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「ミアがいたら安心ね……!」
「はい、ミアがいたら大丈夫です! 必ず情報を掴みますから。僕に任せてください!」
「……かしこまりました」
オリバーは気合い十分だ。
ミアは「マグリット様とイザック様のためなら」と言っている。
マグリットは改めてオリバーに言わなければならないことがある。
(オリバーがいなければ餅は……お米の手がかりは見つからなかったもの!)
彼に向き直り、マグリットはオリバーの手を包み込むようにして握る。
オリバーは戸惑いつつ、頬がどんどんと赤く染まっていく。
それにはイザックも大きく目を見開いていた。
そのことに気がつくことなく、マグリットはお礼を言うために口を開く。
「オリバー、お餅を見つけてくれて本当にありが……!」
──バッ
オリバーに心からのお礼をしようと思ったマグリットだが、何故か視界が勢いよく後ろに下がっていく。
腹部に違和感を覚えた時にはオリバーの手が離れてしまう。
(…………あれ?)
マグリットは何が起こったのかわからずにキョトンとしていると、上から凄まじい圧を感じて少しずつ視線をずらしていく。
マグリットはイザックの初めて見る表情に驚いていた。
オリバーを鋭く睨みつけているイザックの姿があった。
「イ、イザックさん……どうしましたか?」
マグリットに名前を呼ばれてハッとしたイザックは力が込められていた腕を離す。
食い込んでいた腹部を撫でながら、マグリットは彼を見ていた。
「…………驚いた」
呟くようにいったイザックだったが、驚いたのはマグリットの方である。
エメラルドグリーンの瞳が左右に揺れ動いていた。
ひどく動揺しているように見える。
どのような意味で言っているのかわからないため、行動の真意を彼に問いかけた。
「あの……イザックさん、今のはどのような意味でしょうか」
「体が勝手に動いたんだ」
「…………え?」
「マグリットに……触れられたくなかったんだと思う」
「……!」
イザックの自分に問いかけるように確認している。
彼の発言にマグリットは衝撃を受けていた。
聞き間違いでなければ彼はオリバーにやきもちを妬いているということだろう。
マグリットの頬も徐々に赤く色づいていく。
オリバーはキャッキャと興奮するのを押さえるように口元に手を当てている。
それをミアが注意するように肘でつついているではないか。
マグリットも自分の勢いでの行動を反省しつつ唇を開く。
「き、気をつけます……!」
「いや……こちらもいきなりすまない。これからは気をつける」
ゴホンと誤魔化すように咳払いしたイザックは一歩後ろに下がる。
先ほどの続きを進めてくれと言わんばかりだ。
イザックの意図をなんとなくではあるが受け取ったマグリットはオリバーに向き直る。
「オリバー、本当にありがとう!」
「……い、いえ!」
「この食材が見つかるとは思わなかったから、本当に嬉しいわ! ずっと探していたの」
「…………」
オリバーは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
(嬉しい……! お米がこの世界にあるかもしれないなんて!)
醤油はダメになってしまったが、もち米からできているであろう餅を見つけることができたのだ。
米を諦めかけていたマグリットにとって朗報となった。
まだどこで育てているのか、誰が餅を持ってきたのかは謎は残るが未来は明るい。
マグリットがオリバーが手を合わせながら大喜びしている間も、イザックは胸元を押さえている。
彼が複雑な気持ちを抱えているとも知らないまま、マグリットははしゃいでいた。
小さく息を吐いたイザックはマグリットの肩に手をかける。
「……よかったな、マグリット」
「はい、イザックさん!」
マグリットと目が合うとイザックの表情が和らいでいく。
ミアはホッと息を吐き出した。
「ミア、一緒にここを片付けましょう」
「かしこまりました」
こうしてマグリットのジェットコースターのような怒涛の一日は過ぎていったのだった。
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