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それからマグリットの新しい力は凝縮した高濃度の熱を放つという超危険なものだった。
イザックの腐敗魔法もかなりの威力らしいのだが、マグリットの魔法は一瞬で何もかもを融かしてしまう。
これから月一ペースで魔法研究所に通いながら使い方や扱いを模索することになる。
しかし今までにない魔法なことや、まだ未知な部分も多いため、この力を使うことをローガンから禁じられてしまった。
(この力ですぐに火が起こせそうだと思ったのに……残念)
ローガンによればアデルの結界もかなり強度があることがわかっており、色々な衝撃や魔法に耐えられるそうだ。
その結界を一瞬で腐敗させたイザックや熱で融かしたマグリットの強すぎる力が異常だと語った。
パーティーが終わり、マグリットはイザックと共に馬車でガノングルフ辺境伯領へと帰る。
今回からマイケルとシシーの孫たちが一緒に辺境の地に来てくれるそうだ。
新たにガノングルフ辺境伯領にやってきたミアとオリバーが加わったことにより屋敷は更に賑やかになった。
屋敷も領民たちによって新しく建て替えられている。
──半年後
「つ、ついに……できたわっ!」
マグリットは冷暗室に並んでいる様々なビンやバケツの中から一番古いものを取り出した。
半年前にイザックと共に作り出した味噌である。
うまくいくように願いを込めて今日まで面倒をみてきた味噌が完成したのだ。
外もすっかりと寒くなり、冷たい指でバケツを持ち上げようとすると後ろから大きな手が伸びる。
「イザックさん……!」
「やっとマグリットの夢が叶うのだな」
「はい、そうなんです!」
イザックはマグリットの代わりに重たいバケツを運んでくれた。
マグリットは新しくできた屋敷に作ってもらった専用のキッチンへと向かった。
キッチンにはネファーシャル子爵家にいる時から集めていた調理器具が並ぶ。
蓋を開けると薄い茶色のねっとりとした塊は食べ物には見えないのかイザックは眉を顰めている。
納豆の件もあったため「腐ってませんからね!」と訴えながら準備を進めた。
イザックと共に作った栄養たっぷりの肥料で育てた野菜を取り出して、水で洗い食べやすい大きさに切る。
鍋にはたっぷりの水と昆布にとても近い海藻が入っている。
シシーに火を起こしてもらい、適温を保ちながら煮出していく。
(いい匂いだわ。次は小魚で出し汁を取ってみましょう!貝を入れても美味しそうね)
次の味噌汁には何を入れようかと想像が膨らむ。
野菜を入れてから出し汁を煮たたせていく。
(次は豆腐作りにも挑戦してみたいわ。味噌汁や醤油に合うもの!)
火を弱めてからゆっくりと味噌を溶かしていく。
懐かしい匂いが漂ってくるとマグリットは鍋をかき混ぜながら涙が出そうになった。
(やっと、やっと夢が叶うんだ……!)
茶色の液体は艶々に輝いている。懐かしい香りに鼻を啜った。
十六年間、ずっと待ち望んでいた日本食が目の前にあった。
いい匂いのする味噌汁をテーブルに並べてイザックやマイケルとシシー、ミアやオリバーを集めた。
初めて見る料理に皆が興味深々のようだ。
「こちらがイザックさんのおかげで完成した味噌を使ったスープ、味噌汁です!」
「これが味噌汁……マグリットの夢が叶うのだな。どんな味がするのか楽しみだ」
「はい、イザックさんのおかげです!」
マグリットは感謝の気持ちからイザックを抱きしめた。
イザックも味噌汁の成功を喜んでくれている。
マグリットは味噌汁が入ったスープ皿の前で手を合わせた。
皿の上には少し歪んでいるが箸が置かれている。
この日のために木を削り割り箸を手作りしたのだ。
「いただきます……!」
マグリットは震える手のひらでスープ皿と箸を持つ。
唇をつけて味噌汁を流し込んだ。
口いっぱいに広がるコクと味噌汁の温かい香り。
ゴロリと入った野菜がじんわりと口内で溶け出していく。
飲み込んでから懐かしい味にホッと息を吐き出した。
マグリットの目からは感動で涙が流れていく。
あまりの美味しさに瞼を閉じてから天を仰いだ。
「最高……ッ!」
マグリットは今日、日本食を食べるという夢を叶えることができた。
そしてこれからも味噌汁を飲める幸せに喜びを感じている。
しかしそれも第一歩を踏み出したに過ぎなかった。
(次は醤油が出来上がるわ。それまでに絶対にお米を見つけるんだから!)
【第一部 味噌編】 end
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あとがき
こちらで【第一部 味噌編】一旦、終わりにさせていただきます!
まだ醤油の熟成が終わっておりませんので【第二部 醤油編】を書かせていただけたら嬉しいです。
鰹節、ぬか漬け、お寿司作り(米探し)に奮闘するマグリット。
イザックとの恋愛も進展していけたらと思っております。
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たくさんの感想をありがとうございます!
後ほど、返信いたしますので少々お待ちください。
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ここまで物語を読んでくださり大変嬉しく思います。
ありがとうございました!
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