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09


「ここに嫁いでくるのはアデル・ネファーシャルだと聞いていたが……」


「はい。一週間ほど前に姉のアデルはとある令息と駆け落ちしていなくなったので、その身代わりというと言い方はよくないかもしれませんが代わりに私が参りました」


「……身代わり。そうか」



マグリットは怯んでいる場合ではないと男性の目があるであろう場所をじっと見ながら答えた。

ここでどんな反応を返されるのか気になるところだ。

マグリットはゴクリと唾を飲み込むと男性はスッと視線を逸らす。

暫く無言の状態が続いたが男性に屋敷の中に入るように促されて足を進めた。


(怖そうだけど、いい人なのかしら?)


テーブルと椅子がある広い部屋に通されて、マグリットは椅子に腰掛ける。

慣れた様子で男性は珈琲を注いでいた。


(……いい香り)


香ばしい匂いに思わず笑みが漏れる。

窓は草に覆われていて、外は晴れ渡っているのに中は薄暗くて不気味に感じた。

コトリという音と共に目の前にカップが置かれる。

屋敷に比べると部屋の中にあるものは高級そうなものばかりで真新しく感じた。



「いただきます」



マグリットはそう言ってからカップに口をつけた。

口に広がる複雑で深みがあり重厚な苦味と鼻を抜けるスモーキーな香り。

こだわりを感じさせるのは気のせいだろうか。


男性は自分の分も用意してマグリットの斜め前の離れた場所に腰をかける。

マグリットはまだ目の前の男性の名前すら知らない。

暫く沈黙が続いたが、このままだと何も解決しないと問いかける。



「あの、お名前は?」


「…………イザックだ」


「イザック様」


「イザックでいい」



イザックは表情を変えないままそう言った。

真っ白なシャツにダークブラウンのパンツにボサボサのオリーブベージュの髪は身なりからして使用人だろうか。

マグリットは辺りをグルリと見回してからイザックに問いかける。

明らかに年上のイザックを呼び捨てにするわけにもいかずにマグリットは気になっていたことを問いかける。



「イザックさん、ガノングルフ辺境伯はどこにいるのでしょうか」


「…………!」


「挨拶だけでもと思ったのですが……」



イザックの前髪の隙間から見えた宝石のようなエメラルドグリーンの瞳が大きく見開かれている。

イザックの反応を見てマグリットの頭にあることが過ぎる。


(もしかして触れてはいけない話題だったのかしら……ガノングルフ辺境伯は屋敷で働く人たちからも恐れられているとか?)


するとイザックは人差し指で頬をかいて気まずそうにしている。



「それは……その」


「イザックさん、大丈夫です!気にしないでくださいっ」


「え……?」



無理をさせてガノングルフ辺境伯のことを聞き出してはいけないとマグリットはニコリと笑った。

イザックはガノングルフ辺境伯のことを悪く言いたくないのだろうと勝手に解釈したマグリットは「大丈夫ですから」ともう一度言ってから力強く頷いた。

するとイザックの強張っていた表情が少しだけ和らいだような気がした。


(やっぱりガノングルフ辺境伯の話をしたくなかったのね)


「珈琲のおかわりは?」とイザックに言われたマグリットは素直に頷く。

部屋に立ち込めるいい香り、コポコポとお湯が沸く音がここまで届く。

イザックがテーブルに再びカップを置いた。

マグリットが御礼を言うと上から声がかかる。



「怖くないのか?」


「怖いって……何がですか?」


「ガノングルフ辺境伯は腐敗魔法を使うと聞いたことがあるのだろう?それなのに平然としている」



イザックはマグリットが怯えないことを不思議に思っているようだ。


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