10 加速するふたり
夜、お風呂に入っていてもコウ君のことを考える。
来年の誕生日を約束しちゃった。誕生日のデートとか?
来年、私は大学生か。
ふと弟の今朝の言葉が思い浮かぶ。
来年の私は大学生でコウ君は高校生。大学生と高校生。言葉にすると犯罪臭がする。
いろいろ考えるけど大丈夫、二人は付き合ってるんだからと自分に言い聞かせる。
今日のお風呂はいつもより熱いかも?
放課後は毎日、百の質問をした。いろんなタイプの質問があってコウ君の考えとかが知れてよかったと思う。
でも週末はお互いに塾やアルバイトがあって会えない。いや無理をすれば会えるけど。
来年大学に行ったら、もっと会えなくなるんだろうって考えてしまう。
東京の大学だと片道二時間近くかかるはず。学校は違うから登下校も一緒にできない。
来年というか、半年後だ。せっかく付き合いだしたのに半年後の未来は暗い。週末会えないだけで寂しいのに。
今週も始まる。
朝、駅でコウ君と弟と三人で話す。先週の進路希望調査のこととか。
希望の学校があればいいけど、そうじゃなかったら国立か私立。あと文系理系の方向性を決めたらねって話す。
でも私も大学を考えた方がいいのかな。
別にどうしても行きたいって大学じゃない。東京にある大学で自分の偏差値と見比べて選んだだけ。ただ、ずっと目標にしてたから、目標を替えるってのに抵抗がある。
いっそコウ君が同い年で同じ大学にしようってのが楽だったな。
金曜日になって朝、教室に入ると友達に囲われる。
放課後コウ君と一緒にいるところを見られたらしい。彼氏ができたのかとつるし上げられる。
色々聞かれたけど、なんとなく弟の友達とは言えなかった。それ以外はだいたい答えられた。
私の一目ぼれで、私から告白して付き合いだした。明日でちょうど二週間。まだ何もしてないって。
友達からは受験生なのに彼氏を作るなんて人生舐めてる。落ちればいいのにって言われた。
さすがにそれはひどいんじゃないと言い返すけど、笑顔だった思う。だってしょうがないじゃん、好きんなったんだし。
放課後、付き合ってることが友達にバレた話をコウ君にする。
コウ君の方はまだ噂も立ってないらしい。弟からの追及もないって。
でもコウ君が受験を心配してくる。友達の落ちろなんて冗談は気にしなくていいのに。
それでも毎日一緒だから勉強の時間が気になると。
確かに勉強時間は減ってる。会ってる時だけじゃなくてひとりの時もコウ君のこと思ってしまうから。
やっぱり志望校は県内の替えた方がいいのかなって考えてしまう。
だからコウ君に自分の考えを告げる。
まだ親には相談していないけど志望校を県内の大学に替えようと考えていること。
理由はコウ君と一緒にいたいから。付き合い始めたばかりなのに一緒の時間が取れなかったり、大学に行ったら会える時間も限られたりするからと。
コウ君はそんな理由で志望校を変えてもいいのか聞いてくるけど、同じ学校に行きたいって理由で志望校を決めることもあるでしょって答える。
それにもっとコウ君と一緒にいたいって伝えて、コウ君はどう思ってるのか聞く。
コウ君も一緒いれた方がうれしいけど、それでも志望校を替えるのはちょっと違うんじゃないかと思うって。
私のことを考えてくれるコウ君の気持ちはうれしい。
でも私の一番はコウ君なんだと伝えると、わかったけど無理はしないでと返された。
これで私の考えも決まった。あとは両親に相談だ。
夕食の時に志望校の変更を両親に打ち明ける。
ちょっとズルいけど、友達と相談したことにした。近い大学の方が無理しないですむんじゃないかって。
両親も最初は渋っていたけど、そういう考え方もあるかもって納得してくれた。
これで懸念が解消できた。
そう思っていたけど違う問題が湧いてきた。
いや、問題ではないのか?
コウ君が私の両親に挨拶をしたいと言い出した。
急なことだけど明後日の日曜日、夕方の五時はどうかって聞いてきた。
塾やアルバイトは終わったあとだけど両親の都合はどうか聞いてほしいと。ダメならまた違う日を考えるって。
展開が早すぎて頭がついて来ない。とりあえずコウ君に連絡をする。
コウ君の話をまとめると、コウ君が私のことを両親に紹介したいと言ったら、彼女の両親に挨拶行く方が先だって言われたって。
それで急だけど挨拶に来たいって言い出したんだって。
でもなんで急にって聞いたら、大切な人だから紹介したかったって。
うわっ、大切だって。
好きや可愛いもうれしかったけど大切だって言わるのは特別な気持ちになる。
コウ君の挨拶が終わったら今度は私が挨拶に行く。
だってコウ君は私の大切な人だから。
コウ君との話を終えるとすぐに両親に話す。
けど、やっぱり恥ずかしい。今まで恋愛の話なんかしたこともなかったのに。
「お母さんお父さん、大事な話があるんだけど」
「なに?志望校のこと?まだあるの?」
「それはもういいんだけど」
「なに?」
「私、今付き合ってる人がいるんだけど、その人が二人に挨拶したいって」
様子を伺って黙っていたお父さんが口を開いた。
「男ができたのか?」
男って言うな。
「その、彼氏がね、急なんだけど、挨拶に来たいって。でね日曜日の夕方は都合がいいか聞いてほしいって」
「挨拶って、まさか子供がって……」
「そんなんじゃないし。まだ付き合ったばっかだし」
「じゃぁなんで」
「私もわかんない。夕方までそんな話なかったのに。さっき連絡が来たばっかりで。でもコウ君が自分の親に私を紹介しようとしたら、向こうの親がうちに挨拶に行くのが先だって言ったんだって」
「まぁ、どっちが先って問題もあるけど、話がわかる家らしいな」
「そうなのかな」
「それで彼氏はどんな人?いつから?」
今度はお母さんが聞いてくる。
「お母さんは知ってると思うけど、イツキの友達のコウ君。ちょうど二週間になる」
「なに、あんたの彼氏は年下なの?コウ君ってイツキは知ってるの?」
「うん、イツキも知ってる」
「ほんとなんだ」
お父さんが立ち上がり、いきなり弟を呼びつける。ちょっと待ってよ。
「イツキ、ヒカリがお前の友達と付き合ってるって知ってたか?」
「知ってるよ」
「本当なんだ」
「なんかあった?」
「そいつがな、挨拶に来たいんだと」
「へー、そうなんだ。すげーなあいつ」
「なんで?」
「まだ付き合ったばっかなのに。それで挨拶って、本気なんだなって」
「本気ってなんだ、遊びだと思ってなのか?」
「コウはそんな奴じゃないけど、姉ちゃんがガッツリ惚れてたからさ」
「そうなのか?」
「えっ、うん」
なんでお父さんにこんなこと言わないといけないの。もう恥ずかしいんですけど。
「で、いつ来るって?」
「日曜の夕方はどうかって」
「バイトが終わったあとなんだ」
「アルバイトしてるのか?」
「うん。それで受けるの?」
「そうだな、挨拶したいってのは悪いことじゃないな。親としても安心できる。それにどういう奴か見たいしな」
「まぁ、コウなら問題ないな」
「そうなのか?」
「家にも遊びに来たことあるし、お母さんも会ってるよ」
「何度か会ったことはあるし、悪い子じゃないと思うけど、実際はよくわからないわ」
「まぁ、会ってみればいいさ。それより姉ちゃんも挨拶に行くってことになるんだろ?そっちが心配だな」
「なんでよ」
コウ君の挨拶が決まりつつあったのに、ちょっと風向きが変わる。
「だって姉ちゃんだぜ。向こうの親がいいって言うかどうか」
その場が静まり返って、私に視線が集まる。
「コウ君は私のことが好きだって言ったし」
「それって一目ぼれだろ?中身がバレたらどうなるかわからんじゃん」
「そんなことないし」
「そうよ。ちょっとガサツだけどいい娘よ」
「そうだな」
「そこだよ。コウが知ったらどうなるか」
「そんなこと……」
「まぁいいさ。日曜の夕方なんだろ。何時?」
「五時だって」
「わかった」
「お父さんたちもそれでいい?」
「ああ」
コウ君の挨拶が確定した。でもそれは私が挨拶に行くことが確定したことにもなる。
もしコウ君の親にダメって言われたらどうしよう。
土曜日は大掃除になった。




