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「やっと直接お礼を言えます。荒れ果てた土地を十年足らずでこんな栄えた街にしちまうなんて……!」



街の人たちは次々にイザックに感謝を伝えていく。

すさまじい熱量にマグリットは圧倒されていた。

皆の言葉はイザックを恐怖して追い立てるものではない。

その功績を称えるものばかりだった。



「おーい、みんな集まってくれ!ガノングルフ辺境伯だ。日頃のお礼を言うチャンスだぞ」


「おぉ、やっと領主様が顔を見せてくださった!」



イザックがここにいると呼ぶ声と共に、さらに人が増えていく。

マグリットもその様子を見つめながら呆然としていた。

シシーやマイケルはこうなることがわかっていたのだろうか。手を合わせて喜んでいる。



「領主様、ありがとう」



すると小さな子供たちが複数人、人混みの中から前に出てアピールしている。

小さな花をイザックに渡そうと一生懸命腕を伸ばしていた。

イザックは花を持つ子供たちの前に行くと跪いて、丁寧に花を受け取ると恐る恐るではあるが優しく頭を撫でた。

子供たちは誇らしげに満面の笑みを浮かべている。


それからイザックは集まっていた人々に案内されるがまま街を回り話をしていた。

感謝の気持ちを伝えたいのか店の前に行くと大量の差し入れを渡される。

マイケルやシシーに手伝ってもらいつつ、マグリットも持ちきれないほどの果物や魚、花やパンに肉に雑貨などが渡されていく。


イザックのおかげでこんなにも市場が賑わい、街が発展して幸せな生活を送れるのだと、お礼を言いたかったそうだ。

そろそろ荷物が持ちきれないという時にマイケルとシシーは「先に屋敷に戻ります」と言って背を向けた。


先ほどの子どもはイザックが建てた新しい孤児院の子供たちだそうだ。

後ろから神父とシスターが涙ながらにイザックにお礼を言っている。

イザックがずっと避けていた街の人たちは怯えるどころか彼に感謝していた。

中にはイザックと共に十年前に戦地に赴いた人もいたらしく、魔法の力を知っていたとしても態度を変えることはなかった。

「誰も傷つけることなく、場を収めた神のような方だ」と言って、涙ながらにイザックの前で手を合わせていた。


人が溢れすぎて大変なことになっていたため、噴水がある街の広場に移動する。

そこではイザックにお礼を言うために行列ができるほどだった。

マグリットは子どもたちと遊んだ後に噴水に座りながらその様子を見ていた。


どのくらい時間が経っただろうか。

日が落ちて皆が手を振って去っていく中、イザックはその後ろ姿を最後まで見送っていた。

子どもたちも神父やシスターに連れられて元気よく去っていく。

マグリットは手を振り終わり、横にいたイザックに声を掛ける。



「イザックさん、よかったですね!」


「……」



返事をしないイザックが気になり顔を覗き込もうとすると真っ暗になる視界。

抱きしめられていると気づいたのはお日様の匂いといつも飲んでいる珈琲の匂いがほんのりと香ったからだ。



「イ、イザックさん……?」


「俺が皆にこんな風に思われていたなんて驚きだ」



イザックの背に手を回してマグリットは微笑んだ。



「わたしがイザックさんを慰める必要はなさそうですね」


「ああ、むしろお礼を言わせてくれ」


「今までイザックさんが皆さんのためにがんばってきたからですよ」



マグリットを抱きしめるイザックの腕が強まった。

イザックは真実を知れて嬉しかったことだろう。

抱きしめていた腕がそっと離れる。イザックの表情はいつもより柔らかい。



「マグリット、そろそろ屋敷に戻ろう」


「はい、お腹も空きましたね」


「確かにそうだな」


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