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第四小節「眠気覚ましのトランペット」

突如私の元を訪れた親友に、店の前の道路に倒れていた泥酔社会人の女性、どちらもびっくり仰天な出来事であったがゆえに、昨日はあまりよく眠れた気がしなかった。しかし今日は土曜日。お昼まで二度寝する


「雪ー、起きなさい!」


という訳にはいかなかった。うちのレストランは土曜日も午前から営業があるから、手伝わなければならないのだ。母に起きろと言われたので、私は体を無理やり起こし、髪を整えてから朝食を済ませた。


午前中の業務を乗り切れば、久々に瑞佳のトランペットが聞けるから頑張ろう、そう思いながら私は開店に向けての業務を始めた。


「おはようございます」

テーブルを拭いている最中に、西川さんが店に入ってきた。私は手を止め西川さんの方へ駆け寄った。

「西川さんおはようございます。制服はあの奥に更衣室に用意してあるのでそれに着替えてください」

「分かりました」

そう言って西川さんは更衣室へ向かった。西川さん、昨日とは雰囲気全然違うな。とてもかわいい。理想のOLという感じ。私もいつか、あんな美人さんになれるかな…


『私には無理だな』


私は窓に写る自分を見てそう思った。


しばらくして、着替え終わった西川さんが更衣室から出てくる。

「先輩、どうですかね」

うん、私より断然かわいいしにあってる。こんな人が店にいたらお客さん絶対にもっと集まるだろうなと思った。

「私より似合ってますね。素敵です」

「もう、先輩だってこの制服十分にあってますよ!」

そう言って西川さんは突然抱き着いてきた。とても恥ずかしかった。

「やめてください。セクハラで訴えますよ」

私は西川さんを突き放した。

「先輩、もしかして恥ずかしいんですか?」

西川さんがニヤニヤしながらからかってくる。

「それ以上何か言ったらクビにしますからね」

「はい、すみません」

脅すと西川さんは大人しくなった。


気を取り直して、私は西川さんに業務内容を教えた。接客、注文の聞き取り、挨拶など。西川さんはとても覚えが早く、営業開始後しっかりとこなしていて全く新人という感じがしなかった。一度社会の荒波を経験しているから、これくらいのことは西川さんからしたら楽勝なのだろう。

「雪。ちょっとこれ運んでくれる?」

西川さんを見ながらボーっとしていた私を母が呼ぶ。いけないいけないと思いながら、私は母の手伝いをした。

昼の営業が終わり、しばらく休憩となる。私は厨房にある皿を母、西川さんと一緒に全て洗った後、昼食を食べながら一息ついた。

「西川さんどうでしたか。午前は」

私は興味本位で西川さんに尋ねてみる

「まぁ…前いた会社の業務に比べたら全然楽でしたね。それに、楽しかったですよ」

やはり私の思った通りだった。

「楽しいと思ってもらえて嬉しかったです」

私はニコッとしながら言った。私は続けて

「ところで、西川さんってどういう会社に勤めてたんですか」

と聞く。

「所謂プログラム作成の請負ってた会社です。ここ最近、納品速度の速い競合他社に仕事を奪われちゃいましてね…それで、打開策を私の所属していたチームが提案したんですけど」

「失敗してしまったんですか」

「はい、その通りです。それで、責任とれってことで辞職させられたんですよ」

西川さんは悲しい顔をしながらそう話した。だが続けて

「ま、こうやってかわいい子と一緒に仕事できるし、嫌な上司もいないから、前の職場抜け出せて今は少し生成してるけどね」

西川さんは笑いながら言った。少しシスコン気質がありそうなのが心配というか、怖いが、昨日あれだけ悲しんでた人が今こうして元気にしてくれているのは私としても嬉しいことだった。やはり父の提案は妥当だったと、笑顔で昼食を食べる西川さんを見て思った。


 しばらくすると、まだ夕方の営業再開時刻ではないが人が来た。そう、瑞佳である。

「雪ちゃん、来たよー!」

瑞佳は手ふりながら言った。私は瑞佳のいる入り口の方へ駆け寄った。

「お、約束通り持ってきてくれたんだね」

左手にはトランペットが収納されているケースがあった。

「もちろん!!そのために来たんだし」

「そうだね」

と二人で話していると西川さんがこちらにやってきた。

「先輩。こちらの人は」

「私の中学時代の友人でトランペット奏者の藤原瑞佳です」

「そうなんですね。藤原さん初めまして。私は今日からここで働くことになった西川彩音と言います」

西川さんは瑞佳に挨拶した。

「どうも、宜しくお願いします!」

と瑞佳は西川さんに対して軽くお辞儀した。

「ところで、先輩方はこれから何を」

「実はこの子がジャズバンド組みたいって言ってましてね...」

私は簡単に事情を話した。

 

 私もしばらく封印していたサックスを表に出し、手入れを軽く済ませ、久々に吹いた...いや、ここでは吹くことになるはずだったというのが正しい表現だったかもしれない。

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