41.ネファーシャル子爵side6
結界を張れる唯一の魔法を持つアデルの特別感などすっかりと消え失せてしまう。
まるで夢から覚めたようだ。
(どうにかせねば……っ!)
ギリギリと歯を噛み締めていると同時にあることを思いつく。
(元に戻す……つまりアデルがガノングルフ辺境伯に嫁げば何もかもが元通りになるのではないか!?)
急いでアデルと妻の元に向かうと、アデルは「もうこんな生活は嫌よっ!」とヘタリ込んで泣き喚いている。
しかしあまりにも悲惨な現状にこちらが泣きたい気分になる。
涙と鼻水を流すアデルの肩を掴んで説得するように言った。
「アデル、よく聞け!今からガノングルフ辺境伯の元に嫁げばいいんだ!」
「お父様、何を言っているの!?」
「急にどうしたの!?アデルが嫁ぐって……」
「そうすればすべて元通りになる!生活も地位もすべてだ」
「で、でもぉ……ガノングルフ辺境伯はとても恐ろしいのよ?腐敗魔法を使うなんて怖くて近づけないわ」
「ならずっとこの生活を続けるしかないな」
「え……?」
アデルはその言葉を聞いて唖然としている。
こうなる前は何をしていても可愛いと思っていたアデルの無知で馬鹿なところが気に障って仕方ない。
もしマグリットだったら……そう思ってしまう自分がもっと嫌だった。
「アデル、お前があの愚かな男と駆け落ちしたことによって、結婚したいという令息は一人もいなくなった」
「そんな……でもわたくし、こんなつもりじゃ」
アデルを責めるように言うと、唇を噛んで手のひらを握り込む。
先ほどのパーティーで惨めな思いをしたことで、やっとことの重大さがわかったのか反省するように瞼を伏せている。
「ずっとこのままでいいのならば構わない」
「嫌っ、このまま落ちぶれていくなんて嫌よ!」
「アデルの代わりにマグリットが向かい、ガノングルフ辺境伯はアイツを気に入ってしまった」
「なんですって……?」
アデルはマグリットの名前を聞いて表情を曇らせた。
「もう遅いのかもしれない。我々はこのまま貴族ではなくなるだろうな」
「……ッ!?」
「マグリットは貴族になり、お前は平民になる」
アデルにこんなにも厳しいことを言うのは初めてだった。
今までずっと下に見ていたマグリットよりも自分は下になってしまうということが信じられないのだろう。
アデルの絶望する表情にニヤリと口端を歪めた。
「だからアデル、覚悟をしてくれ」
追い詰められたアデルはなんて言うのか、簡単に想像することができる。
「そんなのおかしいわ!本当はわたくしが嫁ぐ予定だったのにっ!」
「ああ、本来ならばアデルが嫁ぐはずだった。マグリットは快適に暮らしていることだろう」
「……っ、わたくしがこんな目に遭うのも全部ぜんぶマグリットのせいよ!」
次第にアデルの怒りはマグリットへと移っていく。
「ガノングルフ辺境伯は国王が溺愛する弟だ。その意味がわかるか?以前も言ったが王族に仲間入りするチャンスだったんだぞ!?」
「わたくしが王族……?」
アデルの表情は徐々に明るいものになっていく。
「ガノングルフ辺境伯へ手紙を送ろう!本来ならば嫁ぐのはマグリットではなくアデルだったのだから。これで元通りになる」
「そうすればわたくしは元の生活に戻れるんだわ。そしたら今日わたくしを笑ったあの子たちも見返せる……みんなに笑われたりしないのよ」
アデルはブツブツと呟きながら考えを整理しているようだ。
今まで特別扱いされていたアデルにとって、この生活や扱いは耐え難い屈辱らしい。
(マグリットはネファーシャル子爵家にいてもらわねばならない!あいつは役に立った……!)
アデルが嫁げばガノングルフ辺境伯から金が手に入る。
同時にネファーシャル子爵家の地位も回復するはずだ。
マグリットが使用人として戻ってくれば新しく使用人を雇う必要はなくなり金がかからない。
(この計画は完璧だ……!こうすれば問題ないっ)
すぐに書斎に走り、ガノングルフ辺境伯の元に手紙を書いた。




