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初対面のイザックの髭がぼうぼうで髪が乱れていた時のことを思い出す。
今の美しさを考えると、あの姿が嘘のようだ。
侍女たちはマグリットの肌を見つめながらまだ「うらやましい」と言っている。
やはり普段食べている食事の影響は大きいということだろう。
マグリットは味噌が完成したことを機に、食事は自然と和食に傾いていく。
アデルもネファーシャル子爵家も、マグリットが食事を作っていた時はスリムだったのに、王家のパーティーの時はふくよかになっていたのもそういうことなのかもしれない。
「頬がプルプルですわ!」
「私にも触らせて! はっ……」
「……ずーっと、触っていたいですわ」
マグリットは今日も侍女たちに頬をつつかれるのだった。
次の日、マグリットはお茶会に出席するための準備を進めていた。
ミントグリーンのドレスは爽やかで、マグリットの少し焼けた肌にもよく馴染む。
シンプルなデザインながら高級感もバッチリだ。
このドレスは王妃がマグリットのためにと用意してくれたものだ。
「マグリットと一緒に買い物に行かせてちょうだい! お願いお願いお願いっ!」
王妃の熱い希望により、一緒に買い物に行ったのが先月のこと。
この国には王子が二人いるが、彼女は「娘が産まれていたらこうして着飾れたのね……」と買い物をしながら唇を不満げに尖らせていた。
マグリットをまるで娘のように可愛がってくれる王妃により、荷馬車は高級ブティックの箱で埋め尽くされたのは言うまでもない。
今日は王妃主催のお茶会なのだが、実際はギルバートの婚約者探しだそうだ。
彼の年に近い令嬢たちが集められるそう。
ギルバートと年が近いということは、ここにいる令嬢たちはマグリットとも年が近いということだ。
イザックという婚約者がいるマグリットだが、お茶会でのマナーを学ぶために出席させてもらっていた。
パーティーではいつもイザックが隣にいてくれたため、何かあってもすぐにフォローしてくれた。
こうして一人でお茶会に出席するのは初めてのことで、かなり緊張している。
(だけどこういう場も大切だってメル侯爵夫人に聞いたもの。わたしもがんばらないと……!)
マグリットが気合いを入れつつ深呼吸をしていると、イザックが部屋の中へ。
「マグリット、よく眠れたか?」
「はい、イザックさんは……寝不足ですか?」
「ローガンのことでな……」
どうやらイザックは夜遅くまで『ローガン拉致作戦』の計画を練っていたらしい。
国王にも協力してもらい、ローガンがいない間に人員を増やして強制休暇を取らせるように手を回したそうだ。
なんだかんだでイザックも彼のことが心配なのだろう。
「このドレスもマグリットによく似合う。とても綺麗だ」
「あ、ありがとうございます」
イザックはマグリットの頬を撫でる。
侍女たちは二人を見つつ、うっとりとした表情で嬉しそうだ。
「こういう時のためにもう何着かマグリットのドレスを置いておきたいのだが、何色がいいだろうか?」
イザックの問いかけに侍女たちは我先にと体を乗り出して答える。
「ガノングルフ辺境伯、今度は可愛らしいピンクなんてどうでしょうか?」
「ピンク、賛成ですわ! 可愛らしいマグリット様にぴったりだと思うのです」
「アクセサリーもドレスに合わせて用意していただけるとマグリット様は更に輝けますわ!」
「そうだな。すぐに手配する」