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こうしてマグリットのものがどんどん増えていく。
侍女たちも親しげにイザックに話している。
マグリットが婚約者になってからというもの、噂を信じてイザックを怖がり避ける人たちはほとんどいなくなった。
むしろ実直で誠実な姿を見たことで、頼りにされて慕われている。
こうしてイザックを怖がることなく、侍女たちとも親しげに話している姿を見ていると、マグリットは心が温かくなっていた。
「マグリット、明日は街を回りながら帰ろう」
「はい! ミアとオリバーにもお土産を買っていきたいです」
「ああ、あとは珍しい食材が見つかるといいな」
「そうですね! とても楽しみです」
マグリットが頷くと、何故かイザックが腕を広げているではないか。
なんのことかと首を傾げていたが、イザックがマグリットを抱きしめたことで目を見張る。
そのまま見上げるようにしてイザックを見た。
「イザック様……?」
「マグリットが可愛すぎる……離れたくないな」
「…………ッ!?」
侍女たちから「キャーッ」と小さな悲鳴が聞こえた。
マグリットもそれには恥ずかしくて叫びたい気分になった。
だけどそれと同時にイザックの気持ちが嬉しくて、マグリットはその気持ちに応えるように彼の背に腕を回す。
タイミングよく執事がイザックとマグリットを呼ぶ声が聞こえた。
二人はゆっくり体を離すした。
「いってきます」
「あぁ、楽しんで」
「……はい!」
マグリットは赤くなる頬を押さえながら、イザックと別れてお茶会の会場へと向かう。
マグリットはお茶会でのマナーを思い出しながら、歩いていた。
会場に到着すると目がチカチカしてしまうほどの色とりどりのドレスが見えた。
人工的な強い花の香りにマグリットは嘔吐しそうになるのを懸命に堪える。
いつも自然に囲まれた空気のいい辺境の地にいるせいか、人混みに酔ってしまいそうだ。
上から下まで煌びやかに着飾った令嬢たちの中で、シンプルなドレスを着ているマグリットは逆に目立ってしまう。
けれどそれだけ気合いが十分だということだ。
やはり王太子の婚約者の座を狙っているのだろう。
マグリットはギルバートの端正な顔立ちを思い出す。
ベルファイン国王とは違い、クールで寡黙なところはイザックに似ているのかもしれない。
(たしかにギルバート殿下は令嬢たちにモテそうだわ)
だが、イザックの婚約者であるマグリットには関係ないことだ。
大規模なお茶会は練習の場にはもってこい。
王妃の気遣いを無駄にしないためにも、マグリットは成長しなければならない……が、どうしてもテーブルに置いてある作り物のような美しいお菓子に目を奪われてしまう。
(あれはどんな食材でできているのかしら……! あのケーキ、一口だけでいいから食べてみたいっ)
その度にマグリットは今日の目的を思い出して首を横に振る。
自分の欲望を抑えつつ、にっこりと笑みを浮かべる。
(ダメダメ……! 今日は料理じゃなくて素敵な令嬢として振る舞わなくちゃ)
気合いを入れるために頬をペチペチと叩いていると、先ほどまで触れていたイザックの体温を思い出す。
マグリットを可愛いと言ってくれた彼の言葉を思い出すと自信が出てくる。
(よし、頑張りましょう……!)
マグリットを見る視線は冷ややかだったり、興味津々だったりと様々だ。
挨拶に来てくれる令嬢はいても、やはりパーティーでのことが尾を引いているからか様子見されている。
(ビームを出したのがよくなかったのかしら……)
ギルバートのことを話している令嬢たちはキラキラと輝いて見えた。
発酵食品で目を輝かすマグリットとは違って見える。
マグリットはローガンに言われた言葉を思い出していた。
彼は魔法オタク、マグリットは日本食オタクと言ったところか。
イザックはそんな二人を見守っていると思うとなんだか面白い。




