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「……ローガンは?」
どうやらイザックもローガンがいないことが気になるようだ。
ローガンは子どもたちに埋もれている。
もう白衣すら着ていない。
職員たちは慣れた様子でローガンから子どもたちを離していく。
マグリットはその隙に先ほどまで職員たちと話していたことをイザックに伝える。
するとイザックは特に驚くこともなく頷いていた。
「……そうか」
「かなり限界みたいで……どうにかできませんか?」
職員たちやマグリットはイザックを見つめたまま、答えを待っていた。
「…………わかった」
「本当ですか!?」
職員たちと目を合わせて喜んでいたマグリットだったが次の瞬間、イザックは信じられないことを口にする。
「ローガンをガノングルフ辺境伯領に連れ去る。協力してくれ」
「「「……!」」」
それにはなんて言葉を返せばいいのかわからずに固まっていた。
イザックは真面目な表情が更に怖い。
マグリットはなんだか誤解が生まれているような気がしたため、イザックに詳しく説明を求めた。
「昔からこうなるとローガンは倒れるまで聞かない。この場から無理やりにでも引き離す必要がある」
「そういうことだったんですね。はぁ……よかった」
「……?」
ローガンの性格上、こうなってしまえば場所を変えない限り、働くのを止めることは不可能。
無理やり引き離して休憩させなければならないそうだ。
二人は幼馴染で互いのことをよくわかっている。
この状態になった時は何度かあって、毎回こうした対応を取っていたそうだ。
一度目は前公爵と揉めた時。二度目はリダ公爵を継いだ時。
そして今回は三度目だそうだ。
「大体、五年でこういうことになる」
ローガンの幼馴染であるイザックと言うと説得力が違う。
「なるほど……!」
「俺たちはあと二日ほど滞在したら、ガノングルフ辺境伯領へと帰らなければならない。それまでにローガンの予定を調整してくれ」
「わかりました! 皆、すぐに動こう!」
「えぇ、所長にしかできない仕事を優先的にしよう」
イザックの提案に職員たちも慌てて準備を始めた。
「俺はリダ公爵家に早馬を送る」
手際のいいイザックに驚きつつも二人の絆を再確認する。
ローガンを慕う職員たちも前向きに協力してくれるようだ。
こうして二日後にローガンの拉致作戦の計画は実行されることになった。
その日の晩、マグリットはいつものように国王や王妃、前国王や王太后との晩餐会に参加する。
毎月の恒例行事にイザックと共に参加している。
高貴なオーラがキラキラしているが、一つだけ違うことがある。
今日はギルバートも参加しているということだ。
(うっ……視線が痛い)
チクチクと刺さる視線にマグリットは居心地の悪さを感じていた。
そのまま晩餐会は終わり、マグリットは城の一室に向かう。
いつもと同じ侍女がマグリットを丁重にもてなしてくれる。
ガノングルフ辺境伯領では、ミアが身の回りの世話をしてくれている。
自分のことは自分でやらなければとずっとモヤモヤしていたが、今は慣れてしまった。
マグリットも今は楽しみつつ侍女たちに任せられるようになった。
「マグリット様はお肌がすべすべですわ……!」
「スタイルもよくてコルセットいらずですわね」
「本当ですわ。うらやましい……!」
それは新鮮な魚や野菜、日本食のおかげだろう。
「そういえばガノングルフ辺境伯も最近ますますお若くなられたような……」
マグリットはその言葉に大きく頷いた。
彼は年齢不詳だ。
マグリットは美しさと若さが増したイザックのことを思い出していた。