輩の家が先だって言われました。

 そして僕のために希望校を替えることを話したら、そこまでしてくれる先輩に対して、どう応えるのかよく考えろとも言われました。

 受験ってのは人生の分岐点だ。今は楽しいかもしれないけど、将来後悔をするかもしれない。先輩の人生はそれでいいのかって。

 僕はそこまで考えていませんでした。ただ先輩といられることがうれしかったです。

 でも父親の話で、先輩が人生をかけた選択をしてくれるのなら、僕も人生をかけたいって思ったんです。

 まだ高一です。働いてもいないしお金もないです。どうやって幸せにしたらいいかもわかりません。

 それでも先輩と一緒に幸せになりたいです。俺を選んでくれた先輩を幸せにしたいです。

 そう考えて、今日挨拶に来ました」


 信じられない。コウ君はそこまで考えてくれたんだ。

 私なんかただ一緒にいたいいだけだったのに。

 正直、付き合う前にちょっと結婚なんかも考えたことがあったけど、流石に浮かれすぎてるなって反省もした。

 でもまさか結婚って言葉がコウ君から出るなんて思わなかった。

 どうしよう。受験なんてしてる場合じゃないかも。花嫁修業ってどこに行けばいいの?

 この前付き合いだしたばかりなのに婚約しちゃうの?フィアンセってやつ?

 お父さんなんかはできちゃったんじゃないかって気にしてるけど、キスだってまだなのに。

 でも婚約したんならいいよね。弟は犯罪者扱いしてきたけど、婚約者なら問題なはず。

 ああ、なんだか実感してきた。コウ君は結婚したいほど私が好きなんだ。

 私だって大好き。


「ヒカリ、うれしいかもしれないけど、今はそんな話じゃいよ」

「えっ」

「そうだぞヒカリ。世の中は甘くないぞ。酷い話だけど、二人が大学出るまで何年もかかるんだ。その間に別の出会いがあるかもしれない」

「そんなこと……」

「はい覚悟してます」

「コウ君?」

「俺もそれは考えました。先輩は来年大学に行きます。そこでもっといい人がいるかもしれないって」

「そんなことないよ」

「わかんないじゃないですか。だって先輩は可愛くて優しいじゃないですか。絶対モテますよ」


 なんなのコウ君!結婚前提だと可愛いとか、実はドッキリとかなの?そんなこと言ってくれるのコウ君だけなんだから。


「それに佐藤君だって他の人を好きになるかもしれないだろ?」


 えっ、うそ。嫌だ。絶対に嫌だ。私のこと好きだって言ったし。

 そんなことはないと思うけど、もしかしたら私のいないところで誰か言い寄ってくるのかも。

 嫌だよ、そんなこと。私捨てられちゃうの?

 お父さんの言葉で悪い未来が私を襲ってくる。


「それは大丈夫です。俺は先輩が好きだから」


 思わずコウ君を見つめる。今日は何度も驚かされる。そんなにはっきり言われるとうれしくなっちゃう。


「そうか。そんなに言うのなら、付き合うことは認めよう。将来結婚するもしないも二人の自由だ。でもだからと言っていかがわしいことまでは許さない。二人は未成年だし、学生のうちに子供を作っても育てられないからな。お母さんはどう思う」

「私もそれでいいかな。ヒカリがうれしいのはわかるし、ここまでしっかりとした話ができれば信用してもいいかなって思うわ」

「そうだな。何十年も結婚していても塾年離婚する場合もある。先のことはわからないけど、娘のことは任せるよ。よろしくな」

「ありがとうございます。きっと幸せにします」


 えっ、なんなの?婚約成立したの?


「お父さん、私、結婚していいの?」

「なに言ってるんだ。話を聞いてなかったのか?」

「いや、だって……」

「ヒカリ、うれしいのはわかるけど、流石に飛躍し過ぎよ。未成年でしょ」

「私もう十八だから成人してるし」


 お父さんが息を飲んだのがわかったけど、お母さんは話を続ける。


「そうだけど、まだ学生でお金もないでしょ。学校を出て二人とも生活ができるようになって、それで結婚ってなったら認めるわ。それまで何年もかかるけど、そこまで続くのなら反対はしないわ、ね?」

「ああ、そこまで続くのなら反対する理由はないな」

「わかった。私頑張る」

「ありがとうございます。正直、ダメだって言われたどうしようって思ってましたけど、考えてもいい案がありませんでした。ダメだった言われた時、親を騙して付き合ってもいいんだろうかっても考えました。でも本当によかった。先輩、今度はうちの親に紹介しますね」

「えっ、待って、心の準備がいるっていうか」

「先輩なら大丈夫ですよ」

「佐藤君、この話は親御さんは知ってるのかな?」

「はい。家で結果を待ってます」

「そうなんだ。それじゃ、家に電話してみてくれないかな、親御さんと話がしたいから」

「はい。ちょっと待ってください」


 みんなの前でコウ君が電話をする。


「もしもし、ああ、うん、上手くいったと思うよ。それで先輩のお父さんが話がしたいって言ってるけど、うん、わかった」


 どうぞと言ってコウ君がスマホをお父さんに渡す。

 父親同士で話しているらしいけど、断片的で話の内容はわからないから無言で見ている。

 話し終えたお父さんがスマホをコウ君に返したら、私たちにこれからの予定を説明する。


「これからお母さんと二人で佐藤君の家に行ってくる。イツキと三人で夕飯をどこかで食べてくるといい。お金は渡すから」


 お父さんは財布からお金を出して私に渡しながら、お母さんに出かける用意を促す。

 心配に思ったコウ君が、何か問題でもとお父さんに話しかけると、問題はないと考えているけど、親同士で話しておきたいこともあると説明をする。

 さっきはお父さんもお母さんもいいって言ってくれたけど、これからコウ君の家に行くって、私だって心配になる。

 もうなにがなんだかわからない。

 そんな不安と戦っていたら、お父さんがお茶も出してなかったなと言い出す。

 なに、その余裕!というか、コウ君に失礼でしょ。気づかない私も私だけど。

 コウ君に好みを聞いてもお構いなくと返事をされたので、無難に麦茶を出す。

 そんなやり取りをしていたら、お母さんが着替えてきた。そして佐藤君の家に行ってくるからと二人で出かける。

 玄関で両親を見送ったら今度は弟が二階から降りてきた。


「なんか、すげぇことになってるな」

「……」

「それにしても、相変わらずコウの考えにはびっくりするよな」


 確かにすごいことになってる。コウ君の考えにもびっくりだ。でも相変わらずって、コウ君の考え方って独特なの?

 ダイニングに向かう弟のあとをついて行く。


「おめでとうって言えばいいのか、コウ」

「えっ、俺はなんて言えばいいんだ?」

「そこはあれだよ、今日から兄貴だと思ってって」

「ちゃかすなよ」

「でも、そういうことだろ?」

「……まぁ、そうなんだけど」

「前に言ってた通りじゃんかよ」

「そうだな」

「でもいいのか、姉ちゃんで」

「えっ」


 黙って聞いてたら、なに言い出すのよ。


「確かにいいとこはあるよ。そこそこ自慢できると思ってる。でも他にもいい子いるじゃん。なんで姉ちゃんなんだ?」

「なんでって」


 私だってなんでよ。なんで他の子を勧めるのよ!


「小学校の一目ぼれの話は覚えてるよ。でもそれだけじゃこの先わかんないだろ?姉ちゃんが捨てられた姿なんか見たくないんだよ」

「捨てねぇし」

「いや、ぜってぇ勘違いしてるって。あとになって思ったのと違ってたとかで、姉ちゃんを捨てる未来が想像できるし」

「そんなことないって」

「だって付き合って二週間でプロポーズだぜ。何もわかってないようなもんだろ?」

「聞いてたのかよ」

「そりゃそうだろ。挨拶に来るって言えば気になるだろ」

「でも、プロポーズとは違うだろ?」


 なんですとーっ!今日はずっとびっくりしていたけど、今のコウ君の言葉が一番驚いたよ。さっきのはプロポーズじゃなかったの?


「じゃぁ、なんだよ」

「俺の覚悟っていうか」

「覚悟ってなんだよ」

「なんて言うか、遊びじゃないんだよ。普通付き合うのに別れることを考えるか?付き合いだしたら最後は結婚だろ?だからだよ」

「……やっぱ、コウだな」

「なんだよ」

「いや、昔からコウは理屈っぽいからな」

「わかってるよ、面倒くさいんだろ?」

「そうじゃねぇよ。ちゃんと筋道を考えてるってこと」

「まぁ、俺なりに考えてはいるんだけど」

「ああ。それでみんな助かったからな」

「そうか?」


 なんか私そっちのけで二人でわかりあってるけど、どういうこと?そもそも私とコウ君のことでしょ?なんでイツキがしゃしゃり出てくるの?


「で、どうする。これから」

「これからって?」

「いや、姉ちゃんがお金もらったから、どこか食べ行くだろ?」

「俺は帰るよ。なんか気になるし」

「コウ君、帰っちゃうの?」

「先輩すみません」

「そうだよな。うちの親がそっちに行ってるしな」

「ああ。先輩それじゃおじゃましました」

「あっ夜連絡するね」

「はい」


 行っちゃった。

 なんかばたばただったなぁ。


「で、姉ちゃんはどうするんだよ?」

「お金もらったけど、余り物でもよくない?」

「そうじゃねぇよ」

「なに?」

「コウとのこと」

「コウ君とのこと?ちゃんと付き合っていくよ。へへへ」

「へへへじゃねぇよ。あれだけ真剣なのに、思うことはないのかよってこと」

「あるよ。うれしかったし、私だって真剣に好きだし」

「だからそうじゃねぇよ。本当にわかってねぇんだな」

「なによ!」

「コウは本当に結婚するつもりだぜ」

「えっ」

「コウは昔から問題解決には最短距離を目指すんだよ。だから問題点を出して順番につぶしてく。ゲーム脳なんかもしれないけど。でもそれで俺ら助かってきたから」

「でもコウ君も言ってたけど、付き合ってるんならいつかは結婚じゃない」

「だからそうじゃないんだって。いつかとかじゃないんだって。この前十六になったばっかだけど、十八の誕生日迎えたら婚姻届け持ってくるレベルなの。現に今日親公認の付き合になっただろ」

「本当に?」

「ああ。コウは用意周到って言うか、外堀を埋めてそれしかないって感じに持ってくの。ただちょっと強引と言うか、空気は読めるんだけどあえて無視したりとかがあって対立もするんだよ」

「結婚はうれしいけど、そんなに強引なとこもあるんだ」

「ほんとにわかってんの?」

「わかってるってば」

「……ぜんぜんわかってねぇな。やっぱコウが不憫だよ。いいか、コウの気持ちを踏みにじるようなら、俺は許さないからな」

「そんなことする訳ないじゃない」

「頼むからな」


 そんなの頼まれなくたって大切にするって。というか、もう一番大切だって。

 ……そっか、コウ君は結婚したいくらい私のことが好きなんだ。へへへ。





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