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マグリットの言葉に後押しされたのかイザックは小さく頷いた。

シシーとマイケルが嬉しそうに声を上げる。



「そうと決まればイザック様、身なりを整えましょうか!」


「……!」


「随分とほったらかしていたようで私は我慢なりませんぞ」


「ああ、わかっている」



マイケルは有無を言わせない笑みを浮かべながらイザックの身なりを整えようと圧をかけてくる。

イザックは前が見えないほどの髪に覆われていて髭も伸ばしっぱなしである。

髭は一カ月前よりもさらに伸びており、髪も邪魔そうだ。

イザックはハサミを持ったマイケルに背を押されるようにしてどこかへと向かった。


リビングルームにはシシーとマグリットの二人きりになったが、すぐにシシーがマグリットの前にやってきて涙を浮かべながら手を握る。



「イザック様があんな風に考えを変えてくださるなんて……すべてマグリット様のおかげですわ」


「あの、シシーさん。わたしはイザックさんに使用人として雇ってもらっているので〝様〟をつけなくても大丈夫です」


「いいえ、マグリット様はイザック様をこんな風に変えてくれたお方、恩人ですわ!」


「恩人だなんて大袈裟です。わたしの方こそイザックさんにここに置いていただいて感謝しています」


「シシーは嬉しいのです。幼い頃からイザック様を見てきましたが、あんなに前向きで幸せそうに笑うイザック様をはじめて見ましたから」



シシーは本当に嬉しそうに手を合わせた。



「それに国王陛下はずっと一人で過ごしているイザック様を心配されていました。イザック様がこうして私たち以外に心を許して共に過ごしたことが奇跡なのです!」


「……シシーさん」


「きっとアデル様ではこうはならなかったでしょうね。マグリット様は身代わりでこられたとおっしゃっていましたが……」



シシーの心配そうな視線を感じてマグリットは困ったように笑いながら頷いた。

マグリットはネファーシャル子爵家の娘としてアデルの代わりにガノングルフ辺境伯の元に嫁いできたのだ。

そして追い返されそうになったが使用人として働く代わりにここに置いてもらっている状態だ。

イザックはずっと使用人だと思っていたので、夫婦というよりは友人のような雰囲気だった。


(イザックさんはわたしのことをどう思っているのかしら……ただの使用人って感じよね?)


ベルファイン国王はアデルではなくマグリットがここに居座っていることを聞けば驚くだろう。



「国王陛下はアデル様と強引に結婚させようとしたことでイザック様に嫌われたのではないかと、それはそれは心配なさっていて……」


「……な、なるほど」


「それに侍女たちが皆、逃げ帰ってきたと知った時は荒れていました。自分がイザック様の元に今すぐに行くと聞かなくて引き留めるのが大変でしたよ」



シシーの話を聞いている限りではベルファイン国王がイザックをとても心配していることがわかる。

イザックはとにかく最低限の手紙しか寄越さずにベルファイン国王を困らせているそうだ。

ベルファイン国王は重度のブラコンだそうで十歳下のイザックをいつも心配していると聞いて驚いていた。


たまに前国王や王太后たちが旅行がてらイザックを心配して見にくるそうだがそれも年に一回ほどだ。

辺境に住んでいることも含めて、社交の場にも滅多に顔を見せないイザックを心配しているそうだ。

シシーは「イザック様が無事だったと、早く国王陛下に手紙を送りたいですわ」と言っている。

シシーはアデルとイザックの様子を見てくるように頼まれていたのだと語った。


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