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「今のは何……?」
「マグリットの新しい力か?」
イザックは不思議そうにしている。
ローガンがすごい勢いで人混みを掻き分けてくるのが見えたような気がした。
アデルは結界魔法が崩れた恐怖からなのかペタリとその場に座り込んで頭を横に振る。
目からは大粒の涙が溢れていく。
「なによ……!もうなんなのよっ!あんたのせいよ、全部ぜんぶっ」
そんなアデルの発言にマグリットはさすがに怒りを覚えた。
アデルを甘やかして育てた両親のせいもあるが、始まりは王命に逆らい自分の気持ちの赴くままに動いたアデル自身のせいではないのだろうか。
おかげでマグリットはイザックの下で自由になり夢を叶えることもできたのだが、だからといって自身の不遇をマグリットのせいにするのは明らかに身勝手だ。
現実を受け入れようとせず相手の気持ちを無視して動いた結果ではないだろうか。
「全部、自分で招いた結果よ……アデルお姉様」
「……ッ!」
アデルは床を叩きながら大声で泣き出してしまった。
その姿はまるで癇癪を起こした子供のようだ。
いつの間にかネファーシャル子爵たちは騎士たちに囲まれていた。
顔を真っ赤にした国王が顔を歪めながら「捕えろ」と指示を出す。
アデルだけは「わたくしにこんなことをするなんて許されないわ!」と泣きながら暴れていたが、ネファーシャル子爵と夫人は無抵抗でズルズルと会場から引きずられていった。
これだけの騒ぎを起こしたネファーシャル子爵にもう次のチャンスはないだろう。
マグリットは扉を見ているイザックに改めて言いたいことがあった。
「イザックさんの力は本当に本当に素晴らしいものを生み出せる特別なものですから……!わたしにはイザックさんの魔法がまだまだ必要なんですっ」
「……!」
「イザックさんはわたしの最高のパートナーです!」
マグリットは先ほどのアデルの言葉でイザックが傷ついたのではないかと不安だった。
しかしイザックはマグリットを抱きしめた後に軽々とお姫様抱っこをする。
「イザックさんっ!?」
「ありがとう、マグリット」
慌てて首に手を回すとイザックの笑顔が見えた。
「マグリットは俺の太陽だ」
そう言ってイザックはマグリットの額にキスをすると周囲から拍手が巻き起こった。
ベルファイン国王とイザックから貴族たちに向けてマグリットの力について説明していく。
そしてマグリットがイザックの婚約者になった経緯も明かされるのと同時に、ネファーシャル子爵たちの罪が暴かれていった。
マグリットは魔力がないからとネファーシャル子爵家の使用人として働かされていたこと。
アデルの身代わりにイザックの元に行ったことでマグリットの魔力と魔法研究所に行かなかった経緯が判明したことからネファーシャル子爵家に罰を与えることが発表された。
パーティーが終わり、マグリットのことが大々的に広まったおかげか、魔力なしとして酷く扱われていた貴族の子供たちが次々と魔法研究所に現れた。
ローガンはその子供たちがどんな力を持っているのかを調べるために大忙し。
マグリットも自分のような思いをする子供が減って嬉しく思っていた。
もちろん子どもたちを隠し虐げていた貴族たちは罰を受けることになるが、ネファーシャル子爵たちのようになることだけは避けたかったのだろう。
ネファーシャル子爵たちはそこら中から借金をして、領地の経営も立ち行かなくなり異常な税収も露呈。
屋敷をやめていった侍女や料理人たちの証言によって悲惨な状況や過酷な労働を押し付けられたことも暴露されて、パーティーでの失態も加わり爵位を剥奪された。
これからは平民として国のために尽くさせるそうだ。
しかし平民になったとしても魔法を使うことはできてしまう。
魔法の力で悪さができないように監視されながら国のために働くことになる。
国王はアデルや父や母がマグリットに接触できないように別々の場所に三人を追放したので、もうマグリットがあの三人に会うことはないそうだ。
それを聞いたマグリットはなんだかホッとした気分だった。