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「もちろん断りの手紙を書いた。先ほど手紙を早馬でネファーシャル子爵家に届けるための準備を済ませた」


「え……?」


「マグリットにはずっとここにいてほしい。それにゆくゆくはふっ、夫婦に……ゴホンッ」



イザックが何かゴニョゴニョと口ごもっていたが、マグリットはイザックの行動に感謝していた。



「……イザックさん、ありがとうございます!」



マグリットを気遣い、こんなにも早く対応してくれたこと。

それからマグリットにここにいてほしいとイザック自身がそう言ってくれたことが何よりも嬉しかった。



「つまりは、その……俺はこれからもマグリットと共にいたいとそう思っている」


「イザック様……!」



イザックの温かい言葉にマグリットの目にはじんわりと涙が浮かぶ。

こんなにも居心地がよく幸せな日々が送れるのは間違いなくイザックのおかげだろう。



「わたしもイザックさんと一緒にいたいです!」


「……マグリット」



イザックの大きな手のひらがそっとマグリットの頬を撫でた。

背の高いイザックを見上げるように見つめ合う。

エメラルドグリーンの瞳は宝石のように美しい。

マグリットはイザックと共に一緒にいたいと思っていた。

ここから離れたくない、そう強く思うのだ。


もしかしてこの居場所をアデルにとられてしまうかもしれないと弱気になったマグリットだったが、ここで諦めてしまうのはもったいない。

 

(まだ味噌と醤油が出来上がっていないわ!彼らを見届けるまで何があってもここにいるんだからっ)


マグリットは気合い十分で荒く鼻息を吐き出した。



「俺はマグリットと結婚を……」


「──だってまだまだ作っていない調味料がたくさんあるんですもの!」



イザックの言葉を遮ってしまったような気がしてマグリットは問いかける。



「イザックさん……今、何か言いましたか?」


「…………。いや、なんでもない」



やはりイザックの言葉を遮ってしまったようだ。

マグリットが確認するように聞き返すが、イザックは「なんでもない」と首を横に振る。



「安心していい、と言いたかったんだ」


「……!」


「それにまだマグリットの夢を叶えている最中だからな」



イザックの言葉にマグリットは喜びを噛み締めていた。



「こんな風に夢を叶える手伝いをしてくれるイザックさんには感謝してもしきれません!」


「俺の力で調味料が作れるなど興味深いからな。どんなものが出来上がるのか最後まで見届けさせてもらおう」



そう言ってイザックは微笑んだ。

美しいイザックの端正な顔立ちに見惚れていると、遠くから食事ができたと知らせてくれた。

マグリットとイザックは荷物を持ち上げて一緒に屋敷に向かった。


三日後、マグリットは醤油諸味を作り容器に入れる。

そして様子を見つつ容器を振ってかき混ぜていくのだが、大量に作ろうと欲張ったため重たい中、最初の一週間は汗だくになって混ぜていた。

見かねたイザックが混ぜるのを手伝ってくれたのだが……。



「この不思議な液体が出来上がるまで、今度はどのくらいかかるんだ?」


「そうですね……醤油は一年以上かかりますよ!」


「一年、だと!?長すぎないか?」



イザックの驚く声にマグリットは頷いていた。

子供の頃、祖母が味噌や醤油を仕込むのを見ている時にマグリットも同じことを言っていた。

しかし時間や手間をかけた分、出来上がった時の喜びもひとしおである。

懐かしい醤油の味を思い出すとよだれが止まらない。


(納豆や焼き魚に醤油を垂らして……最高だわ)


待っている時間にまた新しい調味料を作ろうと思っていた。



「マグリットが作るものは不思議なものばかりだな」


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