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「マグリット様、私が……」


「わたしがやります。シシーさんは王都からの長旅で疲れていると思うのでゆっくり休んでいてください」


「マグリット様……!」 



涙もろいのかハラハラと涙を流すシシーにマグリットは戸惑っていた。



「マグリット様が素敵な方でシシーは嬉しいです。イザック様にもやっと運命の出会いが……っ!」



ハンカチで口元が覆われているのか話し声がよく聞こえない。



「シシーさん、大丈夫ですか?」


「このシシー、お二人が幸せに結ばれるまで死ぬわけにはいきませんからっ!」


「???」



その後、シシーに料理のことを聞きながらマグリットは真剣にメモしていた。

この場所でずっと料理を作っていたシシーは現地の食材に詳しくマグリットは次々に質問しながら知識を蓄えていく。


レシピ本には載っていない様々な知恵や時短するためのテクニックやイザックの好物などを教えてもらった。

「是非、作り方を教えてください」とマグリットが頼むとシシーは「もちろん」と答えてくれた。


マグリットが生で食べられる魚がないかと言ったのにはさすがに引かれてしまったが、魚屋の店主も同じ反応をしていたことを思い出す。

魚は煮るか焼くかが主流で生で食べることは滅多にないそうだ。

それからイザックが串焼きを初めて食べた時の話をする。

「イザック殿下には丸ごと焼いた魚は出したことないですねぇ」と、そんな話で盛り上がっていると遠くから二人が歩いてくる声がする。



「マグリット、待たせてすまなかった」



イザックの声が聞こえて振り向くとそこには知らない人が立っていた。



「えっ……?」


「久しぶりに着ると窮屈だな」



オリーブベージュの髪はサッパリとして切り揃えられて、今まで髪に隠れていたはずの涼やかな切長の目元が見える。

モサモサしていた髭はなくなり、綺麗な肌が露わになっていた。

違和感があるのか顎を摩りながら現れた美しい男性に目を奪われてしまう。



「マグリット、どうかしたか?」


「イッ、イッ……!」



服装がいつもと違うことも要因だろうが上品で美しく高貴な姿を見ていると、先ほどまでの彼はなんだったのかと問いかけたくなる。

驚きすぎてマグリットの口はあんぐりと開いたままだ。

マグリットがゆっくりと指をさすようにして腕を上げる。

目の前には別人のようなイザックの姿があった。



「───イザックさんですかッ!?」


「ああ、そうだが?」



イザックは当たり前のように頷いているが、まるで魔法のように印象が変わっていた。

以前よりもずっと若々しく見えるのは髪と髭を整えたからだろうか。

元々、童顔なのかイザックは二十八歳にしては若々しく中性的だ。


(イザックさん、美しすぎるのでは……?)


これが皆から恐れられているガノングルフ辺境伯なのだろうか。

今ならベルファイン国王がブラコンになる理由がよくわかるような気がした。


(まさかこんな美貌を隠し持っていたとは……)


あまり外に出ないのか白い肌に薄く形のいい唇。

ずっと隠れていた目元が露わになったことでエメラルドグリーンの瞳は宝石のように輝いている。

いつもは猫背気味なのに、服のせいか背筋が伸びてスラリと背が高く見えた。

端正な顔立ちのイザックにマグリットは圧倒されていた。



「マグリット、行こうか」


「あ、あの……」



差し出される手を掴むのを躊躇ってしまう。

イザックはマグリットにいつものように勢いがないことを不思議に思っているようだ。



「どうかしたか?」


「今までのイザックさんと違いすぎるので……眩しくて」


「眩しい?」



なんとなく目が合わせられずにいたマグリットだったが目の前でイザックが屈んだような気がして視線を戻す。

スッとマグリットの手のひらを掬うように握ったのはいつもと同じ手だ。


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