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「イザックさん、朝ごはんは食べましたか?」
「いや、まだだ」
「まだなんですか!? どうして……」
「マグリットにずっと付き添っていたからな」
「……っ!」
イザックは気絶したマグリットが目を覚ますまでそばにいてくれたのだろう。
彼の優しさにマグリットの胸はキュンと締め付けられるような気がした。
イザックはいつもマグリットの気持ちを考えて動いてくれている。
それがくすぐったいようななんともいえない気持ちにさせた。
マグリットはイザックにしがみつくように抱きしめた。
そして無意識に溢れ出す気持ちを口にする。
「イザックさん、だいすきです……!」
「そうか、ありがとう。俺もマグリットを愛している」
「ぐっ……!」
今日もイザックの素直で天然な可愛らしい部分と包容力があり大人な部分にマグリットは振り回されていた。
マグリットにストレートに愛情を伝えてくるイザック。
最近イザックは、マグリットの前で色々な表情を見せてくれる。
半年前よりさらに雰囲気が柔らかくなったと言われるようになったそうだ。
街の人たちとも仲睦まじく話していく姿を見ているとマグリットは心が温かくなる。
マグリットはイザックを連れて、マグリットの専用キッチンへと移動する。
このキッチンはイザックがマグリットのために作ってくれた場所だ。
そこで昨晩焼いたパンを切ってバターやチーズ、ハムをカットする。
フルーツの皮を剥いて、市場で買ったヨーグルトを用意しつつ煮詰めたジャムを乗せながら手早く朝食の準備を進めていく。
(きっとミアとオリバーもまだ朝食を食べてないわよね……!)
ミアとオリバーの分もお皿にわけて載せていく。
イザックはいつものように珈琲を淹れてくれた。
この屋敷ではイザックとマグリット、ミアとオリバーの四人で暮らしている。
シシーとマイケルの代わりにミアとオリバーが来てくれたのだが、特に生活に大きな変化はない。
イザックは信頼している人しかそばに置きたくないと思っているそうで、人を増やすことに反対したからだそうだ。
屋敷は以前より広くなったものの、手入れができないほどではない。
マグリットは大好きな料理を担当させてもらい、ミアは掃除や洗濯。
オリバーは庭仕事や家のことなどをしてくれていた。
そこに庭山さんが加わり、騒がしくも賑やかな日々が続いていた。
「二人とも、どこに行ったんでしょうね」
「……そうだな」
朝食を食べ終えたマグリットとイザックだったが、いつになっても戻ってくることのないミアとオリバーを心配していた。
マグリットはどこかに行ってしまった二人の分の朝食を見つめながら珈琲が入ったカップを傾ける。
顔を洗いに行ったままミアとオリバーはどこに行ってしまったのか。
静かなので、屋敷の中にいないことは確かだ。
イザックはおかわりの珈琲を飲んでいたが、あることを話すために口を開く。
「そういえば一週間後には魔法研究所に行かなければならないな」
「もうそんな時期なのですね」
「……ああ」
マグリットは月に一度、王都にある魔法研究所に赴き、ローガンに会いにいかなければならない。
それはマグリットの持つ珍しい魔法の力を研究するためだ。
最近では貴族の魔力がない子どもたちが集まっているため、騒がしい魔法研究所内。
ローガンはマグリットのように目に見えない魔法を使うこともあるだろうと、子どもたちを注意深く観察している。
どんな魔法を使うのかわからないからだ。