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窓の外を見ているといつの間にかポツポツと雨が降り始めた。
マグリットはミアと共に慌てて外に出る。洗濯物を取り込むためだ。
そこでマグリットはある違和感に気がついた。
「ねぇ、ミア……先週もこの時間に雨が降らなかったかしら?」
「たしかに。偶然にしては毎回、同じ時間に雨が降っていますね」
ミアに聞いてみると、やはり同じ時間に雨が降っているようだ。
「この雨……いつも数時間で止むんですよね」
「そうなのよね。本当に不思議」
マグリットとミアの予想通り、数時間後に雨がピタリと止む。
最初はマグリットが力を使っているのではないかと疑われたことを思い出す。
「ただいま戻りました……っ!」
ミアと洗濯物を畳んでいると、オリバーの声が遠くから聞こえた。
玄関へ向かうと、彼が全身濡れた状態で茶色のカゴを持って現れた。
カゴには真っ白な布がかかっている。
ミアが畳んでいたタオルを持ってオリバーの元へ。
「──オリバーッ、いい加減にしなさいよ!」
「待ってくれ、ミアッ! 僕はっ……ヘブッ」
タオルでオリバーの髪をガシガシと拭いているミア。
そのせいで彼は喋れないでいる。
髪を拭き終わったミアはオリバーの胸ぐらを掴む。
「マグリット様にこれ以上、気を揉ませるなんて許さないんだから」
「わ、わかった! 謝るから離してくれっ」
オリバーの胸元を掴みながら体をグラグラと揺らすミア。
マグリットは手を伸ばしたまま困惑していたが、このままではオリバーの身が保たないとマグリットが間に入る。
それから二人を宥めつつ屋敷の中に入った。
雨に濡れた洋服を着替えるように言うと、ミアに揺さぶられた影響なのかフラフラした足取りでオリバーは自室へと向かう。
マグリットは怒り心頭に発するミアを抑えていると、着替えたオリバーが「お待たせいたしました」と、茶色のカゴを持って現れる。
「オリバー、今まで一体どこに行っていたの?」
「シ、ショウユを探しに……」
どうやら醤油の代わりになるものを探して街を探し回ったり、商人に聞いて回っていたらしい。
「気持ちはありがたいけれど、醤油は手に入らないと思うわ。わたしも散々探したから……」
「……はい。いろんな商人から話を聞いて何かいいものがあったらと思ったんですけど……なかなか見つからなくて」
「オリバー……」
「本当に申し訳なくて、マグリット様に合わせる顔がありません」
再び瞳を潤ませ、鼻声のオリバーはまた泣きそうになっている。
オリバーの反省している、申し訳ないという気持ちが痛いほど伝わってくる。
「本当にごめんなさい……マグリット様」
「オリバー、もう気にしなくてもいいのよ?」
「ですが僕のせいでマグリット様の大切なショウユを……!」
「この件はもう終わり。醤油はまた作るから大丈夫。いつものオリバーに戻ってちょうだい……ね?」
マグリットが笑みを浮かべながらそう言うと、オリバーはポロポロと涙を流しながら頷いた。
ミアも何も言わずにオリバーとマグリットのやりとりを見守っている。
腕でゴシゴシと涙を拭ったオリバーは申し訳なさそうに茶色のカゴをマグリットに渡す。
「……これは?」
「珍しくて見たことないものが売っていたので、買ってみたのですが……」
オリバーが白い布を取ると、そこには真っ白でひび割れている平くて丸い塊が何個も並んでいた。
その中の一つは齧った跡がある。
マグリットは白く平くて丸い塊を手に取った。
あまりにも硬いため、トントンとそれを叩くとカンカンと音がする。
「オリバー、これを食べたの?」
マグリットが問いかけると、オリバーは頭を掻きながら口を開く。