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違うのではと思っていても期待してしまう。
マグリットは焼けていく白い塊を見つめながら、ゴクリと喉を鳴らした。
パチパチと鳴る白い塊からマグリットは片時も目が離せない。
次第にぷっくりと浮かびあがる半透明の膜を見て、目が血走っていく。
ほんのりと甘い匂いにマグリットは息を止めた。
(こ、これは……本当に餅なの? まさか…………夢?)
マグリットの記憶が正しければ間違いなく〝餅〟である。
乾燥してカピカピにはなっているのは干して乾燥した餅、干し餅だからだろう。
寒冷地で作られる保存食で、定食屋の常連さんが帰省した際に必ずお土産に干し餅を買ってきてくれたことを思い出す。
ついた餅を伸ばしてちょうどいい大きさに切り分ける。
吊るし編みにして大量の水に浸して寒さらしにするそうだ。
そのあと室内で干して一、二ヵ月かけて作られる。
まさかこんなところで餅に出会えるなんて予想外だ。
そして餅が焼ける間、ミアに油と塩を用意してもらい、オリバーに油の入った鍋を温めてもらう。
マグリットは餅らしきものをナイフで薄く切っていく。
(これを揚げて、アレが出来上がったら確定! どうしよう……緊張しすぎて胸が苦しいっ)
マグリットの心臓はドッドッと今までにないほどに音を立てていた。
焼き餅はミアに任せて、マグリットは油に薄く切った餅を入れていく。
油に入った瞬間、しゅわしゅわと音が鳴る。
魔法の便利なところは、温度調節が自由にできるところではないだろうか。
オリバーに火を少し弱めてもらうと、すぐに餅がぷっくりと膨らんでいく。
音が小さくなっていき、カラッとあがったものの油をきる。
薄めに切ったからか、すぐに揚がったようだ。
そして軽く塩を振る。
白かった餅は薄茶色に色づいて、食欲をそそる。
(これは……おかき、だわ)
丁度、餅も焼き終わったため二つを皿に並べる。
ミアとオリバーも熱を入れて姿が変わった餅を興味深そうに見ている。
「ミア、オリバー、食べてみてくれる?」
「は、はい!」
「わぁ……! すごい」
オリバーとミアにおかきを渡す。
二人と共に口に入れると、パリッという気持ちのいい音が鳴る。
マグリットもおかきを口に含む。
軽い食感と共に懐かしい甘さとしょっぱさのハーモニー。
たまらずに頬を押さえてしまう。
(本当に干し餅なのね……!)
それから焼いた餅を手で千切る。
先ほどまで岩の様に固かった白い塊が粘り気を持っているではないか。
マグリットは何もつけることなく、焼き餅を口にした。
「────ッ!」
もはや言葉はいらない。
これは間違いなく餅……餅なのだ。
記憶にある普通の餅よりも水分は少なく舌触りはよくないが水につければ、つきたてのような餅になるはずだ。
(この味を……ずっとずっと求めていたの!)
素朴で優しい味に涙が滲む。
懐かしい味は祖母がよく作ってくれた味にそっくりだった。
十七年ぶりの味にマグリットの目からは涙がボロボロと溢れていく。
「マグリット様、大丈夫ですか!?」
「オリバー、本当にありがとう……!」
「……えっ!?」
まさかオリバーもお礼を言われるとも思っていなかったのだろう。
涙するマグリットを見て困惑している。
「わたしが探し求めていた食材はこれじゃないけど、ほとんどこれなの……!」
「「……!」」
もうこの世界に米は絶対にないと思っていた。
だけど、もち米は確かにこの世界にあったのだ。
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