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05


侍女のレイの話によればアデルが嫁ぐのは王弟……つまり今の国王の一番下の弟。

両親の悲願だった王族の仲間入りである。

それだけ聞けば何故アデルがここまで逃げる必要があるのかと問いかけたいくらいだ。

年も二十八歳でアデルは十八歳なので貴族社会では珍しくない年齢差だろう。


彼は早々に王位継承権を破棄して辺境の地へと赴いた。

今ではガノングルフ辺境伯の地位を賜ったものの社交界には滅多に顔を出さない変わり者だそうだ。

海に面しているのだが船でも森を抜けた陸路でもベルファイン王国に立ち入ることはできない。


彼が辺境の地に住み始めてから鉄壁の守りを誇っている。

その理由はガノングルフ辺境伯が使うこの国で唯一の魔法が畏怖の対象らしい。

それが〝腐敗魔法〟。すべてを腐らせてしまう恐ろしい魔法だそうだ。

何もかも腐らせてしまい骨すら残らない。


他の国からもガノングルフの名は恐れられているらしいが、そんな事情を魔法をまったく使えないマグリットが知るはずもなく初耳だった。


(そんなすごい魔法があるなんて。まったく知らなかったわ……)


だがネファーシャル子爵家にとっては、とんでもないチャンスといえるだろう。

両親はアデルの気持ちよりも子爵家の名誉を選んだようだ。

しかし今まで甘やかされてきたアデルには耐えられなかった様だ。



「どうやらアデルお嬢様の結界魔法がイザック様と相性がいいと国王陛下は考えたみたいよ」


「相性がいい?腐敗させる魔法と結界魔法が?」


「何もかもを腐敗させてしまうというガノングルフ辺境伯はアデル様の魔法があれば万が一のことも防げると考えたんじゃない?」


「ああ、結界魔法で身を守れるってことね」


「それに二人に子ができれば珍しい魔法を引き継ぐこともできる……少し考えればわかることよ。アンタは相変わらず何も知らないのね」



レイは苛立ちを滲ませた声でマグリットに話している。



「ガノングルフ辺境伯の力は恐れられているわ。それよりもこのきったない髪、どうにかならないのかしら」


「ああ、ごめんね。忙しくて手入れしていないの」


「チッ……なんで私がこんなことをしなくちゃいけないのよ」



淡々と手を動かしてマグリットの絡まってゴワゴワになった髪をレイは舌打ちしながら梳かしている。

アデルの魔法は珍しくはあるが決して大きい力ではない。

国全体や周囲に影響を及ぼすものではなく、自分の身を守れるような防壁を張れるだけだ。

最近ではそれを薄く膜のように伸ばせるようになったらしいがそれだけ。

だが腐敗魔法を防ぐことには使えると国王は考えたのだろう。



「旦那様の話によればガノングルフ辺境伯を恐れて誰も令嬢たちは近づかないと言っていたわ……!触れれば腕が腐り落ちるなんて噂もあるからね」


「へぇ、そうなの」


「そんな噂を聞けばアデルお嬢様だって怖がるに決まってる。それにアンタは捨て駒なのよ。わかる?」


「……まぁ」


「チッ……精々、気に入られて殺されないように気をつけることね」



そんなレイの話を聞いても実感がないからか自然と恐怖は湧いてこない。

貴族と会ったことがないマグリットはほとんど魔法を目にしたことはない。


(ガノングルフ辺境伯は人に触れられないということ?なら私は一体、どうなるのかしら)


腐敗魔法を使うガノングルフ辺境伯の元に、何も抵抗する術を持たないマグリットを身代わりするのだから両親にとって、どうでもいい存在なのだろう。

しかし蔑ろにされすぎて悲しいという気持ちもない。


本来はアデルが嫁ぐ予定だった場所にマグリットが行く。


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