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もち米を炊いて水分を多めにしながらつく。
冷たい場所で固め切り分けて風通りがいいところに干したものだ。
つまりどこかにもち米ではなく、うるち米を育てているのではないか……もしくはうるち米も育てられるのはではと期待してしまう。
(あんなに探しても聞き回っても、お米のことは誰も知らなかったもの……このタイミングでお餅が現れるなんて信じられないっ!)
もち米とうるち米を一緒に育てると花粉が混じってしまい、品質が落ちてしまうらしい。
離れた田んぼで植えるか、時期をずらすと隣の米農家のおじさんが言っていたことを思い出す。
(若干、作り方が甘いような気もするけれど……)
さすがのマグリットも祖父母と住んでいたが米農家ではなかったため、育て方や専門的な知識はない。
(こんなことになるんだったら、しっかりとお祖父さんの畑仕事と茂爺の米作りを勉強しておくんだった……!)
茂爺は近所に住んでいた米農家のおじいさんである。
よく畑の縁に座って、祖父と話していたので祖母の特製果実酒を届けていたことを思い出す。
まさか自分が異世界転生するとは思っていなかったので、すべての知識を得ているわけではないのが残念なところだ。
マグリットがギリギリ持っているもち米とうるち米の知識を懸命に振り絞っていた。
オリバーはおかきが気に入ったのか、パリッと気持ちのいい音を鳴らしている。
マグリットはそんなオリバーの元に向かい彼の肩を掴む。
自然と指に力が入っていき、ポロリとオリバーの口からおかきが落ちた。
「オリバー、この餅をもらった経緯を詳しく教えてちょうだいっ!」
「はっ、はい! もちろんですっ」
「絶対に絶対に……餅の出所を掴むのよ! 何があっても! 絶対にっ」
「はい、任せてください!」
「モチ……?」
ミアが首を傾げる。
オリバーはマグリットの血走った目を見て、首を勢いよく縦に振りながら頷いていた。
オリバーのワインレッドの髪が目の前でブンブンと揺れる。
ミアはおかきを空に掲げて観察していた。
騒ぎを聞きつけたのかイザックがやってきてマグリットを抱きしめるように止める。
「マグリット、オリバー、ミア、一体こんなところで何を……? 料理用具が何故こんなにあるんだ?」
「イザックさん……!」
マグリットたちの足元には、油の入った鍋や合わせ焼き網。
そしてナイフや餅や塩、皿などが無造作に散らばっている。
外でピクニックをしている雰囲気には見えないだろう。
「マグリット、何を作ってたんだ?」
「これは〝おかき〟です」
「オカキ……? また新しい食材か?」
やはりイザックも今までこのような食べ物を見たことがないらしい。
マグリットはイザックの元へ干し餅とおかきを持っていく。
彼は戸惑うことなくおかきと焼き餅を口にする。
マグリットと一緒にいることで見慣れない食べ物にも耐性ができたようだ。マグリットが作ったもの限定ではあるが。
イザックもオリバーとミア同様、そのまま食べた焼き餅には微妙な表情をしている。
味がなく食べ慣れないねっちょりとした食感は違和感があるらしい。
パリッとした食感のいいおかきは口にあったようだ。
「これはサクサクしてうまいな」
「小さな四角に切って揚げてみたら、また違った食感になると思いますよ。味も変えられるんです」
「……ほう。違う味も食べてみたいな」
イザックは茶色のカゴに入っているコチコチになっている白い塊を取って眺めている。
「お湯にくぐらせて味噌汁に入れても美味しいと思います。色々な食べ方ができますから!」
「なるほど! これは熱を入れて食べるのですね! だからそのままだとあんまり美味しくないのか」
「そのままでも食べれなくはないですけど……」
オリバーは納得は納得するように頷いている。
ミアは茶色のカゴに入った干し餅をコンコンと叩いて観察しているようだ。